2016/12/25

勝手にコトノハ映画賞(2016)


《外国映画部門》
●最優秀作品賞
『アスファルト』(製作国:フランス/監督:サミュエル・ベンシェトリ)
※この詩的で温かい世界に乾杯!

●優秀作品賞
『帰ってきたヒトラー』(製作国:ドイツ/監督:デヴィッド・ヴェンド)
『孤独のススメ』(製作国:オランダ/監督:ディーデリク・エビンゲ)
『手紙は憶えていた』(製作国:カナダ、ドイツ/監督:アトム・エゴヤン)
※アウシュヴィッツで家族をナチスの兵士に殺された過去をもつ90歳の老人(初期の認知症を患っている)が、1通の手紙を手掛かりに「ルディ・コランダー」の名を持つ4人の容疑者を追う70年越しの復讐劇。眠りから覚めるたびに記憶がリセットされる主人公の混乱が、シンプルな筋立てに異様な屈折を描き、そこにホロコーストという歴史的な悲劇が絡んで……という至極のサスペンス・ミステリーにして歴史の重みを感じさせる作品。重層的かつ予測不能な複雑な展開、小物を駆使した細部の研ぎ方、そして程よいユーモアなど、まるでヒチコック映画を観ているような気分で堪能させてもらった。
●監督賞
サミュエル・ベンシェトリ(『アスファルト』)
●脚本賞
ベンジャミン・オーガスト(『手紙は憶えていた』)
※巧みな伏線・暗示。そして驚愕のラスト…お見事!の一言。

●主演男優賞
オリヴァー・マスッチ(『帰ってきたヒトラー』)
※その皮肉さに背筋が寒くなったコメディー映画の主役。
レオナルド・ディカプリオ(『レヴェナント』)
※その過酷さに全身が強張った伝記映画の主役。
●主演女優賞
ルゥルゥ・チェン(『若葉のころ』)
※台湾青春映画のヒロイン。おかっぱ頭に澄んだ瞳……50年前の日本によくいたような。

●助演男優賞
ジュール・ベンシェトリ(『アスファルト』)
※「大女優」の孤独を包み込む、その柔らかな存在感。フランス映画界の次世代スター誕生か?

●助演女優賞
タサディット・マンディ(『アスファルト』)
※アラブ系女性の慈悲深いまなざし。彼女の作る「クスクス」を食べたくなった。
●特別賞
『若葉のころ』(製作国:台湾/監督:ジョウ・グータイ)

 
《邦画部門》
●最優秀作品賞 
TOO YOUNG TOO DIE 若くして死ぬ』(監督:宮藤官九郎)
※今年一番楽しめた日本映画…ということで。

●優秀作品賞 
『永い言い訳』(監督:西川美和)
※この監督だからこそ描ける心情のリアリズム。

●監督賞
宮藤官九郎(『TOO YOUNG TOO DIE』)

●主演男優賞
本木雅弘(『永い言い訳』)※人間は複雑。モックンは上手。
森田剛(『ヒメアノ~ル』)※剛くん、リアルに怖かった!
●主演女優賞
該当者なし

●助演男優賞
柄本明(『モヒカン故郷に帰る』)※柄本明の独り舞台といってもいい映画。

●助演女優賞
深津絵里(『永い言い訳』)※僅かな時間で確かな存在感。ますますキレイな、深津ちゃん。
キムラ緑子(『続・深夜食堂』)※息子(池松壮亮)への思いあふれる「まずい!」の一言。
●長編ドキュメンタリー映画賞
『大地を受け継ぐ』(監督:井上淳一)

●特別賞
『君の名は。』※何と言っても、アニメーションの素晴らしさ。
『続・深夜食堂』※人情“薫る”ドラマ定食1100円(シニア料金)

2016/12/24

夢の欠片集めて



空を眺め佇む/羽のない鳥がいる/水のない川を行く/櫓のない船を漕ぐ

キミはいつも/冷たい雨に打たれ/傘もささずに/旅をする

波音に消えた恋/悔やむことも人生さ/立ち止まることもいい/振り向けば道がある

だからボクが/夢の欠片集めて/キミに捧げる/歌がある


その優しく綴られるメロディを聴いているうちに、じわっと涙腺が緩んだ。

この年の瀬、しかも、クリスマス間際に、こんなに素晴らしい曲に出会えるなんて、まだまだ人生も捨てたもんじゃない。

というわけで、一夜にして、数ある桑田クンの曲の中でも、私にとって1、2を争う名曲となった『君への手紙』……還暦を迎えた天才からの“最高のプレゼント”に、ただただ感謝したい。

 

2016/12/18

年の瀬に…



これほど仕事に追われるのは何年ぶりだろうか。(“最後の一花”かもしれないけれど)

厳しい状況下にある中小広告代理店や制作会社も多いご時世、フリーランスの身分で「仕事が忙しくて…」などとほざけるのは甚だ幸せなことなのだが、この1カ月、他の事にほとんど意識を向けず突っ走ってきたせいか、さすがに少し息が切れてきた。

で、とりあえずコピー制作的に落ち着いたこともあり、気分転換と脳リフレッシュを兼ねて『続・下流老人』(藤田孝典著/朝日新書)を読みはじめたのだが、ほどなく、「明日は我が身」という厳しい現実を突きつけられ暗澹たる気分に……

この本によれば「一億総活躍社会」という一見明るげなスローガンも、「生涯現役社会の実現」という耳触りの良い政策も、裏を返せば年金・介護など社会保障制度の脆弱さに手をつけられない(つけたくない)政府の無策さを体よく表しただけのこと。“総活躍”どころか「高齢者が死ぬまで働き続けなければ社会を維持できない“総疲弊”社会」が間近に迫っていることを改めて思い知らされてしまった。

