暇があればまず映画……という生活を何年も続けていると、映画の神様からのご褒美なのか、年に一度はこういう「感性、どストライク!」の一本に巡り合えるもの。
秀作・傑作・佳作などという評価の枠を超え、大好き度では、今年のベストワン。映画館を出る時の気分もまた格別だった。(鑑賞日9月3日、小屋はよく行く「シネ・リーブル池袋」)
さて、その映画『アスファルト』(監督・脚本サミュエル・ベンシェトリ/製作国フランス)……
フランス都市郊外の寂れた団地を舞台に、3組の男女が織りなす〈複雑であたたかい人生模様〉が、ユーモラスかつ愛おしいほどの情感を醸し出しつつ描かれる……という作品だが、まず驚かされるのが、ストーリーを牽引する3組の男女のユニークすぎる人物設定。
その①:不意の事故で車椅子生活を送るようになった中年男と、夜勤の看護師。
その②:母親に見放され一人暮らし状態を余儀なくされた少年と、うらぶれた女優。
その③:服役中の息子がいるアラブ系の中年女性と、NASAの若い宇宙飛行士。
例えば、突然団地の屋上に降り立った宇宙飛行士が、アラブ人女性の部屋でNASAからの迎えが来るまで二日間待機する……などというありえないシチュエーションに唖然としながら、その非現実的な出逢いが、言語の異なる二人の短い会話と眼差しを通じて次第にリアルな日常に思えてくる不思議。
監督サミュエル・ベンシェトリによると、6人の登場人物に共通しているのは「真に孤独であり、それぞれの事情から他人に話しかける理由を持たない人々」とのことだが、その世界共通とも言える(身近な場所に存在する)孤独と孤立が、「沈黙と眼差しの交換を通して、人と人との絆が育っていく様を視覚的に描きたかった」という優れた映像の力を受けて、それぞれの心に眠る豊かな情感を呼び覚ましながら、絶妙なバランスで幸せなおとぎ話を紛れもない現実の物語に昇華させたように思う。
ちなみに、「この作品が生まれたきっかけは?」という質問に、ベンシェトリはこう答えている。
《『アスファルト』で、私は、この手の題材を描く時に普通はお目にかかれないような登場人物たちを通して、ある種風変わりなストーリーを作りたいと思っていた。一言で言うならば「落ちてくる」3つの物語、と言えるだろう。空から、車椅子から、栄光の座から人はどんな風に“落ち”、どのように浮かび上がっていくのか。『アスファルト』製作中、この疑問がいつも頭にあった。なぜなら団地に住む人々は皆、“上る”ことに関してはエキスパートだから。子供時代を団地で過ごした私にとって、そこでの生活で感じていたあれほどまでに強い団結力に他では出会ったことがない。
たとえ月日がたち至る所に孤独と孤立が少しずつ広がって行こうとも》
たとえ月日がたち至る所に孤独と孤立が少しずつ広がって行こうとも》
というわけで、「ときに強く胸を打ち、ときにユーモラスな、非常に繊細な瞬間の連続。すべての夢想家たちに捧ぐ最高の映画!」というフランスの日刊紙「ル・パリジャン(Le Parisien)」の評価に、異議なし!と心からの賛意を示したくなる一本。
特に、市井に生きる孤独な夢想家たちにオススメしたい。(名匠「アキ・カウリスマキ」の作品が好きな人も、ぜひ!)
特に、市井に生きる孤独な夢想家たちにオススメしたい。(名匠「アキ・カウリスマキ」の作品が好きな人も、ぜひ!)
※この映画の登場人物の一人、際立つ存在感を放っていた“ひとり暮らしの少年シャルリ”を演じたのは、監督ベンシェトリの息子であり、名優ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に持つジュール・ベンシェトリ。(母親は女優の故マリー・トランティニャン)
数年後、フランス映画界を代表するスターになる予感がする。今後も注目!
数年後、フランス映画界を代表するスターになる予感がする。今後も注目!
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