2011/11/23

秋の夜長は……


こんなミステリー小説を読んで過ごすのもいいなあ。

と、読みおえたジョン・ハートの『川は静かに流れ』(ハヤカワ文庫)の余韻に浸っている。

初めは、重苦しくて読みにくかった(しかも面白そうな展開に思えず……)。だが、読書における我慢はムダにはならない。100頁を過ぎるあたりから、メッシの高速ドリブルのように物語が急加速、後はゴールに向かいまっしぐら……読み応えたっぷりの560頁だった。素直にミステリーの傑作だと思う。

ただ作者自身が「わたしが書くものはスリラーもしくはミステリーの範疇に入るのだろうが、同時に家族をめぐる物語である」と序章で述べているように(「家庭崩壊は豊かな文字を生む土壌である」とも言っている)、この小説は家族の悲劇とその原因を解明していく物語であり、ミステリーの常套である結末の意外性をウリにするようなものではない(もちろん“犯人捜し”はあるけど…)。その点ではミステリー・ファンの期待を少し裏切るかもしれないが、それに勝る“さまざまな人生”を味わうことができるのだからケチのつけようはないはず。
深い人間描写、複雑な人間関係の謎解き、詩情溢れる筆致で語られる回想と追憶……主人公は孤独な探偵でも老練の刑事でもないが、極上のハードボイルド小説を読み終えたような重く深い満足感が残っている。それも作者の筆力によるものだろう。

初版から2年も経っているが、この作家を知ったことは、間違いなく今年の大きな収穫。『ラスト・チャイルド』(ハヤカワ文庫)も面白そうだ。



0 件のコメント:

コメントを投稿