つまり、退職金もなければ、貯蓄もさほどない下流老人予備軍である私(たち)に余生はない(言い換えれば「働かなくてもいい自由」がない)ということ。私もアナタも病気で働けなくなったら、即、貧老にまっしぐら。のんびり趣味に生きるセカンドライフなど、まぼろし~!…というわけだ。

ああ無情。

ちなみに、「社会保障が整備されていない国ほど、高齢者の就業率が上昇する傾向にある」そうで、OECD(経済協力開発機構)の「高齢者の就業率の国際比較」(2013年調べ)によれば、高齢者の就業率はフランス2.2%、ドイツ5.4%、イギリス9.5%、アメリカ17.7%、そして日本は20.1%で実にフランスの9倍以上。いまの日本では「高齢期になっても働くのが普通になりつつある」が、どうも世界的に見ると“普通”ではないらしい。

そんな国で暮らしていながら、減らされる年金に文句も言わず「こんな年でも働ける場所があるだけ、幸せじゃないか」などと、時給1000円にも満たない安い賃金で働く自分を納得させている日本の高齢者は、なんと健気なことだろう。
(賃金についても、20135月に国連の社会権規約委員会から「日本の最低賃金の平均水準は、最低生存水準および生活保護水準を下回っている」懸念が表明され、最低賃金の再検討を求められたとのこと)

というわけで、今さらながら「ったく、どうなってんだ、この国は!」と、腹も立ってきたが、おかげで数年後の自分のテーマが見えてきた感じ。早速、旧知の仲間が集まる忘年会あたりで「下流老人の抵抗・反乱はどうあるべきか」を一緒に考えてみたい気がする。(まあ、楽しい酒の席。何を話し合おうが、酔いが回ってすぐに忘れるだろうけど)


2016/12/07

少しだけ近況報告



いよいよというか、ようやくというか……年明けにスタイリストとして独立するという愚息が、師匠との最後の?仕事を終えて、イギリス・ロンドンから帰ってきた。

おみやげは、紅茶、チョコレート、そしてキューバ生まれの画家ウィフレド・ラム(Wifredo Lam)のシュールな絵(ポスター)。

雑誌用のロケ撮影だったらしいが、ロンドンは至極面白かったようで、矢継ぎ早に質問を浴びせる母親を相手に、いつにも増して饒舌に1週間の旅の様子を話していた。

父親としては、ロンドンより“独立”の中身が気になるが、まずは「やれやれ」……といったところ。

さて、その親も「明石」での取材・撮影から帰って、はや一週間。その間、取材テープ起こし、コピー制作に忙殺され、ようやく昨日、デザインを含めてその分をクライアントに提出したところ。

普通ならこれで一段落となるはずだが、今回はちょっと勝手が違う。明石に行く度にやることが増えていく感じで、終わりの時期が見えてこない。ひょっとしたら、年内にもう一度、明石に行かなくてはいけないかもなあ……と、この仕事での年越しを覚悟している。

そんな中、1ヶ月半休んでいた駐輪場にも今日から復帰。

というわけで、とりわけ時間のやりくりが大変な師走になりそうな予感……あっ、そろそろバイトに行かなきゃ!

2016/11/26

落ち着かない週末(明日から「明石」)




22日早朝の地震&津波警報に続いて、寒波襲来&初雪……


予期せぬ自然災害・異常気象に心ザワつかされたせいだろうか、妙に落ち着かない週末だが、友人から依頼された年賀状制作を済ませ(ついでにコトノハ舎分も完了)、週明けの仕事(出張)の準備も整え、とりあえずやるべきことはやり終えた。

というわけで今日は、サラッと目を通しただけだった、ここ何日かの新聞をまとめ読み。


印象に残ったのは、「トランプ現象 合意より分断 悪循環生む」と題された24日の「論壇時評」(歴史社会学者 小熊英二)。 「トランプ勝利の最大の背景は(現状に無策な)政治への不信」と分析しつつ、SNSを活用して対立を煽り続けたトランプの手法と暴言を連発する彼を映して視聴率を伸ばした米国のテレビを「社会に格差や分断があるとき、それへの不満が表れる。そのこと自体は否定すべきではない。だがそうした不満や不信が、分断を煽る形で表現されるのは問題だ。なぜなら選挙は社会に合意を創る手段であって、分断を助長して選挙に勝つのは本末転倒であるからだ。」と批判的見解を述べた後、「20世紀に始まった普通選挙と政党政治の時代は、曲がり角を迎えている。その一方で社会の合意を創る必要は、かつてないほど高まっている。分断を煽る選挙戦術は、未来を拓く道ではない」と結んでいた。
(トランプ関連では、17日朝刊「行きづまるグローバル化」と題されたフランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏の話も興味深かった)


23日の「朝日川柳」もなかなか面白かった。(といって、まったく笑えない話だが)


最も鋭く胸に迫った一句は    津波です逃げてください原発も
そして沖縄の怒りを思う一句   政府挙げ「土人」呼ばわり正当化


鶴保、羽生田……驕り高ぶり、“トンデモ発言”連発の安倍自民党。昨今、沖縄では独立論も先鋭化しているようだし、沖縄の人たちが、こんな日本政府および「日本人」に愛想をつかし、中国の支援を受けて「沖縄独立革命」を起こすという、日本にとって最悪のシナリオが現実化する日も、そう遠くないのかもしれない。(そうならないためにも、沖縄の人々を大事にしないと)

