《邦画部門》
●最優秀作品賞
『ヤクザと家族 The Family』(監督・脚本:藤井道人/2020年)
あの『新聞記者』(2020年、日本アカデミー賞・作品賞受賞)でメガホンをとった藤井道人監督の新作だが、私的には『新聞記者』以上の傑作。1992年の暴対法施行後(2009年には暴力団排除条例が制定)、「反社会勢力」として徹底的に追い込まれ、食うことすらままならない存在となった「ヤクザ」の“今”、その“消えゆく生き方”を、見事なまでに哀しく、優しく、圧倒的な熱量で描き出した藤井監督のふり幅の広さ・凄さに只々驚嘆するばかり。(東海テレビ製作のドキュメンタリー『ヤクザと憲法』が描いた“反社会であるが故の人権喪失”……その過剰なまでの締め付けの是非を観客に考えさせるという意味でも稀有な作品)
※吉田惠輔監督の『空白』と、どちらを最優秀にするか迷ったが、自分の好みでコレ。
●優秀作品賞
『空白』(監督:吉田恵輔/2021年)
万引きを目撃され逃走中に車と衝突した女子中学生の死をめぐり錯綜する、被害者の父親と事故に関わる人々の姿を緻密な脚本のもとに丁寧に(というか、執拗に)描写。全員が加害者にも被害者にもなり得る物語が危うい緊張感を伴い映し出される、というヒューマンサスペンスの秀作。監督は『ヒメアノ~ル』の吉田惠輔、主演は古田新太(共演・松坂桃李)、その他、寺島しのぶ、田畑智子、片岡礼子、藤原季節などなど……だが、最も印象に残ったのは、古田でも松坂でもなく、逃走中の交通事故死であっという間にスクリーンから姿を消してしまう古田の娘・花音を演じた「伊東蒼」。〈学校でも自宅でも居場所がなく、自分のことを変えたくてもその手立てすらわからず、自分の声は誰にも届かないのだと静かに絶望している少女〉の複雑な内面を見事なまでに表現していた。
『茜色に焼かれる』(監督:石井裕也/2021年)
「社会的弱者VS不条理な日本社会(上級国民、DV、コロナ禍での飲食店への締め付け、不当解雇、職業差別等々)」というテーマ(?)を基に描かれるシングルマザーと息子、そしていくつもの不幸と苦難を背負う女たちの哀しき友情の物語……(で、ラストは文字通り「茜色に焼かれる」)
まず、このコロナ禍に、これだけのパワーと怒りと哀しみ&愛情とユーモアを詰め込んだ作品を、よくぞ撮ってくれました!と、オリジナル脚本も手掛けた石井監督に拍手。(必然、登場人物はマスク姿、フェイスシールドやアクリル板、パソコン画面越しの高齢者施設の面会シーンなど、コロナ禍のリアルな日本が描かれている)
そして、クソみたいな社会&クズな男たちと鬼気迫る演技で戦った主演・尾野真千子に大拍手!(加えて、薄幸の風俗嬢・片山友希、強面クールな風俗店長・永瀬正敏にも拍手!)
