2021/12/29

勝手にコトノハ映画賞2021①


《外国映画部門》

●最優秀作品賞

『アメリカン・ユートピア』(監督:スパイク・リー/アメリカ、2020年製作)

《元トーキング・ヘッズのフロントマンで、グラミー賞受賞のデイヴィッド・バーンが2019年にブロードウェイで上演したショーを、映画『ブラック・クランズマン』でアカデミー賞(脚本賞)を受賞したスパイク・リー監督が映像化した音楽映画》だが、これほどまでに心を奪われ、魂が浄化されるような快感に酔わされ、その映画体験を(多くの)誰かとシェアしたいと思えた音楽映画は他にない。

●優秀作品賞

『少年の君』(監督:デレク・ツァン/香港・中国合作、2019年製作)

進学校での壮絶ないじめの標的となる少女と、ストリートで生きる孤独な少年の出会いを通して、中国社会の過酷な現実(いじめ、貧困、超・学歴&格差社会など)を描きながら、弱者の連帯に希望を託す…などというストーリー&素晴らしい映画が「中国・香港合作」から生まれるとは。ラストも秀逸。

『消えない罪』(監督:ノラ・フィングシャイト/アメリカ、2021年製作)

警官殺しの罪を背負う女性が、出所後に唯一の家族である妹に会おうとする物語。周囲の視線の冷たさ、故郷の地での厳しい批判等々、当然ながら、その道のりは容易ではなく、重く暗いトーンが全編に漂う…が、暗いままで終わらせないのがハリウッド映画。ラストにちゃんと再生の手が差し伸べられる。その展開たるやお見事!の一言。主演のサンドラ・ブロックも素晴らしかった。

『ミナリ』(監督・脚本:リー・アイザック・チョン/アメリカ、2021年製作)

韓国系移民家族の物語なので、全編、セリフのほとんどが韓国語。なので、韓国映画と勘違いしている人も多いようだが、純然たるアメリカ映画。出てくる人たちも「韓国から来たおばあちゃん」を除いてみんな韓国系アメリカ人(アカデミー賞・助演女優賞を獲ったのは、そのおばあちゃん「韓国俳優・ユン・ヨジョン」)、なのに、移民大国アメリカで「これは、私たちの物語だ」と大ヒット……やはり、人種・民族・国家を超えた家族の物語は人の心を強く打つ、ということ。

MINAMATA ミナマタ』(監督:アンドリュー・レビタス/アメリカ、2020年製作)

ジョニー・デップが製作・主演を務め、水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いた伝記ドラマだが、著名な報道写真家でありながらアルコール中毒及び薬物中毒で廃人同様の生活をしていたユージン・スミス自身の再起の物語にもなっている所がミソ。スミスを演じたジョニー・デップ、美緒子役の美波、チッソ社長役の國村準など、役者陣の存在・演技が強く印象に残る作品だった。(音楽は坂本龍一)

『モーリタニアン 黒塗りの記憶』(監督:ケビン・マクドナルド/アメリカ、2021年製作)

モハメドウ・ウルド・スラヒの著書を原作に、悪名高きグアンタナモ収容所に収監されたモーリタニア人の青年と、彼を救うべく奔走する弁護士たちの姿を、実話に基づき描いた法廷サスペンス。9.11後のアメリカの狂気と憎悪の象徴のような収容所で日常的に行われていた拷問・虐待の卑劣さに憤りつつ、ジョディ・フォスター扮する弁護士ナンシー・ホランダーの信念と執念に、心底、エールを送りたくなる秀作。(スラヒさん本人の笑顔とボブ・ディランの歌に救われるラストも印象的)

※その他、イ・ビョンホン主演の韓国映画『KCIA 南山の部長たち』『それだけが、僕の世界』、ホン・サンス監督の『逃げた女』、コン・ユとパク・ボゴムのダブル主演作『SEOBOK/ソボク』などが印象に残った。(今年も韓国映画にハズレなし。一番観たかった『白頭山大噴火』を見逃したのは痛恨の極み)

●監督賞

スパイク・リー(『アメリカン・ユートピア』) 

●主演男優賞

デイヴィット・バーン(『アメリカン・ユートピア』)

※滲み出る優しさのオーラ。インテリジェンス溢れるその舞台の姿に。

次点:イ・ビョンホン(『KCIA 南山の部長たち』『それだけが、僕の世界』

※あまりイケてないイ・ビョンホン、ちょっと笑えるイ・ビョンホン。どちらも良し。

●主演女優賞

ジョディ・フォスター(『モーリタニアン 黒塗りの手帳』)

※『タクシー・ドライバー』の少女が、こんなに素晴らしい俳優に。

次点:サンドラ・ブロック(『消えない罪』)

※これほど「荒地」の似合う女優はいないかも。人の世の荒廃を一身に背負ったような。

●助演男優賞

國村準(『MINAMATA ミナマタ』)

※あのジョニー・デップと五分で渡り合える独特の存在感&演技力。

●助演女優賞

美波(『MINAMATA ミナマタ』)

※「こんな女優がいたんだね」という新鮮な驚き。パリで暮らしているとか。

●長編ドキュメンタリー映画賞

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』      (監督:アミール・“クエストラヴ”・トンプソン/アメリカ、2021年製作)

1969年の夏、ニュウーヨーク州マンハッタンのハーレム地区で開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を追った音楽ドキュメンタリー。スティーヴィー・ワンダー、BB・キング、フィフス・ディメンションといった、ブラックミュージックのスターたちが続々登場。その熱気、盛り上がりようは正に「黒いウッドストック」。 音楽フェスティバルというよりは決起集会のようで、観ているこちらも大興奮。とりわけ、本作最強の“アジテーター”ニーナ・シモンの歌&アピールが胸にズーンと響いた。(にしても、あのウッドストックの裏でこんなイベントが開かれていたとは…)

●特別賞

『非情城址』(監督:ホウ・シャオシエン/台湾、1989年製作)

台湾現代史において、最も激動的な1945年の日本敗戦から1949年の国民党政府の樹立までの4年間を、カタギとはいえない大家族(長老・阿祿とその息子たち)の姿を通して描いた一大叙事詩。ホウ・シャオシエン監督は本作でベネチア映画祭金獅子賞を受賞、その評価を決定づけた傑作……ということでどうしても観たかった一本。時代の波に翻弄されながらも、生きる意味と幸せを求めんとする人々の姿は痛ましく、かつ愛おしいもの。

(今夏「ホウ・シャオシエン監督特集」を企画した新宿K’sシネマのみでの上映。驚くほどの人気で、残り1席を何とかネットで確保し観ることができた)

P.S.

ついうっかり、優秀作品賞に『スウィート・シング』を入れるのを忘れてしまった。 監督は米インディーズのアイコン、アレクサンダー・ロックウェル。ろくでもない大人たちの世界から飛び出し、逃走と冒険の旅にでる子供たち……ビリー・ホリディ、ヴァン・モリソン等、流れる曲も沁み沁み。



 

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