さて、明日からは23日の取材&撮影の旅。撮影カット数は30点前後、合間のインタビュー取材2、3時間……かなりハードな仕事になりそうだ。(でも、明石の町で呑む楽しみも…)

2016/11/15

“声枯れ”プレゼンテーション


丁度、トランプが大統領選に勝利した日から、喉の調子がおかしくなり、かすれ声のまま一週間が過ぎてしまった。
(声枯れの原因は、風邪の影響による声帯の炎症。トランプショックとは全く関係なし)


で、昨日は朝9時から、兵庫・明石に本社のある某企業でのプレゼン……

せっかく良い企画書とコピー&デザインができたというのに、「この声のままで仕事になるだろうか?」と危惧したが、前夜、美味しいワインの誘惑にも負けず(でも、付き合いで白ワインを一口…)、行き付けの医者が処方してくれた薬を飲み、家から持参したハチミツを舐め、ひたすら節制に努めた結果、朝になって症状は格段に回復。かすれ声ながらも、精一杯喉を開いて言うべき言葉を絞り出すことができ、好評のうちに無事プレゼンを終えることができた。


プレゼンの後は、2週間後の撮影・インタビュー取材の下見を兼ねて工場見学(本社から工場までは車で約1時間)。見学を終えた後は、再び明石に戻り、イメージカットの撮影ロケハンのため担当のKさんの案内で、明石海峡大橋、淡路島を一望できる絶好のスポット「大蔵海岸」を20分ほど散策。

「ここなら、いい写真が撮れそう…」と、安堵した所で海岸を後にし、再びKさんの車で明石駅へ。そのまま新快速で新大阪に向かい1450分発の「のぞみ」で帰路に就いた。(その間、明石駅駅ナカのトイレの棚に手提げバッグを置き忘れたまま、改札をくぐり、気づいて大慌てで駆け戻る……という騒動があったが、トイレ掃除の方のお陰で無事落着)


というわけで、まだ仕事的には6合目にさしかかったあたりだが、一番の難所を踏破し、気分的には一山越えた感じ。


今夜は美味い酒を少しだけ呑み、心置きなく代表戦(日本VSサウジアラビア)に集中したい。
頼むぜ、ハリル・ジャパン!


 



2016/10/31

魂の弾丸。


昨夜、錦織圭VSチリッチのスイス・インドア決勝を観ようと、地デジからBSに切り替えた途端、予期せず目と耳に飛び込んできた髭面の歌手の声に心を奪われ、リモコンを持つ手が止まった。

そのしびれる歌と詞の主は「竹原ピストル」(番組はNHK BSプレミアム「ネクストブレイカー」)……名前だけは、映画『海炭市叙景』を通じて知っていたが、迂闊にも俳優業が本職で、これほど魂のこもった歌を聴かせる歌い手だとは思わなかった。

それから40分ほど、ロック、フォーク、ブルース全てを感じさせる迫力の弾語りにすっかり心酔。無性に彼のライブが見たくなり、ツレにスマホで調べてもらったりもした。

そんなわけで、今日の午後はYou Tubeで彼の歌を聴きまくり。(午前中は、年に一度の「特定健診」)

以下、その中から、特に気に入った4曲をご紹介。

RAIN』『カウント10



『お前、もういい大人だろ?』


『シーグラス』(「野狐禅」時代の歌。“やこぜん”は、彼と濱埜宏哉が結成したフォークバンド。2009年に解散)






2016/10/30

小休止(&歌便り)



現在取り掛かっている仕事(コーポレートサイトのリニューアル)の企画&コピーを概ね終え、ちょっと中休みといった感じの昨日……
(今日はUEちゃんが上げてくれたデザインをチェックしながら、miyukiさんを含めた3人でランチミーティング。来月は出張プレゼン&ロケ撮影・インタビュー取材が控えており、まだまだ続く忙しさ……でも、久しぶりに気合いが入っているせいか、なんだか楽しく、頭シャッキリ。なので、バイトは暫くお休み)

3、4日ほど前に届いていた、福岡の友人HIRANO君からの「歌便り」に、ようやく目を通した。タイトルは「八月の蝉」。

若き日のふりしぼるかに鳴き盛る蝉の大群いずこに消えし

蝉しぐる美術館の坂迫りくる「マムシに注意」という看板

鳴くほどに存在示しふと飛びて捕まえがたしもこの夏静か

夕暮に寂しく鳴くは法師ゼミ世界の終り見たかのように

石庭にじっと座る人しゃべる人外人までもが無我をまねるか

福岡の夏も、京都の夏も、統べてひと夏「蝉の声」か……とりわけ今年の蝉は、残暑のしつこさに戸惑ったかのように死に時を忘れ、いつもの年よりずっと長く鳴いていたような気がする。

そういえば、暑い夏に入る前も「歌便り」があった。その際、同封の手紙で、彼が参加している歌誌「はな」の代表である歌人・角宮悦子さんが亡くなられたということを知った。
その惜別の想いが込もった歌に触れ、朝の喫茶店の片隅で胸が熱くなったことを思いだす。

生きているからこそさくら目に染みる大きな川のほとりにあれば

桜の季花冷えの空むなさわぎ悩みはいつも他人のことか

ひめやかに転生などと歌いたり夢のゆめかもしれずの思い

彼の話によると、角宮さん亡きあと、精神的かつ物理的な支柱を失った歌誌「はな」は廃刊になるらしい。
(「ダメだよ、発表する場は誰かが引き継ぎ維持し続けないと…」と私は存続を強く勧めたが)
たとえその場を失くしても、彼にはずっと歌を書き続けて欲しいと思う。その便りを楽しみに待つ「友」もいるのだから。

