2015/12/03

こんな邦画が観たかった。(『恋人たち』)



先月中旬(17日)、テアトル新宿で観た映画『恋人たち』……(個人的には2015年度ベスト1の日本映画になるはず)

何がイイって、まず、原作・脚本を含め監督・橋口亮輔の100%オリジナル作品であるということ(こういう映画が少なすぎる!)。
「台本を書くのに8か月もかかってしまった」と監督自身が言うように、無名の役者たちとのワークショップを重ねながら、丁寧に、緻密に、惜しみなくエネルギーを注いで作られた映画だというのが、彼らが発するリアルな台詞、その日常から醸し出される焦燥感、徒労感、倦怠感など繊細な心理描写によって、よく分かる。(時折、ドキュメンタリー映画を観ているような錯覚に捉われるのも、映像にウソ臭さがまったくないからだろう)

そしてスクリーンに映し出されるのは、自分の居場所や立場を確認できないまま、幸せという幻想に翻弄される人々と様々な恋人たちの姿。その姿から今の日本社会を覆う冷たい空気が見えてくる。
(とりわけ印象的だったのは、どこにでもいそうな平凡な主婦・高橋瞳子を演じる「成嶋瞳子」の圧倒的な非凡さ。情事のあと乳房丸出しでお茶を入れ、束の間の炎のような夢を身体から消し去るように野原で放尿、咥え煙草……「性的魅力に欠ける女」の潜在的な渇望と諦念を、ほとんど表情を変えずに表現しきった演技力と存在感は、「スゴイ!」の一言)

「今は言いがかりが通る時代なので、映画もテレビも自主規制が厳しくなっています。この風潮が進んでいくと、社会の問題には目を向けられなくなって、本当に小さな話しか生まれません。クレームが怖いからといってあらかじめ自粛すれば、恋愛とか、家族とか、そういった当たり障りのない題材しか描けなくなります。塚本晋也監督は、今撮らないといけないと思って『野火』を作りましたが、ああいう意欲的な作品を作ろうと思ったら自主映画しかありません。そんな状況を変えていかないといけないなと思います」
「言いがかりを付けられた側が、何の罪科もないのに痛い目に遭うという状況が、今の日本ではざらにあります。そんな日本のねじれた感じが描ければいいなと思いました」

プログラムの中で橋口監督は、そう語っていたが、見事にリアルな人間の実存と、顔や名前が出ない所で偏狭な差別が渦巻く日本の今を映像化してくれたように思う。

「外に向かって開かれていく、ささやかな希望をちりばめたつもりです」と語るラストシーンも強く印象に残った。
(エンドロールで流れた主題歌、Akeboshiの「Usual life_Special Ver.」もグー!)

※今日は、午後3時から神保町でインタビュー取材。6時から石神井で、息子が保育園に通っていた頃の“送迎仲間”Kさんと7、8年ぶりに一献。(Kさんは、漫画本の出版で有名なA書店の元・編集者。確か「ブラック・ジャック」担当だったはず……久しぶりに、楽しい話ができそうだ)

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