2021/12/30

来年もよろしくお願いいたします。

 

    今年も、コトノハ舎ブログにお立ち寄り頂きありがとうございました。

    木たるべき2022年が、世界中の人々にとって、そしてあなたにとって、

    幸せで実り多い素晴らしい一年になりますように。



勝手にコトノハ映画賞2021②


《邦画部門》

●最優秀作品賞

『ヤクザと家族 The Family(監督・脚本:藤井道人/2020年)

あの『新聞記者』(2020年、日本アカデミー賞・作品賞受賞)でメガホンをとった藤井道人監督の新作だが、私的には『新聞記者』以上の傑作。1992年の暴対法施行後(2009年には暴力団排除条例が制定)、「反社会勢力」として徹底的に追い込まれ、食うことすらままならない存在となった「ヤクザ」の、その消えゆく生き方を、見事なまでに哀しく、優しく、圧倒的な熱量で描き出した藤井監督のふり幅の広さ・凄さに只々驚嘆するばかり。(東海テレビ製作のドキュメンタリー『ヤクザと憲法』が描いた反社会であるが故の人権喪失”……その過剰なまでの締め付けの是非を観客に考えさせるという意味でも稀有な作品)

※吉田惠輔監督の『空白』と、どちらを最優秀にするか迷ったが、自分の好みでコレ。

●優秀作品賞

『空白』(監督:吉田恵輔/2021年)

万引きを目撃され逃走中に車と衝突した女子中学生の死をめぐり錯綜する、被害者の父親と事故に関わる人々の姿を緻密な脚本のもとに丁寧に(というか、執拗に)描写。全員が加害者にも被害者にもなり得る物語が危うい緊張感を伴い映し出される、というヒューマンサスペンスの秀作。監督は『ヒメアノ~ル』の吉田惠輔、主演は古田新太(共演・松坂桃李)、その他、寺島しのぶ、田畑智子、片岡礼子、藤原季節などなど……だが、最も印象に残ったのは、古田でも松坂でもなく、逃走中の交通事故死であっという間にスクリーンから姿を消してしまう古田の娘・花音を演じた「伊東蒼」。〈学校でも自宅でも居場所がなく、自分のことを変えたくてもその手立てすらわからず、自分の声は誰にも届かないのだと静かに絶望している少女〉の複雑な内面を見事なまでに表現していた。

『茜色に焼かれる』(監督:石井裕也/2021年)

「社会的弱者VS不条理な日本社会(上級国民、DV、コロナ禍での飲食店への締め付け、不当解雇、職業差別等々)」というテーマ(?)を基に描かれるシングルマザーと息子、そしていくつもの不幸と苦難を背負う女たちの哀しき友情の物語……(で、ラストは文字通り「茜色に焼かれる」)

まず、このコロナ禍に、これだけのパワーと怒りと哀しみ&愛情とユーモアを詰め込んだ作品を、よくぞ撮ってくれました!と、オリジナル脚本も手掛けた石井監督に拍手。(必然、登場人物はマスク姿、フェイスシールドやアクリル板、パソコン画面越しの高齢者施設の面会シーンなど、コロナ禍のリアルな日本が描かれている)

そして、クソみたいな社会&クズな男たちと鬼気迫る演技で戦った主演・尾野真千子に大拍手!(加えて、薄幸の風俗嬢・片山友希、強面クールな風俗店長・永瀬正敏にも拍手!)

『すばらしき世界』(監督・脚本:西川美和/原案:佐木隆三/2021年)

《下町の片隅で暮らす、短気だが実直で情に厚い男は、実は人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れた男が出会う、新たな世界とは――》とパンフレットのイントロにも書いてある通り、殺人罪で13年の刑期を終えた主人公・三上(役所広司)が、不寛容と善意が入り混じった今の日本で、職探しに七転八倒しながら(&怒りの衝動を必死に抑えながら)、社会復帰への道を辿ろうとするのだが……というお話。

前述の『ヤクザと家族』もそうだが、コロナ禍というのに、こんなに素晴らしい作品が続々と上映されるとは……ここ数年、ほとんど観る気も起きなかった日本映画界に、一体、何が起きているのか?と不思議に思うが(何十年に一度の当たり年かも?)、全ては監督と脚本と役者の力。韓国にポン・ジュノ、ソン・ガンホがいるように、日本には西川美和、役所広司がいる。そう強く感じさせてくれる作品だった。