※先日、「写真集」を送らせてもらった友人たちから、心温まるハガキ、手紙、メールや電話を頂いた。この場を借りて心からの感謝の意を伝えたい。
みんなありがとう。本当に嬉しかった。

2016/10/14

『時代は変る』


「えっ、ボブ・ディラン?……って、ボブ・ディランなの?!!」と、一瞬わが目、わが耳を疑うくらい驚いた昨夜のニュース速報「2016年ノーベル文学賞 ボブ・ディラン氏に授与」。

正直、ノーベル文学賞にあまり関心はなかったが、「ボブ・ディランに授与」となれば話は別。スウェーデン・アカデミーも随分粋なこと(&革命的なこと)をするじゃないかと、「時代の変化」を感じて嬉しくもなった。

授与理由は「偉大な米国の歌の伝統に新たな詩的表現を作りだした」というもの。その詩の高い文学性と共に思想性も評価されたのだろう。

既成の権威に抗い続けてきたディランが、この世界的権威のある賞の授与を喜ぶかどうかは分からないが、彼のファンの一人としてはノーベル文学賞の方向性の変化と併せて素直に喜びたい。

そしてまた、この授与が多くの人、とりわけ若い世代の人たちがボブ・ディランの詩と音楽に触れるきっかけになれば……とも思う。

というわけで『時代は変る』






ここかしこにちらばっているひとよ
あつまって
まわりの水かさが
増しているのをごらん
まもなく骨までずぶぬれになってしまうのが
おわかりだろう。
あんたの時間が
貴重だとおもったら
およぎはじめたほうがよい
さもなくば 石のようにしずんでしまう
とにかく時代はかわりつつあるんだから

ペンでもって予言する
作家や批評家のみなさん
目を大きくあけなさい
チャンスは二度とこないのだから
そしてせっかちにきめつけないことだ
ルーレットはまだまわっているのだし
わかるはずもないだろう
だれのところでとまるのか。
いまの敗者は
つぎの勝者だ
とにかく時代はかわりつつあるんだから

国会議員のみなさん
気をつけて
戸口に立ったら
入口をふさいだりしないでください
傷つくのは
じゃまする側だ
たたかいが そとで
あれくるっているから
まもなくお宅の窓もふるえ
壁もゆさぶられるだろう
とにかく時代はかわりつつあるんだから

国中の
おとうさん おかあさんよ
わからないことは
批評しなさんな
むすこや むすめたちは
あんたの手にはおえないんだ
むかしのやりかたは
急速に消えつつある
あたらしいものをじゃましないでほしい
たすけることができなくてもいい
とにかく時代はかわりつつあるんだから

線はひかれ
コースはきめられ
おそい者が
つぎには早くなる
いまが
過去になるように
秩序は
早速にうすれつつある
いまの第一位は
あとでびりっかすになる
とにかく時代はかわりつつあるんだから

『ボブ・ディラン全詩集』より 片桐ユズル 中山容 訳 晶文社


2016/10/08

10日間のあれこれ②(映画&LIVE)



101日(土)
午前中は池袋へ。西武のロフトで封筒、ノートなどをまとめ買い。その後、地下の三省堂で本を物色、ジンバブエ出身の作家ノヴァイオレット・ブラワヨの長編『あたらしい名前』(早川書房)を購入。午後は、大泉学園のTジョイでクリント・イーストウッドの新作『ハドソン川の奇跡』を鑑賞……

2009年、ニューヨークで起きた「USエアウェイズ1549便不時着水事故」(奇跡的な生還劇として世界に広く報道された)を、当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記をもとに映画化した作品で、イーストウッドにとっては『J・エドガー』『ジャージー・ボーイズ』『アメリカン・スナイパー』に続く、ここ数年の“実録もの”の一作。
2010年公開の『ヒア・アフター』以来、純然たるフィクションを撮っていないのは大ファンの一人として少し淋しい気もするが、私も大好きな名作『グラン・トリノ』(2008年製作)で“撮るべきものは撮りきった”という思いがあるのかもしれない。
それ故、今のイーストウッドは自身のキャリアを深めることより、愛する母国アメリカの理想と希望を見つめ探ることを使命として、映画を撮り続けているように見える。
国家・国民への信頼と、アメリカの夢と誇りを取り戻す作業とでも言おうか……96分の濃密な物語にも、イーストウッドが描き続ける社会の現実、その光と闇が色濃く映し出されていた。
(トム・ハンクスもさすがの名演)

ちなみに間近に迫ったアメリカ大統領選……彼は、トランプもヒラリーも支持しないとした上で、
トランプに投票すると表明したらしい。御年86歳の名匠が見つめるその心の闇も深そうだ。

103日(月)
「吉田拓郎LIVE 2016」を観に東京国際フォーラムへ。

長きに渡る拓郎ファンのツレのお供という感じだが、そこは同世代、私にも拓郎を好んで聴いていた時期はある。

十九、二十歳の頃、街中で頻繁に流れていた音楽と言えば、ビートルズと吉田拓郎……特に目的もなく吉祥寺の街を徘徊していた私は、レコード店やパチンコ屋から聴こえてくる拓郎の歌に、ちょっと物悲しい青春を重ねていたものだ。
当時好きだったのは『青春の詩』(♪ああそれが青春)、『ペニーレインでバーボンを』、そしてモップスも歌っていた『たどり着いたらいつも雨降り』などだが、20代半ばを過ぎたあたりから、たまに『シンシア』を口ずさむくらいで、拓郎の歌を聴くことも歌うことも、ほとんどなくなってしまった。

