2014/06/26

ありがとうザッケローニ(&泣くな、長友!)



今朝、テレビで「ザッケローニ退任」のニュースが流れた。

ヤフーのスポーツナビには、こんな記事も載っていた。
《一夜明けても悔しさは消えなかった。同時に寂しさがこみ上げた。コロンビア戦から一夜明けた25日、ベースキャンプ地のイトゥで取材に応じたDF長友佑都は取材エリアで思わず感極まって涙した。
この日、昼食の席でアルベルト・ザッケローニ監督から退任の意向が伝えられた。「最高の監督、最高のチームメイトと、これで終わる寂しさ、悔しさがあって、胸がいっぱいだった。監督の最後の言葉で涙しながら、もう一回、W杯を戦えるにしても……」。そこまで言うと、言葉に詰まり、嗚咽を漏らした。「勝たせてあげたかったから。そこが本当に悔しくて……」。そう言葉を続けるのが精一杯だった》

昨日より、悲しい今日。

テレビインタビューで画面に映った長友も途中で言葉に詰まり席を立ち、肩を震わせ後姿で泣いていた。その肩に向かって「泣くな、長友!」と叱咤の声を浴びせたつもりが、ふいに頭の中で中島みゆきの歌が流れ、私も目頭が熱くなるのを抑えることが出来なくなってしまった。

♪ファイト! 闘う君の唄を、闘わない奴等らが笑うだろう 
 ファイト! 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ……

悔やんでも泣いても、失った時間を取り戻すことはできない。プロセスがどんなに素晴らしくても、結果が悪ければ、チームのトップが責任をとるのは当たり前……日本を「第二の故郷」とまで公言する指揮官の「退任」は残念至極だが、勝負の世界においては致し方ないことだろう。
しかし、グループリーグ敗退後、一気に噴出している「そもそもザッケローニを選んだのが間違い」「もう外国人監督はいらない」などという批判は、全くナンセンス。ザッケローニがこの4年間にもたらしてくれた数々の歓びを知らない、もしくは忘れてしまった「残念な人たち」の戯言というほかない。

確かに、敗退を招いたその采配には今も幾つか疑問は残る。が、とても世界レベルとは言い難い日本代表を率い、「グループリーグ突破」の期待を抱かせるまでに成長させてくれたのは、間違いなく監督ザッケローニの功績。就任直後のアルゼンチン戦勝利に始まり、アジアカップ及び東アジアカップ優勝、欧州遠征でのフランス、ベルギー戦勝利、オランダ戦ドロー……惜しむらくは、世界的な注目を集める大会(コンフェデとW杯)での成績は無残だったが、歴代の日本代表で、これだけ多くの歓喜を与えてくれた4年間があっただろうか。それほど歓びあえた指揮官がいただろうか。(その4年間が素晴らしかっただけに、尚更、グループリーグ敗退という結果が悔しいのだが)
加えて、Jリーグの試合に数多く足を運び、海外組に偏らず公平に選手の力量を見定め、11人のJリーガーを代表に選出するとともに、リーグのレベルアップに大きな貢献を果たしてくれたこともサッカーファンなら忘れてはいけない。
また、プライベートにおいても、「生ワサビ」を持ち歩くほど日本食を愛し、日本文化に積極的に触れながら、「恋に落ちた」と表して日本を深く理解しようと努めた人であり、常に穏やかな笑顔で多くのサポーターとファンに接し、思慮深い言葉を強い情熱で伝えてくれる稀有な監督だった。そんなザックさんを、私は代表監督として心から信頼していたし、イタリア人らしからぬ(?)実直な人間性にも深い親しみを感じていた。

その彼が、今日、退任の決意を述べた後、こんなメッセージを私たちに残してくれた。

「協会のスタッフ、メディカルのスタッフ、広報の方々、総務の方々、スポンサーの方々、サポーターの皆さんに温かく見守ってくれてありがとうと言いたい。そして日本全体にこの素晴らしい4年間をありがとうと伝えたい」
「何不自由なく仕事に専念させていただいた。濃密な時間を過ごすことが出来て、非常に充実感と感動にあふれる4年間だったと感じています」
4年前、ほとんど日本のことを知らなかったが、そんな私を温かく受け入れてくれた日本の方々に感謝したい。そのことは強く自身の心の中に残り続けると思っています」