『孤狼の血 LEVEL2(監督:白石和彌/2021年)

柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とやくざの攻防戦を過激に描いて評判を呼んだ、白石和彌監督による「孤狼の血」の続編。(再び広島を舞台にしている点でも分かるように、昭和の東映を象徴するヤクザ映画『仁義なき戦い』へのオマージュとして作られているようだ)

で、名匠・白石監督が撮る以上、当然ながら、ある意味エネルギッシュで陰謀・欲望渦巻く、頗る面白い一級の「ヤクザ映画」になっているのだが、監督いわく「この映画は基本的にヤクザ映画と言うよりは、ゴジラ映画みたいなもの」とのこと。う~ん、確かに。暴走するゴジラ(鈴木亮平扮する「上林」)VS 広島県警、といった感じの展開&締めくくり。それほどに“荒ぶる魂”「上林(鈴木亮平)」の狂暴性&存在感が際立っていて、その暴走を阻止し裏社会を取り仕切るはずの“メカゴジラ”松坂桃李(刑事・日岡役)が少し頼りなく見えるほど。(映画評論家・町山智浩氏によると「この映画は上林と日岡のラブストーリー」だそうだが、言われてみればそういう面もあるのかも。いわば強面ボーイズラブ映画…的な?)

と、まあ、そんなこんな色々楽しめる極上の一本。(但し、とってつけたようなラストは疑問)

加えて、吉田鋼太郎、中村梅雀、滝藤賢一、寺島進、中村獅童、宮崎美子、村上虹郎、斎藤工など、一癖も二癖もある脇役陣も実に良かった(特に中村梅雀と村上虹郎)。

その他、今泉力哉監督の『街の上で』、吉田恵輔監督の『BLUE/ブルー』、劇団ひとり監督作で柳楽優弥の好演が光った『浅草キッド』、重いテーマにも関わらず圧倒的なスピード感で152分という長尺を感じさせない問題作『由宇子の天秤』、時代は変わっても「青春」に変わりなし…と、高校生4人の「青春アルアル」を楽しんだ『アルプススタンドのはしの方』、なども好印象。

●監督賞

吉田恵輔(『空白』、『BLUE/ブルー』) 

●主演男優賞

綾野剛(『ヤクザと家族』)

次点:役所広司(『すばらしき世界』)

●主演女優賞

尾野真千子(『茜色に焼かれる』)

次点:瀧内公美(『由宇子の天秤』)

●助演男優賞

鈴木亮平(『孤狼の血』)

好漢・鈴木亮平だからこその怖さ。凶悪・非道・アナーキーな役柄を見事に演じきった。

次点:磯村勇斗(『ヤクザと家族』)

●助演女優賞

伊東蒼(『空白』)

瑞々しい才能の息吹に触れた思い。視線だけで様々な感情を表現できる恐るべき16歳。

次点:片山友希(『茜色に焼かれる』)

●長編ドキュメンタリー映画賞

『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』(監督:島田陽磨/2021年製作)

1959年から84年にかけて、日朝政府の後押しによって行われた在日朝鮮人とその家族による北朝鮮への帰国事業。これにより長年会うことができなかった姉妹の姿を追ったドキュメンタリー。

8月の終わりにポレポレ東中野で鑑賞。上映後《今、「自己責任」という言葉が「自業自得」と同義で使われていないだろうか。もっと、血の通った人間の話をしよう。この映画を通して。》というコメントをこの作品に寄せたフォトジャーナリストの安田菜津紀さんと島田監督のトークショーあり。(安田さんには、在日朝鮮人の父との思い出から、普段TVドラマなどまったく観ないのに「沼に落ちてしまった」という韓国ドラマ『愛の不時着』まで、興味深い話を聞かせて頂いた)

TBS「報道特集」のキャスター・金平茂紀さんからも、こんなコメントあり。

《「あの国」への憎悪の原点を考えるために———「あんな連中、帰ってくれた方がありがたい」。右も左もなく国策として遂行された「あの国」への帰国事業は一体何だったのか。運命に翻弄された日本人女性のその顔には深い皺が刻まれていた。家族の再会を阻む国と国との敵対関係を超えるヒューマニズムの視点を、僕らはいつから放りだしたのだろうか。》








2021/12/29

勝手にコトノハ映画賞2021①


《外国映画部門》

●最優秀作品賞

『アメリカン・ユートピア』(監督:スパイク・リー/アメリカ、2020年製作)

