2020/12/26

勝手にコトノハ映画賞2020

 

《外国映画部門》

●最優秀作品賞

カセットテープ・ダイアリーズ』(監督:グリンダ・チャーダ/イギリス、2019年製作)

※舞台は「不況、貧困、リストラ、格差、右傾化、移民排斥」など、様々な問題を抱えた80年代、イギリスの田舎町。主人公の少年ジャベド(パキスタン移民)は、閉鎖的な町で受ける人種差別や保守的な父親との確執に悩みながら、将来の見通しもつかず悶々とした日々を送っていたが、ある日、友人から渡されたブルース・スプリングスティーンの2本のテープに衝撃を受け、その歌詞に背中を押されるように自分の殻を打ち破り将来への大きな一歩を踏み出す。という、温度高め、後味濃いめの青春映画。必然、全編に流れる「The Boss」の心を打つ名曲の数々……「ダンシン・イン・ザ・ダーク」が流れた途端、鳥肌&胸アツという私のようなファンならずとも、その劇的なストーリーと相まって胸が高鳴ること必至の一本!

 ●優秀作品賞

パラサイト 半地下の家族』(監督:ポン・ジュノ/韓国、2019年製作)

※言わずもがなの大ヒット作。名優ソン・ガンホはもちろん、「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん」のイ・ソンギョン、「青春の記録」のパク・ソダム、「椿の花咲く頃」のイ・ジョンウン、そして「愛の不時着」でも異彩を放った二人(チャン・へジン、パク・ミョンフン)など、「韓ドラ」ファンになって初めて分かる錚々たる俳優陣に、改めて敬意&拍手。

薬の神じゃない!』(監督:ウェン・ムーイエ/中国、2018年製作)

2014年に中国で実際に起こったジェネリック医薬品密輸入事件(中国医薬業界に変革をもたらした驚きの“ニセ薬”事件)を基に、本作が問いかけるのは「何がホンモノで、何がニセモノなのか」というメッセージ。(それを印象づける巧みなストーリーテリング。「未認可薬の密輸&販売」「患者コミュニティの形成」「権力・司法との対立」など“実録ドラマ”風に描かれていく)

で、「やってくれるね、中国映画!」と感心させられたのは、これほどシリアスな問題(重い病気なのに薬が高すぎて手に入らない!という多くの人々の存在…つまり貧困、社会格差・健康格差)を扱いながら万人が楽しめる娯楽作品へと昇華した点(言わば、中国版「パラサイト」といった風)。ラストも“鳥肌モノ”だった。

レ・ミゼラブル』(監督:ラ・ジリ/フランス、2019年製作)

※あの「レ・ミゼラブル」の舞台となったパリ郊外の町「モンフェルメイユ」で起きた小さな事件をきっかけに勃発する権力VS民衆(の闘い)の物語。ポン・ジュノ監督の『パラサイト』がなければ、これがアカデミー賞の外国語映画賞、国際映画賞&カンヌ映画祭のグランプリも取っていただろう……と言われるのもナットク!の傑作。フランスの移民問題というヘビーな題材を扱いながらも、アクション映画のようでもあり、映像は実にパワフルでエネルギッシュ(かつリアル)。その衝撃度合いも凄まじかった。

はちどり』(監督:キム・ボラ/韓国、2019年製作)

※バブル真っ最中、ソウルオリンピック直前のソウルを舞台とした女子中学生の物語。韓国特有の家父長制(端的に言うと男尊女卑)及び当時の世の中の空気を背景に、様々な悲しみ(と不条理)を乗り越えて生きようとする主人公ウニの姿に、幸あれ!と祈りたくなるような作品。(女性監督の台頭が著しい韓国映画界、その最前線に陣取る38歳の新鋭キム・ボラ。これが長編デビュー作とは…ちょっと凄すぎ!)

