2015/11/30

アラーキーな夜が明けて。



昨夜は、20時「日曜美術館」(Eテレ)、21時「新・映像の世紀」(NHKスペシャル)、22時「サンデースポーツ」、23時「情熱大陸」(TBS)と、テレビ三昧。

「日曜美術館」(再放送)は、前立腺がんを患い、その後、右眼の視力を失った〈天才写真家アラーキー荒木経惟75歳に密着!〉……ということで、75歳の誕生日を契機に北斎の画狂老人をもじって「写狂老人」と名乗り、今もカメラ片手に疾走し続ける写真家アラーキーの特集。
(撮影現場のみならず、代表作『センチメンタルな旅・冬の旅』の写真も数点紹介されていた。
私自身、何度も見てきた写真のはずなのに、雪の積もったバルコニーを愛猫チロが跳ねるラストのカットが画面に流れた瞬間、条件反射のように胸が熱くなってしまった)

番組中、「生(性)と死では、(気持ち的に)死に近い」と本人が語っていたように、時折見せる表情がどこか寂しげで、昔のような無限の明るさは影を潜めた気がするが(本当に大好きな人なので、長生きしてほしい!)、相変わらず“写欲”は健在、言葉も光る。

「写真撮りたいっていう気持ちは自分自身を撮りたいってことなんだよね」「8月というと、(どう考えても)広島、長崎だろうし、本当はこんな写真撮ってる場合じゃないんだろうけど、オレが撮りたいのはコレだから」と言いながら、一貫してエロスとタナトスを追求し表現するアラーキーの姿を見ながら、どこかその在り方が吉本(隆明)さんに似ているなあ、と思った。
(「男は顔がヌードなんだよ」という言葉も印象的。「ちょっと浮かれすぎだな」と言いながら、被写体・糸井重里から普段の穏やかな笑顔を剥ぎ取り、深い皺と鋭い視線を捉えたカメラの腕も流石の一言)

そういえば確か、以前に読んだ『吉本隆明の東京』(石岡善治郎著)の表紙カバーと扉の写真はアラーキーが撮ったはず……と思い出し、今日、本棚からそれを取り出してみた。
そのカバーには、雨上がりの路地(多分、谷根千あたり)、開いたまま地面に置かれた携帯傘の傍で、何か(誰か?)を指さし微笑んでいる庶民・吉本隆明の飾らない姿があった。(扉の写真は、立ち並ぶ高層ビル群を見上げるように旧い路地を歩く、後姿の吉本さん)

「情熱大陸」は、“美しすぎる鋼板画家”と呼ばれる「小松美羽」に密着。“美しすぎる”という変な肩書きを嫌って、ひたすら創作に打ち込むその覚悟の仕方が◎。作品は「神」と「獣」をイメージして描いたものが多く、一見グロテスクだが、独創的で繊細。『酔いどれ』と題された絵などはどこかユーモラスで、哀愁漂う現代的な妖怪のようにも思えた。

妖怪と言えば……今日、アインシュタインばりの表情(舌出し顏)でアラーキーのカメラに収まったこともある、漫画家・水木しげるさんが亡くなった。ファンの一人として、ご冥福を祈りたい。

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