いま、私の心の中に残っているのも、「ザッケローニの素晴らしい4年間」に対する感謝の思い。(お陰で、どれだけ酒の席が賑わい、美味い酒が飲めたことか!)
そのすべてを言葉にするのは難しいが、これだけは言っておきたい。

私たちの日本代表を強く育ててくれてありがとう。
幾度も、攻撃的で美しいサッカーを見せてくれてありがとう。
そして4年間、幸せな夢の中で酔わせてくれて本当にありがとう。

できれば、日本を離れて新しい旅に向かうあなたを、選手たちの涙で送ってほしくはなかったが、きっといつか、その悔しさも悲しみも大きな進歩の糧になり、あなたが描いた美しい夢の続きを新しい誰かと逞しく成長した選手たちが見せてくれるはず。

さよならザックさん。グラツィエ!ザッケローニ!

2014/06/25

さよならザックジャパン



625日、午前6時50分タイムアップ。やはり、奇跡が起きることはなかった。

それどころか世界との力の差をまざまざと見せつけられる1:4の大差で、ズタズタに引き裂かれた「希望」……ギリシャ戦同様、攻める姿勢を見せてはくれたものの、この4年間磨き上げたはずの攻撃的パスサッカー(速いパス回しと連動性によって相手の陣形を崩し、スペースを使って仕掛ける)を最後まで世界に示すことなく、我が日本代表はブラジルW杯の戦いを終えてしまった。

寂しすぎて言葉もないが、結局、振り返れば、コートジボアール戦がすべてだったのだろう。
その初戦の後「1点を取ったあと、これでもういいという考えになってしまった」と正直に語った岡崎の「弱気」を聞いた時に、ふと胸をよぎった「敗退の予感」が的中してしまった。

4年間で世界との差は大きく縮まった」「本来の日本らしいサッカーができれば、世界の強豪とも互角に戦える」……そんな思いを、多くのサポーターやファン同様に私も持っていたが、選手たち自身は心の隅で、最初から「世界との力の差(特に守備面での)」を感じていたのかもしれない。(本田も「相手をリスペクトしすぎてしまった」と別の表現で「力の差」を語っていた気がする)

「不安」と「弱気」を、短期間で「自信」と「勇気」に変えることは難しい。

監督ザッケローニはもちろん、それを今日、誰よりも身を持って知ったのは、自分とチームを信じ、鼓舞し、様々なプレッシャーを「勇気」に変えて世界に挑んだはずの本田圭佑ではなかっただろうか。
日本には自分たちのパスサッカーを磨き上げる以前に、強豪相手にも臆することなく挑む「勇気」、そして判断のスピードとゴール前の多彩なアイデア……強烈なプレッシャーをも軽くしなやかにかわせるような「自由な想像力・発想力」が必要なのではないかと。

……ともあれ、ザックジャパンの4年間の冒険が終わり、また新たな冒険と希望の旅が始まる。

その4年後の選手たちの「勇気」と「創造性」を信じつつ、今日すべての戦いを終えたザックジャパンに、感謝の言葉を送ろうと思う。

胸躍る4年間の日々と、虚しく残酷な270分を、ありがとう。

「失望と希望は表裏一体」……次は、希望が勝つ番だ!!

2014/06/21

希望と絶望の狭間で味わうW杯



唐突な話で申し訳ないが……東大社会科学研究所が立ち上げた「希望学」のプロジェクトリーダー・玄田有史氏の言を借りると「希望と絶望は表裏一体」。
希望が失望に変わった時、自分と社会との関係をどう軌道修正し、新しい希望につなげるかどうかが、その後の生きがいづくりを左右するポイントだそうだ。そして、彼はこう続ける「ご存じのように希望には、簡単に実現できる希望と、なかなか実現するのが難しい希望があります。私が関心を持っているのは、叶いそうもないのに、それに向かって夢中で行動していく希望の力です。仮に実現しなかったとしても、行動することによって、社会と自分の距離を見つめ直して、自分の進むべき道が見えてくるのです」「希望を持つことにどんな意味があるかを、他人に伝えられるような人間になることはとても重要なことだと思います……私たちを取り巻く社会には『やりたいことがない人生はつまらない』といったプレッシャーがあり、自分らしさ、個性が生かせない生き方は意味がないといった風潮もあります。では、自分がやりたいこと、やるべきことに出会うにはどうすればいいでしょう? その回答の一つは、『失望を恐れずに希望を持ってチャレンジし続けること』ではないでしょうか」

