2014/12/10

渋谷で、ほろにが珈琲&『白夜のタンゴ』



月曜の朝、デザイナーのH君からメールあり。以前お互いが勤めていた制作会社の社長が亡くなったとのこと。そのお別れ会の案内だった。

ここ数年、年の瀬は思いがけぬ訃報に接することが再々。一人、また一人、縁あって出会った人が亡くなっていく。
否応なく、そういう年になったんだなあ……と思いつつH君に返信&仕事上の用事もあったので「今日、渋谷に映画を観に出かけるけど、その前に会う?」と電話。1時半過ぎにハチ公前で待ち合わせ、道玄坂の「エクセルシオールカフェ」で30分ほど、亡くなった社長と無くなった会社の話をしながら昔を偲び、ほろ苦い珈琲を飲んだ。

その後「じゃあ、20日、お別れ会で」と、店の前でH君と別れ、まっすぐ「ユーロスペース」へ。1450分上映開始の音楽ドキュメンタリー『白夜のタンゴ』を観てきた。

映画の冒頭は、何と、フィランド映画界の重鎮にして世界的名匠、私も大好きな「アキ・カウリスマキ」の仏頂面アップ&モノローグ……
「俺は怒ってるんじゃない…。いや、ちょっと怒っているといってもいいかもしれない。アルゼンチン人はタンゴの起原を完全に忘れてしまっているんだ。タンゴはフィンランドで生まれたものなんだ」(まさかの、出演・カウリスマキ!で、タンゴがフィンランドで生まれた?……ドキュメンタリー映画にして、意表を突くこの始まりの面白さ!)

カウリスマキの主張によると、タンゴは1850年代に現ロシア領のフィンランド東部で生まれ、1880年代に西部へ伝播。その後、船乗りたちがウルグアイ経由でアルゼンチンに広めたのだという。で、アルゼンチン人がその順序も、フィンランドがルーツであることも忘れ、自分たちがタンゴのオリジネイターであると思い込んでいることに彼は腹を立てているのだった。

だが、そのカウリスマキをはじめとするフィンランド人の「フィンランド、タンゴ起源説」を、国を挙げてタンゴに情熱を注いでいるアルゼンチンの人々が、黙って受け入れるわけがない。(特に「俺たちの音楽こそ、世界で唯一の本物のタンゴだ!」と自負するミュージシャンたちは)
「ならば、真実を確かめてやる」と意気込み、喧噪のブエノスアイレスを離れ、静かなフィンランドへ旅立つ3人のアルゼンチン人タンゴミュージシャン……そこから始まる男たちの珍道中は、ドキュメンタリーというよりオモシロ爽やかロードムービーといった風情。

延々と続く森と湖。スカンジナビアの大自然に囲まれ、一本道を車で走り抜ける彼ら。湖畔で休み、サウナに入り、集会場でタンゴを踊る人々と交流してみたり。人の少なさに驚き、のんびりした北欧気質に戸惑い毒づきながらも、各地でミュージシャンとセッションを重ね、いつしかフィンランドに魅了されていく……

というわけで、「タンゴの起原」を探る旅が、タンゴを媒介とした「異文化交流」の様相を呈していくのだが、観ている側も知的好奇心を刺激されながら、3人と一緒にフィンランドを旅しているような気分になれるところがイイ。
そして、旅の終着駅とも言えるフィンランドの名タンゴ歌手レイヨ・タイパレ(カウリスマキの映画『マッチ工場の少女』にも出演)との白夜のセッション……アルゼンチンの情熱的なバンドネオンと、アコーディオンの優しい旋律が重なり、国境を越えて音楽が一つになる瞬間の心地よさ、素晴らしさ。

もう、タンゴの起原がアルゼンチンとかフィンランドとか、どうでもいいじゃん!どっちもいいじゃん!と誰もが気持ちよく納得したところで大団円。フィンランド・タンゴの名曲「サトゥマー」をみんなで演奏し、歌うシーンに再び、アキ・カウリスマキの姿あり!!その愉しげな光景に撮影ライトを向ける彼の口元が、一瞬、私にはどことなく緩んでいるように見えた。

※しばらくは寒い日が続く模様。皆さま、ご自愛のほど。

3 件のコメント:

  1. ご無沙汰しております。
    恵比寿の会社でお世話になったものです。
    社長ってまさかYさんでは?と思いコメントしました。

    返信削除
  2. ahm leather様
    お元気ですか? 亡くなったのはYさんです。肝臓ガンとのこと。
    酒が好きだったからねえ……

    返信削除
  3. お別れ会の詳細を知りたいので
    明日電話します。

    返信削除