そんな昔を思い出しながらの「LIVE 2016」……開演は18時半。「春だったね」の熱唱から始まり、『落陽』まで一気に4曲。拓郎の若々しい張りのある声が、会場に響き渡った。
(既に70歳……こんなに声が若いとは思わなかったので、正直、驚いた)

その後、15曲目の『全部抱きしめて』まで、比較的新しい曲(かつ流行歌っぽい曲)が流れたが、あまり好みではないのでノリ切れず個人的に中弛み。(特に『朝陽がサン』というタイトルからして能天気な歌がダメ)
途中で入るMCも、ウケ狙いだろうが、モロ年寄りじみていてちっとも面白くなかった。

でも、ラスト7曲目『海を泳ぐ男』から最後のアンコール曲『人生を語らず』まで、かつて好きだった拓郎節が復活し、気分回復&集中力アップ。
20時半、すべてを歌い終わり観客に向かって深々と頭を下げる吉田拓郎に、大きな拍手を送って会場を後にした。

以下、当日のセットリスト。

01.春だったね/02.やせっぽちのブルース/03.マークⅡ/04.落陽
05.アゲイン/06.朝陽がサン/07.消えていくもの/08.唇をかみしめて
09.ジャスト・ア・RONIN10.ぼくのあたらしい歌/11.いつでも/12.君のスピードで
13.白夜/14.旅の宿/15.全部だきしめて/16.いくつになっても happy birthday
17.海を泳ぐ男/18.僕たちはそうして生きてきた/19.流星
アンコール
20.ある雨の日の情景/21.Woo Baby22.悲しいのは/23.人生を語らず


4日~6日はバイト&仕事。友人がホームページ制作絡みの仕事を紹介してくれたお陰で、本業の方も俄かに慌ただしくなってきた。とりあえず16日~17日は久しぶりの出張打合せ。来週はそのための資料収集及び検討・分析等で身動き取れない感じ……(本当はバイトも休みたいのだが、シフト勤務だけに簡単に休めないのが困る)

2016/10/07

10日間のあれこれ①(呑み会)


長雨の終息とともに、長引いた風邪もようやく治まり、いよいよ秋本番……と思いきや、残暑がしつこい!(昨日の東京は30℃。直射日光の当たる駐輪場は39℃もあった)

まさか、10月に入ってTシャツ一枚で過ごすことになるとは思わなかったが、今日は朝から涼しい風が吹いている。

このまま台風の発生も収まり、スッキリ秋に入ってくれるといいのだが……

さて、10日ぶりの更新。まずはこの間の近況をサクッと。

930日(金)
17時半から、バイト仲間(Nさん、Oさん)との呑み会あり。

私は早番で16時上がり。時間潰しがてら、コミュニティバスで約5分の所にある銭湯へ。

「ボディマッサージ」「ジェットエステ」「絹の湯」「薬湯」など7つのテーマ浴槽に加え、「露天風呂」までついているスーパー銭湯並みの館内設備に驚きながら、軽く仕事の疲れを癒した。(料金は460円+バスタオル代200円。平日の夕方、)

で、入浴を終え、再びバスで駅にUターン。呑み会の場所は、駅近くの古い居酒屋。昭和の薫り漂う店内には懐メロが流れていた。そんな雰囲気につられて、陽水、拓郎、遠藤賢司、ビートルズ、C.C.Rなど6070年代のフォークや洋楽の話で暫し盛り上がったが、話題の中心はやはり共通の職場である“駐輪場(の人々)”……
格好といい(常にジーンズ&サンダル。頭には赤系のバンダナ)、風貌といい(イメージ的には、毒気の抜けたキース・リチャーズ)、多くの高齢者の中でひときわ異彩を放つ存在として前から気になっていたSさんの話になった。(Sさんは一人暮らしで、日にビール10本以上は飲むという大の酒好き。いつも昼頃に自転車を止め、隣接するショッピングモール内のスーパーでビールと弁当を買って帰るのが日課。その後は夜まで、部屋でひたすら酒を飲みつづけるそうだ)

「酒で命をつないでいるような感じだけど、大丈夫かなあ。体もふらついているし……」と私が話し出したところ、頷きながら聞いていたNさんが「初めて会った時、“もうオレ死にたいんだよ”と言われてビックリしましたよ」と、聞き捨てならないことを言う。

駐輪場で働く人間に、しかも初対面でそんな心情を吐露するのは、真に孤独な人だけ。

「えっ、いきなりそんなこと言われたの?!……参るなあ、それは」「でも、本当に死にたいんだろうね…」と呟いて暫く、無言の時が流れた。
その後、職場の問題や仕事(本業)、転職(転バイト?)のことなど話したが、あまり盛り上がらないまま、午後8時過ぎお開き。それでも最後は明るく、ハイタッチで別れた。

※今日はこれから、少し遅めの墓参り。今年も辺り一面、秋桜が咲いているはず。

 

2016/09/27

風邪癒えず(&ザンクトパウリ)



喉の痛みは相変わらず。くしゃみと鼻水も止まらない。まさに風邪のど真ん中といった風情だが、昨日耳鼻科に行ったところ、この時期、アレルギー性鼻炎を発症した可能性も高いとの話。(10日間で耳鼻科&薬局へ行った回数は3回。その度に抗生剤の種類も変わった。果たして、3度目の正直となるかどうか?昨日、アレルギーの薬も加えられた)