……さて、サッカーも「希望と絶望が表裏一体」、その狭間にいる緊張感と精神の高揚を味わうもの。一瞬のうちに人々を失望に誘う残酷さも含めて、本当に人生のように奥が深く、様々な可能性と大きな歓び(&驚き)を秘めた魅力的なスポーツだ。前回(南アW杯)の覇者スペインや強豪イングランドの敗退、大会直前の親善試合で日本に1:3で敗れたコスタリカの大躍進を見ると、改めてそう思う。

スペインを敗退に追い込んだチリの積極果敢な攻撃スタイルも素晴らしい、世界最高のセントラルMFモドリッチ&絶対的エース・ストライカーFWマンジュキッチを擁するクロアチアも強い、豊富な運動量と守護神オチョアの活躍でブラジルと引き分けたメキシコも魅力的……世界には日本が参考にすべき「希望」のお手本がたくさんあるし、何より、危機的な状況にあっても残された可能性を信じて前を向く日本代表、とりわけ「希望学」の実践的象徴のような本田圭佑の姿がある。

これから714日の決勝まで、例え私(たち)が、胸に突き刺さるような失望を味わうことになっても、世界レベルのプレーに酔い、今後のサッカートレンドを考えながら、4年後に思いを馳せるのもW杯の楽しさ。
次こそ日本代表が伸び伸びと「日本らしいサッカー」を見せてくれることを期待しつつ、明日への意欲と新たな希望を掻き立てる3週間にしたいものだ。

 

2014/06/20

こうなったら、全力で楽しもう!


う~ん……どうしても勝ちたかった今朝のギリシャ戦。日本代表は90分を通して攻める姿勢を見せてはくれたが、ゴール前のアイデアに乏しく、溜まったのは勝ち点ではなくフラストレーションだけ。私同様、終了と同時に「はあ~っ」と息を洩らし、がっくり肩を落とした人も多かったに違いない。(0:0の引き分けで勝ち点1、グループリーグを自力で突破することが不可能な状況になってしまった)

というわけで、早速、スポーツナビ等の記事へのコメント欄には「1110の数的優位」を生かせず引き分けてしまった日本代表及び指揮官ザックに対する失望と非難の声が殺到しているが、逆に退場者が出たことで、元々守備的なギリシャが一層守備的になって攻撃が難しくなった面もあり、一概に「数的優位」が日本にとってプラスに働いたかどうかは分からない。
ともかく、日本だけが勝つために必死なわけではなく、相手も勝つために必死で戦っているのがW杯。紙一重の差で勝負が決まるその大舞台で、最高のパフォーマンスを発揮して勝ち切るだけの「強さ」と「巧さ」と「運」が、「歴代最強」と謳われた現在の日本代表にもなかったということなのだろう。
様々な重圧を背負い90分間引かずに戦い抜いた選手たちを、「1110での引き分け」という結果で責めるより、ファンの一人として、その現実をしっかり受けとめたいと思う。

で、それとは別に、この2試合で感じるのは、日本代表の動きの重さ&鈍さ。高温多湿の気候も影響しているのだろうが、攻撃の中心である香川や岡崎を見ていると、フィジカル・コンディション的にも問題を抱えているのではないのだろうか……

と今さらながら心配になるが、すでにグループリーグは残り1試合。相手はギリシャ、コートジボアールを撃破し、いち早く決勝トーナメント進出を決めたコロンビア。
正直、かなり厳しい試合になると思うが、4年間の集大成として、何とかブラジルW杯に勝利の足跡を刻んでほしいもの。同時に、「世界を驚かす」と強い決意で臨んだ選手たちには、責任感・使命感といった「重圧」の比重を少し軽くして(意志の固さが動きの硬さにつながることもあるし)、最後の一戦(?)を「自分らしく」悔いなく楽しく全力で戦ってもらいたいと思う。(もちろん、私も楽しみたい!)