《元トーキング・ヘッズのフロントマンで、グラミー賞受賞のデイヴィッド・バーンが2019年にブロードウェイで上演したショーを、映画『ブラック・クランズマン』でアカデミー賞(脚本賞)を受賞したスパイク・リー監督が映像化した音楽映画》だが、これほどまでに心を奪われ、魂が浄化されるような快感に酔わされ、その映画体験を(多くの)誰かとシェアしたいと思えた音楽映画は他にない。

●優秀作品賞

『少年の君』(監督:デレク・ツァン/香港・中国合作、2019年製作)

進学校での壮絶ないじめの標的となる少女と、ストリートで生きる孤独な少年の出会いを通して、中国社会の過酷な現実(いじめ、貧困、超・学歴&格差社会など)を描きながら、弱者の連帯に希望を託す…などというストーリー&素晴らしい映画が「中国・香港合作」から生まれるとは。ラストも秀逸。

『消えない罪』(監督:ノラ・フィングシャイト/アメリカ、2021年製作)

警官殺しの罪を背負う女性が、出所後に唯一の家族である妹に会おうとする物語。周囲の視線の冷たさ、故郷の地での厳しい批判等々、当然ながら、その道のりは容易ではなく、重く暗いトーンが全編に漂う…が、暗いままで終わらせないのがハリウッド映画。ラストにちゃんと再生の手が差し伸べられる。その展開たるやお見事!の一言。主演のサンドラ・ブロックも素晴らしかった。

『ミナリ』(監督・脚本:リー・アイザック・チョン/アメリカ、2021年製作)

韓国系移民家族の物語なので、全編、セリフのほとんどが韓国語。なので、韓国映画と勘違いしている人も多いようだが、純然たるアメリカ映画。出てくる人たちも「韓国から来たおばあちゃん」を除いてみんな韓国系アメリカ人(アカデミー賞・助演女優賞を獲ったのは、そのおばあちゃん「韓国俳優・ユン・ヨジョン」)、なのに、移民大国アメリカで「これは、私たちの物語だ」と大ヒット……やはり、人種・民族・国家を超えた家族の物語は人の心を強く打つ、ということ。

MINAMATA ミナマタ』(監督:アンドリュー・レビタス/アメリカ、2020年製作)

ジョニー・デップが製作・主演を務め、水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いた伝記ドラマだが、著名な報道写真家でありながらアルコール中毒及び薬物中毒で廃人同様の生活をしていたユージン・スミス自身の再起の物語にもなっている所がミソ。スミスを演じたジョニー・デップ、美緒子役の美波、チッソ社長役の國村準など、役者陣の存在・演技が強く印象に残る作品だった。(音楽は坂本龍一)

『モーリタニアン 黒塗りの記憶』(監督:ケビン・マクドナルド/アメリカ、2021年製作)

モハメドウ・ウルド・スラヒの著書を原作に、悪名高きグアンタナモ収容所に収監されたモーリタニア人の青年と、彼を救うべく奔走する弁護士たちの姿を、実話に基づき描いた法廷サスペンス。9.11後のアメリカの狂気と憎悪の象徴のような収容所で日常的に行われていた拷問・虐待の卑劣さに憤りつつ、ジョディ・フォスター扮する弁護士ナンシー・ホランダーの信念と執念に、心底、エールを送りたくなる秀作。(スラヒさん本人の笑顔とボブ・ディランの歌に救われるラストも印象的)

※その他、イ・ビョンホン主演の韓国映画『KCIA 南山の部長たち』『それだけが、僕の世界』、ホン・サンス監督の『逃げた女』、コン・ユとパク・ボゴムのダブル主演作『SEOBOK/ソボク』などが印象に残った。(今年も韓国映画にハズレなし。一番観たかった『白頭山大噴火』を見逃したのは痛恨の極み)

●監督賞

スパイク・リー(『アメリカン・ユートピア』) 

●主演男優賞

デイヴィット・バーン(『アメリカン・ユートピア』)

※滲み出る優しさのオーラ。インテリジェンス溢れるその舞台の姿に。

次点:イ・ビョンホン(『KCIA 南山の部長たち』『それだけが、僕の世界』

※あまりイケてないイ・ビョンホン、ちょっと笑えるイ・ビョンホン。どちらも良し。

●主演女優賞

ジョディ・フォスター(『モーリタニアン 黒塗りの手帳』)