どうやら、風邪とアレルギーがダブルで来ちゃった感じ……

先週の金曜(23日)、症状を甘く見て仕事の打上げを敢行したのも響いているのかもしれない。(場所は新宿「鼎」。メンバーは、JINちゃん、SHINODA &新婚のフェアリー。呑み会自体はとても楽しかったのだが)

お陰で、ここ数日は身体を休めている時間が長く、本も映画もとんとご無沙汰。公開されたら即、行こう!と楽しみにしていたクリント・イーストウッドの新作『ハドソン川の奇跡』も未だ鑑賞できていない。(バイトも初めて休んでしまった)

というわけで、『サッカーと愛国』(「サッカーはレイシズムとどう闘ってきたのか?」を知る上でとても貴重な一冊)の感想を長々と書いているような体力も気力もないので、本の著者であるフリーライター・清義明氏のブログから、こんな記事を紹介してお茶を濁す?ことにします。


『サッカーと愛国』の中で、私が最も興味をそそられたのが、この「人種も性別も意味をなさないオルタネイティブなクラブ」FCザンクトパウリとそのサポーターたち(FCザンクトパウリはドイツ・ブンデスリーガ2部のチーム。現在、元日本代表の快足FW宮市亮が在籍中)……サッカーファンはもちろん、サッカーファン以外の方にも、その興味深い成り立ちと、階級、人種、ジェンダー、貧困など現代のラディカルな問題に関わってきた彼らの闘いを知っていただきたいもの。ぜひご一読のほど。

2016/09/20

秋雨の候…




連日の雨。2、3日前から風邪気味で喉の調子が悪く、こっちの気分も湿りがち。(駐輪場もガラガラ。ヒマすぎて逆に疲れる)

そんな折(昨日)、友人のMIYUKIさんの写真集が宅急便で届いた。梱包を開けると内側の板紙にマジック書きのメッセージあり。《良いのが出来たぜ!! Miyuki

全ページ「花と木と草」の写真で構成されているが、撮る人の想いと四季折々の静かな命の物語が宿るグッドな写真集。
ところどころに添えられた言葉も効いている……というのは自己満だが、写真集での初コラボ、私にとっても記念すべき嬉しい作品になった。

明けて今日は、午前中から病院をハシゴ(歯医者と耳鼻科)。
一週間前から歯茎がポコッと腫れているのが気になって診てもらったのだが、どうやら奥歯に亀裂が入り、それが伸びているのが原因らしい。
風貌も性格もちょっと変わった先生が「何だ、これ?どうなってんだ?……う~ん、あれ~? 変だぞ、どこまでいってんだ?こりゃ大ごとかもしれないなあ…」などと呟きながら治療を進めるので、口を開けたまま次第に不安が増してきたが、その割にあっさり終わり拍子抜け。(次回は神経を取り金属冠を被せるか、最悪、歯を抜くかも…とのこと。どちらにしても、患者を不安がらせずに治療を進めてほしい!)

午後は、先日読み終えた『サッカーと愛国』(路上で、スタジアムで、サッカー界のレイシズムと全力で闘ってきたフリーライター「清義明」のフィールドワークの成果をまとめた“日本初のサッカー界からの反差別の書”)の感想を書こうと思ったが、喉もイマイチすっきりしないので、後日に回すことにした。

明日はバイト。この雨は止むだろうか?


季節の変わり目。皆さま、くれぐれも、ご自愛のほど。

 

 

2016/09/16

「落ちてくる」3つの物語(映画『アスファルト』)



暇があればまず映画……という生活を何年も続けていると、映画の神様からのご褒美なのか、年に一度はこういう「感性、どストライク!」の一本に巡り合えるもの。
秀作・傑作・佳作などという評価の枠を超え、大好き度では、今年のベストワン。映画館を出る時の気分もまた格別だった。(鑑賞日93日、小屋はよく行く「シネ・リーブル池袋」)

さて、その映画『アスファルト』(監督・脚本サミュエル・ベンシェトリ/製作国フランス)……

フランス都市郊外の寂れた団地を舞台に、3組の男女が織りなす〈複雑であたたかい人生模様〉が、ユーモラスかつ愛おしいほどの情感を醸し出しつつ描かれる……という作品だが、まず驚かされるのが、ストーリーを牽引する3組の男女のユニークすぎる人物設定。

その①:不意の事故で車椅子生活を送るようになった中年男と、夜勤の看護師。
その②:母親に見放され一人暮らし状態を余儀なくされた少年と、うらぶれた女優。
その③:服役中の息子がいるアラブ系の中年女性と、NASAの若い宇宙飛行士。

例えば、突然団地の屋上に降り立った宇宙飛行士が、アラブ人女性の部屋でNASAからの迎えが来るまで二日間待機する……などというありえないシチュエーションに唖然としながら、その非現実的な出逢いが、言語の異なる二人の短い会話と眼差しを通じて次第にリアルな日常に思えてくる不思議。

監督サミュエル・ベンシェトリによると、6人の登場人物に共通しているのは「真に孤独であり、それぞれの事情から他人に話しかける理由を持たない人々」とのことだが、その世界共通とも言える(身近な場所に存在する)孤独と孤立が、「沈黙と眼差しの交換を通して、人と人との絆が育っていく様を視覚的に描きたかった」という優れた映像の力を受けて、それぞれの心に眠る豊かな情感を呼び覚ましながら、絶妙なバランスで幸せなおとぎ話を紛れもない現実の物語に昇華させたように思う。

