2014/06/08

映画は心の処方箋?!



W杯開幕まで、あと4日。6日のザンビア戦はジェットコースターのような展開でハラハラさせられたし、本田の調子も気になるし、妙にソワソワして心は落ち着かないが、とにかくザックの采配と選手の力を信ずるのみ。守備の不安は拭えずとも、引いて守らず、日本らしい攻撃的サッカーで世界を驚かせて欲しいと思う。(本田と香川はもちろんだが、特に、長友と岡崎に期待したい。大きな仕事をしてくれそうな気がする)

さて、話は変わって……

東京が梅雨入りした木曜日(5日)、午前10時過ぎに代理店のJINさんから「ポスター制作コンペ落選」の知らせあり……「またかよ!もう、やめようか…」と腹立ちまぎれに愚痴り、部屋の窓からどんよりした空を見上げて、暫し、脱力。

コンペに落ちることなど、この仕事では日常茶飯事。いつもなら「仕方ないね。次、がんばろう!」と、すぐに前を向けるのだが、今回は期待が大き過ぎたせいか、気持ちの凹みもデカかった。(先週は、メインキャラクターに「鉄腕アトム」を起用した某省庁の広報用ポスターも僅差で落選。そのショックも上乗せされた感じ)

でも、夜は、POG仲間と1年ぶりの飲み会もあるし、このまま凹みっぱなしでは楽しい会も台無し。何か気が晴れるコトを考えよう……と、心のモヤモヤを鎮めつつ、酒席の前に観る映画をネットで物色していたところ、思いがけず、クライアントから仕事依頼のテレフォン。まさに千天の慈雨、捨てる神あれば拾う神あり。瞬時に、止まっていた気持ちが動き出し、来週か再来週になるであろう「名古屋出張(ロケ取材&撮影)」のスケジュール調整のためカメラマンのN君に連絡を取った。

で、その打合せ後、再度、渋谷・新宿の映画館を中心に検索を続け、「コレにしよう」と選んだシネマは《冬のアイルランドを舞台に不器用な大人たちの人生の再生を描く、ほろ苦いけれど心をポッと温めてくれるウィスキーのような物語》……という傷ついた男心(?)をそそる魅力的な宣伝コピーがついている『ダブリンの時計職人』(原題『PARKED』)

小屋は渋谷のミニシアター「アップリンク」。午後5時上映開始に合わせ、3時半過ぎに家を出た。
渋谷に着くと、街はすでに雨の中……いつもながら「アップリンク」の観客は少なく、5時ジャストにチケットを買った私に手渡された番号札の数字は「6」(6番目の客)。

映画は、アイルランド人の時計職人フレッド(コルム・ミイニー)が不況のあおりを受けロンドンで失業、故郷ダブリンに戻ってくるところから始まる。
だが、失意の中もどった故郷に住む家も職もなく、仕方なく駐車場で車上暮らし。失業保険の給付申請のため役所に行っても、「住所不定の人間には給付できない」と冷たくあしらわれてしまう……まさに貧乏のどん底。そんなある日、彼は同じように車上で暮らす一人の青年カハルと知り合う。真面目で不器用なフレッドとは真逆の能天気で陽気な性格の若者との出会いによって、次第に明るく前向きになっていくフレッド。
そんな折、偶然行ったスイミングプールで、ジュールスという少し翳のある美しい中年のフィンランド人女性に一目惚れしてしまう。
カハルにけしかけられながら、何とか彼女の気を引こうとするフレッド。その努力が実り徐々に二人の距離は縮まっていくのだが、同時に自分がホームレスであることを打ち明けにくくなる。一方、ジュールスも、暗い過去を引き摺っていた。

果たして、フレッドは「アナ雪」の主題歌のように、ありのままの自分を曝け出して、彼女のハートを射止めることができるのか? 麻薬に溺れるカハルとの友情の行方は?
カハルとジュールスの動かなくなった“思い出の時計”を直した時、止まっていた3人の時間も動き出す……というのが「ウィスキーのような物語」のあらすじ。

で、この映画、カハルが麻薬の売人にボコられ、意識が遠のく中、遠くに花火が打ち上がるところとか、心にグッとくるシーンも多いが、最大の魅力は、何と言っても生粋のアイルランド人・フレッドの人間性(ドキュメンタリー出身のダラ・バーン監督が、ダブリンの片隅に住む多くのホームレスの声なき声から作り上げたキャラクターだそうだ)。
人生の悲哀を漂わせながらもユーモアを忘れず、車上生活を続けながらも車の中は常に整理整頓。詩を作ったり、規律正しく教会に通ったり、決して自分のアイデンティティを失わない。また、公共のトイレで髪や身体を洗い、いつも身ぎれいにしていて、変に気持ちが荒むようなこともない。

かの司馬遼太郎が語るところによると「アイルランド人は、客観的には百敗の民である。が、主観的には不敗だと思っている」そうだが(言い換えると「ボロは着てても心は錦」を地でいく精神)、格差社会の底辺にいながら、人間としての誇りと再生への希望を失わず、前を向こうとするフレッドの姿は「不敗の民」そのもの。中年男らしく肉体は緩みきっているが、その胸には、歴史上さまざまな逆境に見舞われ、敗北を繰り返しながらも、不屈と再生の意志を持ち続けてきたアイリッシュの魂が輝く鋼のように宿っているように思えた。(ちなみに、ロックンロールも反骨のアイルランド音楽から生まれた。昔よく聴いたヴァン・モリソンもU2もアイルアンド出身。そして、ビートルズの4人もアイルランド系労働者階級の出身)

というわけで、宣伝コピーに偽りなし。少し痛んだ心の琴線に触れる珠玉の一本。(やはり、気持ちを立て直すには、いい映画を観るのが一番)

お陰でその夜の会も楽しかった。(場所は秋葉原駅近くの「越後酒房」。メンバー9人でドンチャカ。「八海山」、何合飲んだかなあ…)

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