※『タクシー・ドライバー』の少女が、こんなに素晴らしい俳優に。

次点:サンドラ・ブロック(『消えない罪』)

※これほど「荒地」の似合う女優はいないかも。人の世の荒廃を一身に背負ったような。

●助演男優賞

國村準(『MINAMATA ミナマタ』)

※あのジョニー・デップと五分で渡り合える独特の存在感&演技力。

●助演女優賞

美波(『MINAMATA ミナマタ』)

※「こんな女優がいたんだね」という新鮮な驚き。パリで暮らしているとか。

●長編ドキュメンタリー映画賞

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』      (監督:アミール・“クエストラヴ”・トンプソン/アメリカ、2021年製作)

1969年の夏、ニュウーヨーク州マンハッタンのハーレム地区で開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を追った音楽ドキュメンタリー。スティーヴィー・ワンダー、BB・キング、フィフス・ディメンションといった、ブラックミュージックのスターたちが続々登場。その熱気、盛り上がりようは正に「黒いウッドストック」。 音楽フェスティバルというよりは決起集会のようで、観ているこちらも大興奮。とりわけ、本作最強の“アジテーター”ニーナ・シモンの歌&アピールが胸にズーンと響いた。(にしても、あのウッドストックの裏でこんなイベントが開かれていたとは…)

●特別賞

『非情城址』(監督:ホウ・シャオシエン/台湾、1989年製作)

台湾現代史において、最も激動的な1945年の日本敗戦から1949年の国民党政府の樹立までの4年間を、カタギとはいえない大家族(長老・阿祿とその息子たち)の姿を通して描いた一大叙事詩。ホウ・シャオシエン監督は本作でベネチア映画祭金獅子賞を受賞、その評価を決定づけた傑作……ということでどうしても観たかった一本。時代の波に翻弄されながらも、生きる意味と幸せを求めんとする人々の姿は痛ましく、かつ愛おしいもの。

(今夏「ホウ・シャオシエン監督特集」を企画した新宿K’sシネマのみでの上映。驚くほどの人気で、残り1席を何とかネットで確保し観ることができた)

P.S.

ついうっかり、優秀作品賞に『スウィート・シング』を入れるのを忘れてしまった。 監督は米インディーズのアイコン、アレクサンダー・ロックウェル。ろくでもない大人たちの世界から飛び出し、逃走と冒険の旅にでる子供たち……ビリー・ホリディ、ヴァン・モリソン等、流れる曲も沁み沁み。



 

2021/12/24

『東洋の魔女』「篁牛人」、そして神保町。


今日はイブだが、何気にハードで楽しい一日だった今週の火曜(21日)の話……

8時半に家を出て、まずは渋谷へ。ユーロスペースでドキュメンタリー映画『東洋の魔女』を鑑賞。

「東洋の魔女」とは、もちろん1964東京五輪で金メダルに輝いた女子バレーボール日本代表チームのこと。(1961年の世界選手権でソ連を破るまでは「東洋の台風」と呼ばれていたらしい)

で、タイトルからして当然、「日紡貝塚&鬼の大松(のスパルタ指導)」「市川昆の東京オリンピック」「日本の戦後復興」等々、幾度となく観たような映像が流されるだろうし、何も今さら……という気がしないでもなかったが、何故に興味を惹かれたかといえば、このドキュメンタリーがフランス人の監督(ジュリアン・ファロ)によるフランスの映画だったという、その一点。

バレーボールがフランスで人気のスポーツだとも思えないし(ラグビーやサッカーなら分かるが)、まして50年以上前の東京五輪&「東洋の魔女」にヨーロッパのドキュメンタリー監督が惹かれる理由が謎だったわけだが、映画を観て納得。

「東洋の魔女」=「アタックNo.1」だったわけね……

(フランスでもポピュラーなアニメとして知られている「アタックNo.1」が、「東洋の魔女」、とりわけ魔女たちの「常識を超えた過酷な訓練」に影響されて作られた作品ということに監督ジュリアン・ファロ曰く「私の神経路が反応した」とのこと)

というわけで、日紡貝塚女子バレーボール・チームの元メンバーたちのインタビューを軸に、「日本の戦後復興と魔女たちの活躍」が実写とアニメ映像で描かれるドキュメンタリー映画『東洋の魔女』。