ちなみに、「この作品が生まれたきっかけは?」という質問に、ベンシェトリはこう答えている。
《『アスファルト』で、私は、この手の題材を描く時に普通はお目にかかれないような登場人物たちを通して、ある種風変わりなストーリーを作りたいと思っていた。一言で言うならば「落ちてくる」3つの物語、と言えるだろう。空から、車椅子から、栄光の座から人はどんな風に“落ち”、どのように浮かび上がっていくのか。『アスファルト』製作中、この疑問がいつも頭にあった。なぜなら団地に住む人々は皆、“上る”ことに関してはエキスパートだから。子供時代を団地で過ごした私にとって、そこでの生活で感じていたあれほどまでに強い団結力に他では出会ったことがない。
たとえ月日がたち至る所に孤独と孤立が少しずつ広がって行こうとも》

というわけで、「ときに強く胸を打ち、ときにユーモラスな、非常に繊細な瞬間の連続。すべての夢想家たちに捧ぐ最高の映画!」というフランスの日刊紙「ル・パリジャン(Le Parisien)」の評価に、異議なし!と心からの賛意を示したくなる一本。
特に、市井に生きる孤独な夢想家たちにオススメしたい。(名匠「アキ・カウリスマキ」の作品が好きな人も、ぜひ!)

※この映画の登場人物の一人、際立つ存在感を放っていた“ひとり暮らしの少年シャルリ”を演じたのは、監督ベンシェトリの息子であり、名優ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に持つジュール・ベンシェトリ。(母親は女優の故マリー・トランティニャン)
数年後、フランス映画界を代表するスターになる予感がする。今後も注目!

 

2016/09/06

帰ってきたオバサン。



つい先日、駐輪場に“最悪のオバサン”が帰ってきた。(不正駐輪を咎めた私に罵詈雑言を浴びせながら、予想外の反撃?に遭い「こんなに理屈っぽい人、はじめてだわ」と捨て台詞を吐いて去ってから約半年ぶり)

相変わらず駐輪禁止エリアに堂々と自転車を止めていたので、駐輪ラックに入れ直し「やれやれ、また一戦交える羽目になるのか……」と腹をくくって小一時間。買物を済ませて帰ろうとするオバサンの後ろ姿が目に留まった。

すぐに近寄り、ラックから自転車を出しにくそうにしていた彼女に「〇〇さん、手伝いますよ」と声をかけたら、一瞬ビクッとしたように動きが止まり、キャップを目深にかぶった顔もあげず「ありがとうございます」と小さな声で返してきた。

で、自転車を出しながら「ルールはちゃんと守ってもらわないと、困りますね~」と言うと、「申し訳ありません」と素直に応える。
さらに続けて「次からは必ず、空いている所を探して入れてくださいね」「はい、分かりました」という拍子抜けするようなやり取りがあり、最後まで私と顏を合わせず、俯き加減に自転車を押して静かに帰って行った。

まるで人が変わったようなしおらしさ……

早速、同僚のNさんに「さっき〇〇さんに会ったけど、エラく素直でおとなしいんだよね~、どうしちゃったんだろう?」と、そのやりとりを報告すると、彼は「Yさんとの一件がかなり効いているんですよ、きっと」とニンマリ……
あのモンスターが私に反撃されたくらいで「改心」するとも思えないが、Nさんの言う通り“戦意喪失”は明らかな様子。その激変ぶりには少し驚かされたが、駐輪場の平和のためには実に良い変化と素直に喜ぶことにした。

※この間、少し頭を悩ませていたMIYUKIさんの写真集用コピー(というか戯言のようなもの)を、今日ようやく書き上げ、送信。彼女の意に適っているかどうかは分からないが、上手く料理してくれるはず。出来上がりを楽しみに待ちたい。

 

2016/08/31

8月中下旬メモ



815日(月)終戦記念日or敗戦・降伏記念日
隣駅のTジョイで映画『シン・ゴジラ』を鑑賞……のつもりだったが、上映開始から1520分、動く原子炉のようなゴジラに踏みつぶされていく東京の街々を眺めているうち、急激に眠気が押し寄せ、ほぼ朦朧状態。
途中「ん?なぜ石原さとみが偉そうな態度で英語を喋っているんだろう」と疑問に思ったが、その役柄も分からないまま、一気に夢の中。気がついた時にはエンドロールが流れていた。

かねがね「映画を観ながら寝るなどもってのほか、映画に対して失礼だ!」と公言して憚らない自分が、寝不足気味でバイトの疲れが残っていたとはいえ、傑作と評判の映画でまさかの寝落ち……我ながら情けなし。
(「えっ、あの映画で寝ましたか?!」と、『シン・ゴジラ』大絶賛の建築家IWAMAさんにも失笑を買いそうだ)

「万全の体調で、また観よう」と、鑑賞リベンジを期しての帰り道。駅前の「ジュンク堂」に立ち寄り、桐野夏生の小説『猿の見る夢』を購入。

家に帰ると友人のTAKENAKA君から、一句添えられた残暑見舞いハガキが届いていた。
立秋や風のささやく声の朝

816日(火)
バイトは休み。前夜から読み始めた『猿の見る夢』を一気に読了。

主人公は、大手一流銀行から服飾メーカーに出向している還暦間近の男・薄井。
家庭(妻と二人の息子)、不倫(10年来の愛人がいながら、会長秘書も気になる)、出世(65歳まで勤め上げるため、常務昇格を狙う)、老後(実家の200坪の土地に二世帯住宅建築を目論む)……定年前の果てなき足掻きと優越の中、自分の思い通りにすべての事がうまく運ぶと信じて疑わない男の人生は、ある女性(占い師)の出現により、大きく狂い出す。というお話。