『すばらしき世界』(監督・脚本:西川美和/原案:佐木隆三/2021年)
《下町の片隅で暮らす、短気だが実直で情に厚い男は、実は人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れた男が出会う、新たな世界とは――》とパンフレットのイントロにも書いてある通り、殺人罪で13年の刑期を終えた主人公・三上(役所広司)が、不寛容と善意が入り混じった今の日本で、職探しに七転八倒しながら(&怒りの衝動を必死に抑えながら)、社会復帰への道を辿ろうとするのだが……というお話。
前述の『ヤクザと家族』もそうだが、コロナ禍というのに、こんなに素晴らしい作品が続々と上映されるとは……ここ数年、ほとんど観る気も起きなかった日本映画界に、一体、何が起きているのか?と不思議に思うが(何十年に一度の“当たり年”かも?)、全ては監督と脚本と役者の力。韓国にポン・ジュノ、ソン・ガンホがいるように、日本には西川美和、役所広司がいる。そう強く感じさせてくれる作品だった。
『孤狼の血 LEVEL2』(監督:白石和彌/2021年)
柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とやくざの攻防戦を過激に描いて評判を呼んだ、白石和彌監督による「孤狼の血」の続編。(再び広島を舞台にしている点でも分かるように、昭和の東映を象徴するヤクザ映画『仁義なき戦い』へのオマージュとして作られているようだ)
で、名匠・白石監督が撮る以上、当然ながら、ある意味エネルギッシュで陰謀・欲望渦巻く、頗る面白い一級の「ヤクザ映画」になっているのだが、監督いわく「この映画は基本的にヤクザ映画と言うよりは、ゴジラ映画みたいなもの」とのこと。う~ん、確かに。暴走するゴジラ(鈴木亮平扮する「上林」)VS 広島県警、といった感じの展開&締めくくり。それほどに“荒ぶる魂”「上林(鈴木亮平)」の狂暴性&存在感が際立っていて、その暴走を阻止し裏社会を取り仕切るはずの“メカゴジラ”松坂桃李(刑事・日岡役)が少し頼りなく見えるほど。(映画評論家・町山智浩氏によると「この映画は上林と日岡のラブストーリー」だそうだが、言われてみればそういう面もあるのかも。いわば強面ボーイズラブ映画…的な?)
と、まあ、そんなこんな色々楽しめる極上の一本。(但し、とってつけたようなラストは疑問)
加えて、吉田鋼太郎、中村梅雀、滝藤賢一、寺島進、中村獅童、宮崎美子、村上虹郎、斎藤工など、一癖も二癖もある脇役陣も実に良かった(特に中村梅雀と村上虹郎)。
その他、今泉力哉監督の『街の上で』、吉田恵輔監督の『BLUE/ブルー』、劇団ひとり監督作で柳楽優弥の好演が光った『浅草キッド』、重いテーマにも関わらず圧倒的なスピード感で152分という長尺を感じさせない問題作『由宇子の天秤』、時代は変わっても「青春」に変わりなし…と、高校生4人の「青春アルアル」を楽しんだ『アルプススタンドのはしの方』、なども好印象。
●監督賞
吉田恵輔(『空白』、『BLUE/ブルー』)
●主演男優賞
綾野剛(『ヤクザと家族』)
次点:役所広司(『すばらしき世界』)
●主演女優賞
尾野真千子(『茜色に焼かれる』)
次点:瀧内公美(『由宇子の天秤』)
●助演男優賞
鈴木亮平(『孤狼の血』)
好漢・鈴木亮平だからこその怖さ。凶悪・非道・アナーキーな役柄を見事に演じきった。
次点:磯村勇斗(『ヤクザと家族』)
●助演女優賞
伊東蒼(『空白』)
瑞々しい才能の息吹に触れた思い。視線だけで様々な感情を表現できる恐るべき16歳。
次点:片山友希(『茜色に焼かれる』)
●長編ドキュメンタリー映画賞
『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』(監督:島田陽磨/2021年製作)
1959年から84年にかけて、日朝政府の後押しによって行われた在日朝鮮人とその家族による北朝鮮への帰国事業。これにより長年会うことができなかった姉妹の姿を追ったドキュメンタリー。
8月の終わりにポレポレ東中野で鑑賞。上映後《今、「自己責任」という言葉が「自業自得」と同義で使われていないだろうか。もっと、血の通った人間の話をしよう。この映画を通して。》というコメントをこの作品に寄せたフォトジャーナリストの安田菜津紀さんと島田監督のトークショーあり。(安田さんには、在日朝鮮人の父との思い出から、普段TVドラマなどまったく観ないのに「沼に落ちてしまった」という韓国ドラマ『愛の不時着』まで、興味深い話を聞かせて頂いた)
TBS「報道特集」のキャスター・金平茂紀さんからも、こんなコメントあり。
《「あの国」への憎悪の原点を考えるために———「あんな連中、帰ってくれた方がありがたい」。右も左もなく国策として遂行された「あの国」への帰国事業は一体何だったのか。運命に翻弄された日本人女性のその顔には深い皺が刻まれていた。家族の再会を阻む国と国との敵対関係を超えるヒューマニズムの視点を、僕らはいつから放りだしたのだろうか。》
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