その感想といっても、「アタックNo.1」の主題歌〈アタック アタック ナンバーワン♪〉が、いつまでも耳に残る、ちょっとシュールなドキュメンタリーだったなあ…という程度で特に強く心に残ることもなかったが、映画を通じて「鬼の大松」の知られざる一面を知ることがてきたのは収穫。ちょっとした驚きでもあった。

(「鬼の大松」こと大松博文監督は、今なお「史上最悪の作戦」として語り継がれるインパール作戦に40人の部隊を率いる少尉として従軍。部下を一人も死なせず、共に奇跡の生還を果たしたという。元メンバーの女性たちからも「やわらかい叱り方をする人」「彼にするならこんな人がいいなあと思っていた」あるいは「父のように慕っていた」という意外な言葉が……当時私たちが抱いていた“鬼”のイメージも、メディアによって作られた部分が大きかった。ということか)

映画終了後、渋谷から銀座線で虎ノ門へ。

ホテルオークラ併設の美術館「大倉集古館」で、特別展「篁牛人 ~昭和水墨画壇の鬼才~」を鑑賞。


《孤独と酒を最良の友とした異色の水墨画家・篁牛人(19011984)。特定の師につくことも美術団体に属すこともなく、芸術に至上の価値を置く自由奔放な生きざまを貫いた孤高の画家であった牛人は、「渇筆」という技法(渇いた筆などで麻紙に刷り込むように墨を定着させる)によって、独自の水墨画の世界を開拓した。大胆さと繊細さを併せ持つ渇筆は、細くたおやかな筆線と共存し、中間色層が極端に少ない白と黒の画面の中で、デフォルメされた特異な形態表現が不思議な緊張感をみなぎらせる。本展では、牛人の画業を三章に分けて構成し、水墨画の大作を中心として、初期の図案制作に関連する作品なども含め、水墨画の鬼才・篁牛人の世界をあまさず紹介する》

という案内文を事前に読んだだけで、あまり知らない画家。ささっと気楽に見てくるか……と入ったのだが、その絵に視線を投げた瞬間「わっ、すげえ!」と、思わず声が出るほどの圧倒的な迫力。大胆にデフォルメされた動物、人物が紙面狭しと躍動する様は、ちょっと大袈裟に言えば、日本のピカソここにあり!という感じ。(あとで知ったがキュビズムや藤田嗣治の影響を強く受けた画家のようだ)

友人のY君に「なかなか良かったよ」と勧められて足を運んだのだが、期待以上。観て良かった!の美術展だった。(出口で「風神雷神」と「蚊龍」のポストカード購入)


その後、地下鉄で虎ノ門から神保町へ。

午後2時からの忘年会の会場「揚子江菜館」に向かった。

メンバーは、長年の仕事仲間のJINさんとデザイナーのフェアリー(ことO林さん)&私。久しく一緒に仕事をすることもなく、ほぼ2年ぶりの再会だが、コロナに感染することもなく変わらず元気な様子。美味しい中華に舌鼓を打ちながら、酒もすすみ、会話も弾み、あっという間に楽しい時が過ぎていった。

「じゃあ珈琲でも…」と場所を変え、神保町にオフィスがあるJINさんの案内で、日本で最初にウインナーコーヒーを出した店として有名な喫茶店「ラドリオ」へ。

濃厚なホイップクリームが特徴のウインナーコーヒーは、さすがの美味さ。当然ながら、ここでも会話は弾み、小一時間ほど。再会を期して店を出た。

(みんな、また来年、会おうね!)

 

2021/12/11

12月頭の(かなり長い)メモ②


123日(金)

先月末、同じ沿線に住む旧知の友人N君から「池袋線つながりで、二人でささやかな年末飲み会でもしますか?」という誘いのメールがあり、この日、所沢で会うことに。

待ち合わせの時間は1350分……その前に、自動車免許返納及び運転経歴証明書の申請手続きを行うため石神井警察署へ。(路頭に迷ったときの“命綱”と思って取った資格だったが、結局、50年間、車とも運転とも全く縁のないまま無事返納)

手続きを済ませ、石神井公園駅前のドトール経由で(コーヒー&読書)、所沢駅に着いたのは1時間以上早い12時半頃。約30年ぶりの所沢ということで、時間つぶしを兼ねて西口「プロぺ商店街」を、ぶらり散策。(所沢のメインストリートらしく、約300mの道沿いに居酒屋、料理店、カラオケ店、献血ルーム、クリニック、薬局、スポーツジム、金融機関などがひしめいており、中々の活気)。