身勝手な欲望と独善的な人生設計をリアルな女たちに見透かされているのも気づかず、徐々に負のスパイラルにはまっていく“終わらない(終われない)男”の哀れな生き様に、「しょーもないヤツだなあ~」と呆れ果てながら、何故かその人生に救いの手を差し伸べたくなるような、不思議な魅力(魔力)を秘めた一冊。実に面白かった。

で、「これまでで一番愛おしい男を描いた」という著者・桐野夏生の言葉は、皮肉?本音?……どちらにしても、女は怖し。

820日(土)
旧友のY君、O君と暑気払い(呑み会)。場所は池袋の「酒菜屋」、少し早目に17時スタート。
リオ五輪・陸上400mリレーの快挙をのっけの話題に、ビール&ハイボールで乾杯……その後
3人とも日本酒に切り替え、五輪(卓球、バドミントン、「君が代」)、政治(都知事選、日本会議、「STOP!安倍政権」……そのために「何か自分ができることはないものか」とはO君の言葉)、映画(『帰ってきたヒトラー』他)、本(小説『流』、加藤典宏の『戦後入門』他)、サッカー日本代表、ベトナム旅行計画など、勝手な進行役(?)に合わせて話が進み、楽しく盛り上がった。
(席上、法学者のO君から出版されたばかりの自著『イェーリングの「転向」』を贈呈される……
パラパラめくっただけで、大変な労作というのは分かるが、イェーリングって誰?概念法学って何?の門外漢には半分読むのもしんどい感じ。申し訳ないが暫く本棚で眠ってもらおうと思う)

2軒目は「萬屋松風」。店を出るまで、何を飲み、何を食べ、何を話したかほとんど記憶なし。
といってヘベレケになったわけでもなく足取りはシャキッ。23時頃、東武線改札に向かうY君に「またね」と手を振り、JRで帰るO君とはハイタッチで別れ、西武池袋線のホームに急いだ。

827日(土)
長野からMOTOMI嬢が上京中。というわけで、いつものメンバーが集合。
田無駅近くの居酒屋でハイボールを飲みながら、4人で楽しく(時にきつめの話題で)歓談。

その際、MIYUKIさんとUEちゃんからコピー(というか言葉)のオーダーあり。MIYUKIさんの写真集に入れたいとのこと。(それ自体は前から頼まれていたのだが、何を書けばいいのかよく分からなかった)
改めて「写真に関係なく、好き勝手に今思っていることを書いてほしい」と言われたが、簡単そうに聞こえて、その実けっこう厄介なご依頼。それはそれで、ちょっと頭を悩ませないと。
(自由な言葉がそうそう自由に出てくるものでもないわけで…)

MOTOMI嬢からは安曇野の酒「酔園 幻の酒」(純米吟醸)を頂いた。(後日味わったが、スッキリ系の甘口で飲み心地よし)
「せっかく東京に出て来たから、どこかで映画を観て帰る」と言っていたが、何を観たのだろう。(「『君の名は。』でも観れば」と勧めたら、「(アニメーションは気になるけど)純愛モノでしょ。今さらね~」って感じだったけど)

2次会はカラオケ。「新宿の女」から始まり、「東京ブルース」「新宿育ち」「北国の春」etc.……と演歌づくしだったが、咽喉の調子はイマイチ。
次第に誰も曲を入れなくなり、会話中心になったので延長はせず、2時間くらいで店を出た。
(いつもの盛り上がりに比べ、地味目な再会だったが、また今度。みんな元気で!)

以上。

明日はW杯アジア最終予選「日本VS UAE」……頼むぜ、ハリル・ジャパン!

2016/08/29

獄中句と『君の名は。』



詠まざればやがて陽炎 獄の息

今日の朝刊(朝日「歌壇・俳壇」俳句時評)にオウム真理教事件の死刑囚・中川智正の句が紹介されていた。記事によると彼は現在、俳句をよすがに独房で悔悛の日々を送っているという。

かのピカは七十光年往けり夏

指笛は球場の父 虎落笛(もがりぶえ)

繊細な感受性と強い正義感は時に人生の歯車を大きく狂わせる……公判中「生まれてこなければよかった」「私は人間失格。すべてを関係者におわびします」と述べた男はいま、自らの罪の深さを原爆に重ねて慄き、またある時は、応援席の父と過ごした少年野球の思い出を手繰りながら帰らぬ日々を思い、死と隣り合わせの独房で厳しい夏と向き合っている。

《奈落の底から生まれた俳句は勁(つよ)い。認識と感情が一本の草になって立っている。草は人間とは何かを問う境界線になろうとしている》
記事の結びに書かれた恩田侑布子さんの言葉が印象的だ。

“人間とは何か”か……なぜ人生には、生きている間に解けそうもない問題ばかりが押し寄せてくるのだろう。これ以上、脳ミソのキャパを増やせそうもない自分にまで。

さて、朝からこんなヘビーで心揺さぶる句に出会ったせいか、昨日Tジョイで観たアニメーション映画の余韻はすっかり薄れてしまったが、消えないうちにその感想をサクっと。

『君の名は。』(監督/新海誠)……

青春のど真ん中から遠く離れた前期高齢者(一歩手前)の男が、今さら“時空を超えてつながるラブストーリー”なんぞに胸キュンしていていいものか?と思うが、いいんです!!

大概の男は幾つになっても己の不甲斐なさと後悔の塊を心の奥に留めながら生きているもの。その揺るぎない切なさをダイレクトにくすぐられたら仕方なし。とにかく空が美しかった。
(「誰そ彼(たそかれ)」と「ムスビ(産霊)」……奇跡につながる繊細な言葉も心に残った)