悪人伝』(監督:イ・ウォンテ/韓国、2019年製作)

※普段は敵対関係にあるヤクザと刑事が、偶然にも“共通の敵”となった連続殺人鬼をそれぞれのやり方で追い詰めていく……という、コリアン・ムービーお得意の「バイオレンスアクション」(とにかく、ハラハラドキドキ。一時も目を離せない)。そのスリリングなストーリー展開と、ヤクザのボスを演じるマ・ドンソク(ゾンビ映画の傑作「新感染 ファイナル・エクスプレス」で一躍トップスターになり、ハリウッド進出も果たした俳優)の圧倒的存在感に魅了される110分。

声優夫婦の甘くない生活』(監督:エフゲニー・ルーマン/イスラエル、2019年)

※「イスラエル」と聞くだけで、ちょっとイヤな気分になるが、それは国家としての「イスラエル」に対して。もちろん、そこで暮らす人々や作られた映画に対して嫌悪の気持ちはない。というわけで初めて観た純然たる(どこかの国との合作ではない)イスラエル映画『声優夫婦の甘くない生活』(原題「Golden Voices」)。

ソ連の「鉄のカーテン」崩壊後、より良い生活を願って国境を渡ったロシア系ユダヤ人の“元スター洋画声優夫婦”が、声優の需要がない新天地(イスラエル)で、第2の人生の厳しい現実に直面しつつも、何とか“声のスキル”を活かして、生計を立てようとするが……というお話。

名匠アキ・カウリスマキを思わせるクラシカルな映像美と名曲「百万本のバラ」、そして作中に登場する名作の数々(『ローマの休日』『波止場』『クレイマー・クレイマー』『ボイス・オブ・ムーン』等々)に彩られ、コミカルかつドラマチックに展開していく物語は“映画愛”溢れる人生讃歌。“イヤーエンド・シネマ”に選んで大正解だった。

その他、中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を独特の映像美で描いた『鵞鳥湖の夜』(雰囲気的にはちょっと泥臭い“中華ノワール”)、岩井俊二監督の中国映画『チイファの手紙』、知られざる歴史のタブーに触れたドイツの法廷ドラマ『コリーニ事件』、貧困の泥沼で喘ぐギグワーカーの厳しい現実を描いた巨匠ケン・ローチの『家族を想うとき』などが印象に残った。

●監督賞

ラ・ジリ(『レ・ミゼラブル』) 

※フランスのゲットーをリアルに描いた40歳の新鋭(自身、アフリカのマリから来た移民2世)

●主演男優賞(絞り切れず3人に)

ソン・ガンホ(『パラサイト 半地下の家族』) 

※韓国映画界を代表する言わずもがなの名優。

マ・ドンソク(『悪人伝』) 

※丸顔・強面・マッチョで演技派という、かなり珍しいタイプのスター俳優。

シュー・ジェン(薬の神じゃない!) 

※普通の愛すべき適当オヤジが、いつしか大衆のヒーローに。

●主演女優賞(絞り切れず2人に)

マリア・ベルキン(『声優夫婦の甘くない生活』) 

※七色の声を見事に操るイスラエルの女優さん。

パク・ジフ(『はちどり』) 

※その目の輝き・動きが実に印象的な韓国の女優さん(弱冠14歳)。

●助演男優賞

キム・ソンギュ(『悪人伝』) ※「連続殺人鬼」として強烈なインパクトを残した韓国の俳優。

●助演女優賞

キム・セビョク(『はちどり』) ※クールなのに温かい。ミステリアスな雰囲気が魅力的な女優さん。

●長編ドキュメンタリー映画賞

彼らは生きていた』(監督:ピーター・ジャクソン/イギリス、2018年製作)

※第1次世界大戦の記録映像を再構築して製作したドキュメンタリー。とにかく能書きは後にして、国家的高揚と戦場の現実との対比、前線の状況を受け入れるしかない兵士たちの無常観にも似た心境など。優れた映像技術によって再現された“戦場のリアル”を、多くの人が自身の胸で味わい、その目に焼き付けてほしい…と願わざるを得ない珠玉の作品。(再上映の機会があれば、ぜひ、劇場で!)

ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(監督:ダニエル・ロアー/カナダ・アメリカ合作、2019年製作)

※アメリカの伝説的ロックバンド「ザ・バンド」の中心メンバーだったロビー・ロバートソンの自伝「ザ・バンドの青春」を基に、バンドの誕生から、彼らがボブ・ディランとともに借りていた住居「ビッグ・ピンク」でのレコーディング、そして伝説的解散ライブ「ラスト・ワルツ」まで、バンドがたどった足跡を描いたロック好き映画ファン垂涎のドキュメンタリー。(「ザ・バンド」のファーストアルバムの衝撃を語るブルース・スプリングスティーンやエリック・クラプトンのインタビューもイイ!)


《邦画部門》(日本映画は56本しか観ていないので、何ともおこがましいのですが)

●優秀作品賞(「最優秀作品賞」は該当作なし…ということで)

佐々木、イン、マイマイン』(監督:年)

※映画自体とても面白かったが、エンドロールに流れる中島みゆきの「化粧」が本当に良かった(中島みゆき本人ではなく、カラオケボックスで歌う男の声で…そういえばエレファントカシマシの宮本浩次が歌う「化粧」にもしびれたし、意外にも女より男に合う曲なのかも)。

その他では、『スパイの妻』(監督:黒沢清/2019年)、『ミッドナイト・スワン』(監督:内田栄治/2019年)が好印象。「報知映画賞」で3部門制覇し、大ヒット中の『罪の声』は実に残念な一本。途中までは題材よし、ストーリーよし、テンポよしで、「これは当たりか!?」…と思ったが、わざわざイギリス(ヨーク)ロケまでしながら結末があまりに陳腐。(脚本家の知性とセンスを疑いたくなるほど)。俳優陣は頑張っていたのになあ…(特に星野源)

●監督賞

内田栄治(『ミッドナイト・スワン』) 

※まず、監督自らが脚本を執筆したオリジナル作品という点が、大きな評価ポイント。主役に「草なぎ剛」を配したあたりも、高いセンスを感じる。

●主演男優賞

高橋一生(『スパイの妻』)

●主演女優賞

蒼井優(『スパイの妻』)

●助演男優賞

星野源(『罪の声』)

●助演女優賞

水川あさみ(『ミッドナイト・スワン』)

●長編ドキュメンタリー映画賞

『精神0(ゼロ)』(監督:想田和弘/2019年製作)

※ドキュメンタリー監督の想田和弘が「こころの病」とともに生きる人々を捉えた「精神」の主人公の1人である精神科医・山本昌知に再びカメラを向け、第70回ベルリン国際映画祭フォーラム部門でエキュメニカル審査員賞を受賞した作品。

日本が「緊急事態宣言中」の5月初旬、インターネット上の「仮設の映画館」で鑑賞したということもあり、とても印象深いドキュメンタリー(想田監督は「観察映画」と称しているが)……私自身は前作の「精神」を観ていないが、映画冒頭、82歳にして、突然引退することになった山本医師と、彼を慕う患者さんとのやりとりだけで、山本さんがどのような精神科医で、「なくてはならない人」として、どれだけ地域社会に貢献してきたのかが分かった。その後、カメラは、認知症を患う妻・芳子さんと山本さんとの静かな生活を追っていくのだが、ただ来客をもてなすだけ、お弁当を食べるだけのシーンがとても美しく感じられる。多分、長年連れ添った2人の呼吸が美しいのだろう……そんなことを思いながら迎えたラスト。お墓参りのシーンで、なぜか涙があふれた。(俺はこんな風に年を取れるのだろうか、イヤ絶対無理だろうなあ…なんて思いながら)

以上。