2016/06/07

台湾青春映画の秀作。



「ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」

先日(3日)、新宿で映画を観た帰り道、ふと、昔読んだフランスの作家ポール・ニザンのデビュー作『アデン・アラビア』の冒頭の一文を思い出した。

といっても“二十歳”という年齢に引っ掛かったのではなく、私を含め普通の男には無縁と思われる“一生でいちばん美しい年齢”という言葉が、映画の印象に合わせて浮かび上がったからだと思う。
「ぼくは」を「わたし」に、二十歳を17歳に置き換えると、その一文はどう変わるのだろうか。
ちょっとニザンをまねてコピーを書きたくもなった。

映画のタイトルは『若葉のころ』(原題は「五月一號」)。「シネマート新宿」の入口に貼られていたポスターの中で、女子高生が二人、踊るようにはしゃいでいた。そこに付されたキャッチコピーは
17歳、初恋… 記憶の中の君に 僕はもう一度 恋に落ちた。

主人公は離婚した母・祖母と台北の家で暮らす17歳の女子高生バイ(ルゥルゥ・チェン)……ビージーズの名曲「若葉のころ(First of May)」をモチーフに、母と娘、それぞれの初恋を、台湾が戒厳令下にあった1982年と2013年という時間を超えてシンクロさせながら、その痛みと喪失を抒情豊かに描いた青春映画だ。
(今さら青春映画…と言うなかれ。私も普段は青春ラブストーリーというだけで“即スルー”の側だが、4~5年前『台北の朝、僕は恋をする』(2009年製作)を観て以来、台湾青春映画は別モノ。その映像の美しさと色彩の豊かさ、そして甘酸っぱいストーリーに異国情緒が相まった独特の味わいが、とても気に入っている)

で、この作品の一番の魅力は何と言っても、一人二役のヒロイン、ルゥルゥ・チェンの非凡な演技力と個性的な愛らしさ。文字通り「若葉のころ」の瑞々しい輝きを放ちながら、心の脆さと頑なさの狭間で揺れるリアルな17歳を表情豊かに演じていた。
そして心に残る美しい映像の数々……特に、学校の屋上から、盗んだレコードを訳もなく円盤のように飛ばし合う男子高生たちの弾けた姿。そのはしゃぐ声の中、幾枚ものレコードが空に舞うシーンは、二度と戻れぬ17歳という年齢の普遍的なきらめきを活写し、切なく眩しく、脳裏に焼き付くものだった。

というわけで、忘れがたい一本になった秀作『若葉のころ』。
https://www.youtube.com/watch?v=1gewTWM6fH0
映画の中で度々流れるビージーズの曲も久しぶりに聴いてみた。

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