その後、20209月にグランドオープンした駅ナカ商業施設「グランエミオ」へ。

正直、「所詮、所沢の駅ナカ。大したことはない(はず)」と、甘く見ていたが、入ってびっくりの大空間&開放感。

エスカレータを上がれば、BOOK&CAFÉスタイルの立派な本屋がドーンと目の前に(在庫冊数18万冊とか)。そこを起点にさらに奥のフロアへ進んでいくと、グルメ好きが喜びそうなカフェやレストランが適度に並び(中でも気になったのは、4種類のエビスが味わえるビヤバー「YEBISU BAR」)、これはもう、わざわざ池袋に出る必要がなくなったなあ。と思えるほどの充実ぶり。(これで近くに映画館があれば何も言う事なし、なのだが……う~ん、残念!)

というわけで、2年ぶりにN君と会った途端の会話は…「いやー、久しぶり!…しかし、所沢、変わったね~ 驚いちゃった」「そうなんだよ、すごいだろ。西武はとにかく土地もってるからなあ…平気でこんなの作れちゃうんだよね」という感じ。

お互いの無事を喜びつつ、“二人忘年会”の場所「百味」(所沢プロぺ店)に向かった。

この店、BS TBSの人気番組『吉田類の酒場放浪記』で取り上げられたこともあり、酒場ファンの間で「所沢を代表する大衆居酒屋」として、つとに有名のよう。創業は昭和40年…ということだが、コロナ禍の折、20205月に惜しまれつつ閉店。したのだが、再スタートを願う多くのファンの声に応え202012月、新オーナーのもと、装いはそのままに大復活オープンを果たしたそうだ。

私は「食べログ」の評価を見て予約を入れたわけだが、そんな話を聞かされると、初めての店なのに馴染みの客のように情が湧き、さらに期待度アップ……それに違わず、表の看板には「本日、ボトル半額」という嬉しすぎる告知あり(聞けば、毎週金曜日は“フライデースペシャル”と称して、全てのボトルが半額になるとか)。

「ラッキー!焼酎、ボトルで頼まなきゃ」「おいおい、そんなに飲めるかよ!?」「いや、だって、二人で5杯も飲めば、十分、元が取れるでしょ!」と、語り(笑い)合いながら階段を降り入店。

 


2時というのに、かなり賑わっている店内を見渡しつつ席につき、まずはビールで乾杯…と思ったら、N君「ビールは飲まない」とのことで、即、芋焼酎「一刻者」をボトル&お湯付きでオーダー。豊富なメニューの中から、煮込み、焼き鳥10本などを選んで、再会を祝した。

それから延々4時間……ひたすら飲み、食い、話し続け、気が付けばボトルは空。追加で注文した肴(刺身の盛り合わせ、鍋料理など)もすべて食べつくし、酔っ払いの爺二人、「じゃあ、また来年の春に!」と上機嫌で帰路に就いたわけだが(「百味」の料金。〆て、一人3500円という安さ!)……

で、4時間も二人でどんな話をしていたかというと、

1964東京五輪(市川昆監督の『東京オリンピック』は「やはり名作。凄かった!」、リーフェンシュタールの『オリンピア』が参考になったのかも?…というような話から始まり、「あの映画の真の主役は誰だったか? 」というN君の問いに行き着いた。「う~ん?アベベ?チャスラフスカかな?」と答えあぐねていた所、彼曰く「美智子さん」とのこと。それだけ多くの場面に当時の皇太子妃の姿があったという。なるほど。高度経済成長の象徴、華族制度がなくなりみんなが平等になった自由の象徴が「美智子さん」であり、五輪の主役にふさわしかった、ということか)

朝鮮戦争とマッカーサーと平和四原則(話の出どころはN君がいま読んでいるという、ディヴィッド・ハルバースタム著『朝鮮戦争』…これが頗る面白い本のようで、「朝鮮戦争の最終的なターゲットは“日本”……つまり、朝鮮戦争はソ連と金日成が日本攻撃の足場を確保する準備だった」という話。日本では朝鮮戦争と言えば「朝鮮特需」…というだけで、あまり知られていませんが)

ゴジラVS警視庁30年ほど前「広告制作会社」時代に提案し、即、却下された警視庁のリクルート用パンフの企画案だが……随分昔からN君えらくお気に入りの様子で、未だ「もし出来ていたら日本の警察もなかなかのもんだぞ。と、アメリカも驚いたと思うよ」などと、楽しそうに絶賛してくれる。正直、自分としてはそこまで褒められるほどのもんじゃない、とは思うが、この企画のおかげで30年経っても二人で笑い合えるのは幸せなこと。やはり“持つべきものは友”)

