2011/12/11

電車は走る。人は生きる。


♪電車が走―る 電車が走―る ランランララランランランラン
 学校行く人 会社に行く人 みんなが僕を待っている

90年代初頭、よくテレビで流れていたJR東日本のCMソングの一節だが、電車には本当に色々な人が乗っている。

今まで私が偶然出会った幾多の“乗客”の中で最も衝撃的(笑劇的?)だったのは、数十冊の旅行パンフレットを膝の上に重ね置き、一冊ずつ手にとってその地方の歌をうたいだすオジサン。
「佐渡ね~、いいよなあ、佐渡……ハアー 佐渡へ 佐渡へと草木もなび~く~よ、アリャアリャアリャサ」、「鹿児島だよ、鹿児島。花は霧島 煙草は国分~ 燃えて上がるは オハラハー 桜島~」「ハアー 会津磐梯山は 宝のや~ま~よ~」といった調子である。それはもう上機嫌で歌っているので、多少迷惑だが注意する気にもなれない。それどころかこっちにまで楽しさが伝染してきて完全にギブアップ&大笑い。
そして遂にオジサンの歌は海を越えてしまった。“And ブルーハワ~イ~”……彼これ20年近く前の出来事だが、あの人は今もどこかの車内で元気に歌っているのだろうか。

……少し変な前置きになってしまったが、DVDで観た映画『阪急電車 片道15分の奇跡』の紹介。

憲法で戦争を放棄した平和な経済大国でも、人は常に人と戦って生きているんだなあ、とつくづく思わされる映画だった。
車内の迷惑おばさん、イケメンDV彼氏、二股オトコ&擦り寄りオンナ、意地悪女子児童……戦う相手はそれぞれ違うけど、“身勝手・無思慮・無分別”という点では皆同じ。戒めつつ斯様な輩と決別し、平和な社会の至る所で顔を出す“妬み・嫉み、悪意・暴力”に染まらず、シャンと背筋を伸ばして自分らしく生きようとする人たちの“片道15分”の出会いの物語である。

この群像劇の中心にいるのは「宮本信子」。礼節を知る昔気質の素敵なお婆ちゃんを表情豊かに演じていた(孫役は只今ブレイク中の芦田愛菜ちゃん)PTA仲間に振り回される気弱な主婦「南果歩」、純白のドレスに哀しい女の性を投影してみせた「中谷美紀」、軍事オタクの大学生「勝地涼」の演技も印象に残った。

電車内やホームでの数秒、数分の何気ない出会いを“奇跡”というのは少し大袈裟かもしれないが、偶然の出会いによって広がる優しさの連鎖が、心地よく胸に響く“佳作”でありました。(今年観た邦画のベスト3に入れたい作品。といってもそれほど邦画を観てないので、残りの二つは思い浮かばない)

0 件のコメント:

コメントを投稿