毎年この日を迎えると、亡き母の話を思い出す。
74年前の今日、「朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ…」と始まる「玉音放送」を近所の人たちと一緒に聞いていた母は、「ようやく、イヤでイヤで仕方なかった戦争が終わる」という安堵の気持ちを抑えきれず、沈痛な面持ちの周囲に憚ることなく「あゝ、良かった」と思わず声を漏らしたという。それを耳にした知り合いの女性から「アッちゃん(母の愛称)、そんなことを言うもんじゃないよ」と強くたしなめられたそうだが……(その話を聞かされたのは10代半ば頃。戦争を忌み嫌う母の“天然”さを、息子ながらに嬉しく、頼もしく思ったものだ)
で、これまであまり気にもしていなかったのだが、「ポツダム宣言受諾(無条件降伏)」は分かったにしても、文語体で書かれた「玉音放送」の内容を母はどのくらい理解できていたのだろうか?
という疑問が今さらながら湧いてきた。(かく言う私も、「所詮、ただの言い訳」と、その全文を読んだことも読みたいと思ったこともなかったが)
という疑問が今さらながら湧いてきた。(かく言う私も、「所詮、ただの言い訳」と、その全文を読んだことも読みたいと思ったこともなかったが)
ならば一度、この機会にちゃんと読んでおくのが筋。現代語に訳したものはないだろうか…とネットで探していたところ、割とすぐに見つかった。
「玉音放送を現代語にすると...」(ハフポスト日本版)
玉音放送の原稿「終戦の詔書」は、華族・軍部に信頼が厚く「政界の黒幕」的な存在だった陽明学者・安岡正篤(戦時中から政治家や右翼活動家に強い影響力があったため、GHQより戦犯容疑がかかったが、台湾総統・蒋介石の助け舟により逮捕を免れた人物)によって書かれたもので、どれだけ昭和天皇の意思が反映したものかは分からないが……
「戦争に敗けた」ことには一切触れず、自ら始めた戦争であるにも関わらず「未来のために平和を実現するため」に「(戦争を)終わらす」と述べている点(「堪へ難キヲ堪へ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス」の有名な一節)など、やはり“言い訳”としか思えないもの。(国民を欺くために、敢えて分かりにくい言葉を使ったのでは?…とさえ思う)
中でも特に違和感を覚えたのは「アメリカとイギリスに宣戦布告した理由も、日本の自立と東アジアの安定平和を願うからであり、他国の主権を排して、領土を侵すようなことは、もとより私の意志ではない」という部分。
関連して「全国戦没者追悼式」……天皇は「深い反省」の言葉を継承。安倍は今年も「反省」は無く「今、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは決して忘れることはありません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます」と述べた。
「尊い犠牲」?「敬意と感謝」?…人権無視の「大日本帝国」が突き進んだ自滅的な戦争によって命を無駄にされ、尊い人生を奪われた方々に、人権尊重の社会に生きる私たちがすべきは「感謝」ではなく、その悔しみ・悲しみを思い「安らかに」と願うこと、そして「過ちは二度と繰り返さない」と誓うことでは?
「太平洋戦争 戦没者の60%強140万人は餓死 この戦争における日本軍の戦闘状況の特徴は、補給の途絶、現地で採取できる食物の不足から、膨大な不完全飢餓を発生させたこと。
一方、官僚機構は敗戦後、司法含め証拠隠滅のため文書を焼いて保身を図る。誰も責任を取らない歴史だけが踏襲された。」(藤原彰『飢死(うえじに)した英霊たち』)
またこの日は、韓国の「光復節」(日本による植民地支配からの解放記念日)。文在寅大統領の演説全文を読んだ。
「民主主義を尊重し、理不尽な事には抗議しながらも、基本的には和平の道を探る」という内容。別に韓国及び文大統領の肩を持つわけではないが、理性も見識もある“まともな指導者”の姿を見せられた感じ。「そうだよなあ」と頷く部分が多かった。(日本のメディアは「日本批判が抑えられた」ことばかりを伝えるけれど)
夜は、NHKスペシャル「全貌 二・二六事件~最高機密文書で迫る~」
事件7日前に詳細を把握していた海軍がそれを隠蔽→決起部隊鎮圧後に「一審制・非公開・弁護人なし」の乱暴な軍法裁判で陸軍が幕引き→鎮圧の指揮を執った天皇の権威が高まり、それを軍部が利用し戦争突入……という流れ。最後のナレーションにNHKの意地を見た。
「極秘文書に残されていたのは、不都合な事実を隠し、自らを守ろうとした組織の姿でした。事実とは何か。私たちは事実を知らないまま、再び誤った道へと歩んではいまいか」
P.S.
プレイディみかこ(イギリス在住の保育士・ライター・コラムニスト)著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)……すごーく面白かった。感想を書き出すと長くなりそうなので、幾つか印象に残った言葉を(タイトル自体とても印象的だけど)。
「万国の万引きたちよ、団結せよ」
「多様性はうんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」
「でも、よく考えてみれば、誰だってアイデンティティが一つしかないってことはないはず」
「時代遅れの反PC(ポリティカル・コレクトネス)な発言は本当によくないけど、その『時代遅れ』の部分を強調していじめるのもどうかと思うんだ」
「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」
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