日大・田中前理事長(先月末、日大・田中英寿理事長が所得税法違反の疑いで逮捕されたが、話にでたのはその脱税の件ではなく、50年以上も前の「日大闘争」と田中前理事長の関係……当時日大には、「関東軍」と呼ばれる“プロのヤクザ”のような集団(柔道部や相撲部、空手部などの体育会系の学生とそのOB)がいて、日本刀やハンマーを手に学生たちに襲いかかるなど、全共闘つぶしの急先鋒として大学側に重宝されていたわけだが、その「関東軍」を率いていたのが、日大相撲部で学生横綱にもなった「田中英寿」その人。68年当時は経済学部の4年生だったらしいが、“全共闘つぶし”後も大学に居座り、権力の座にのし上がっていった…というわけ。要するにあの頃の“番犬たち”が今の日大を牛耳っているという皮肉。「そういえば、あれだけいた左翼は一体どこへ消えてしまったんだろう?」と、お互い昔を思い出して、少しため息)

などなど。(もっと色々あるけど、きりがない)

P.S.

帰りがけ、N君から自身が書いた雑誌論文のコピー2点を頂く。タイトルは《戦後労使関係史余滴「京浜小唄」》と《最低賃金制の回顧》……もともと労働経済学者である彼。年相応に老いた今も頭脳は衰えることなく某大学名誉教授という肩書で、度々雑誌に論文を発表しているようだ。

(気の置けない仲間の一人なのだが、彼と飲むときは常に楽しく学んでいるような気分。身近な先生というか、賢い兄貴というか……また会う日まで、お互い、元気で! と、切に思う)

 

12月頭の(かなり長い)メモ①


121日(水)

午前3時過ぎ、凄まじい雷鳴で目が覚めた。強い風と激しい雨……雷嫌いの愛猫ジャックが大慌てで階段を駆け下りる音が聞こえた。(ジャックは私の寝床の横を通って押し入れに身を隠した)

やはり目を覚ました家人と、見たばかりの夢の話をしている間に雷は鳴りやみ、ジャックもノソノソ押し入れから出てきて私の足元に蹲った。そこからまたウトウトして、6時半頃。今度は「ニャー」と餌を催促する声で起こされた。

8時近く、いつもより少し遅めの朝食を食べながら朝刊を開くと、昭和の名曲「神田川」の作詞者・喜多条忠さん逝去(享年77歳)の記事あり。ふと、高校時代の友人のことを思い出した。

九州男児で実直かつ頑固な男だったが、大学のゼミで知り合った女性と、あっという間に半同棲生活を始めるような大胆さと熱情を併せ持った人間でもあった。

当時その彼が、かけてきた電話で言った言葉が「オレ、いま“神田川”なんだよね」……

3畳一間の小さな下宿 貴方は私の指先見つめ 悲しいかいって聞いたのよ

二人の“愛の棲家”(3畳一間……よりは少しだけ広かった)は、土曜の夜ともなると仲間たちのたまり場に変わった。バイト暮らしの貧しい者同士、各々トリスや角(たまにオールド)を持ち寄り、映画・文学・思想・漫画等々、明け方まで「〈永島慎二〉風の朝焼けだなあ」などとほざきながら、時を忘れて語りあったものだった(あれからもう50年。昭和も友も遠くなりにけり)

122日(木)

中村吉右衛門が亡くなった(1128日)……というより、私的には「鬼平が死んだ」と言うべきか。それほどに「鬼平犯科帳」長谷川平蔵役の吉右衛門は素晴らしく、敬愛する池波正太郎の世界に酔わされながら、幾度となくその姿に見惚れたものだった。

(ドラマの余韻が染み渡るテーマ曲、ジプシー・キングの「インスピレーション」もゾクっとするほど良かった。まるで「鬼平」に合わせて作ったかのように)

https://www.youtube.com/watch?v=Tm7N0-LGpEc

脇を固めた粂八(蟹江敬三)や五郎蔵(綿引洪)の姿もこの世になく、本当に淋しい限りだが、「おまさ」は健在。梶芽衣子の末永い活躍を願いつつ、吉右衛門さんのご冥福を祈りたい。