 

 

2014/06/15

どうした?ザックジャパン!



今朝は6時起床(少し気が高ぶっていたせいか4時半頃に目は覚めていた)。
10時試合開始のコートジボアール戦に備え、諸々の雑事を終え、応援モードに身支度を整え、ワクワクドキドキ……90分の激戦に酔うはずだったが、予期せぬ失意の日曜日になってしまった。

勝負事に勝ち負けはつきもの。別に、コートジボアールに負けたから……というわけではなく、日本サッカーが「ザッケローニの4年間」を全く感じさせることなく大事な初戦を終えてしまったのが何とも残念で仕方ない。

確かにドログバの存在感は圧倒的で、コートジボアール代表の攻撃も鋭く速かった。でも、日本らしい攻撃サッカーを貫き「世界を驚かせる」はずの舞台で、こんなに消極的に戦っていては勝利の女神が顏を背けるのも当たり前。口惜しいが、1:2の敗戦は至極妥当な結果だったと納得せざるを得ない。(2点目は、川島が止めなきゃ!……と思うが、流れ的には、あと2点くらい取られてもおかしくなかった)

観戦後、なぜ、運動量・連動性・スピードといった日本のストロングポイントを自ら消すような試合をしたのか? なぜ、4年間やってきたことに本番でトライできなかったのか? 
その原因がしっかり解明され、改めて自分たちのサッカーを貫くべく全力で走り続けない限り、リーグ突破どころか、日本サッカーの未来にとって全く無意味なW杯になってしまうのではないだろうか……という新たな疑問と言うか、心配も出てきたが、4年間ザックジャパンを応援してきたファンの一人としては、今日のダメージを引き摺らずに、最後まで選手と指揮官を信じて、今後の「健闘」を期待するほかない。

昨年6月、コンフェデのブラジル戦での完敗を糧に、攻めの姿勢を取り戻し、強豪イタリアと激闘を演じたザックジャパンの勇姿を頭に浮かべながら、コチラも早く気持ちを切り替えて20日のギリシア戦を迎えたいと思う。(とにかく、何の「らしさ」もない受け身のサッカーだけは二度と見たくないぞ!)

 

 

2014/06/08

映画は心の処方箋?!



W杯開幕まで、あと4日。6日のザンビア戦はジェットコースターのような展開でハラハラさせられたし、本田の調子も気になるし、妙にソワソワして心は落ち着かないが、とにかくザックの采配と選手の力を信ずるのみ。守備の不安は拭えずとも、引いて守らず、日本らしい攻撃的サッカーで世界を驚かせて欲しいと思う。(本田と香川はもちろんだが、特に、長友と岡崎に期待したい。大きな仕事をしてくれそうな気がする)

さて、話は変わって……

東京が梅雨入りした木曜日(5日)、午前10時過ぎに代理店のJINさんから「ポスター制作コンペ落選」の知らせあり……「またかよ!もう、やめようか…」と腹立ちまぎれに愚痴り、部屋の窓からどんよりした空を見上げて、暫し、脱力。

コンペに落ちることなど、この仕事では日常茶飯事。いつもなら「仕方ないね。次、がんばろう!」と、すぐに前を向けるのだが、今回は期待が大き過ぎたせいか、気持ちの凹みもデカかった。(先週は、メインキャラクターに「鉄腕アトム」を起用した某省庁の広報用ポスターも僅差で落選。そのショックも上乗せされた感じ)

でも、夜は、POG仲間と1年ぶりの飲み会もあるし、このまま凹みっぱなしでは楽しい会も台無し。何か気が晴れるコトを考えよう……と、心のモヤモヤを鎮めつつ、酒席の前に観る映画をネットで物色していたところ、思いがけず、クライアントから仕事依頼のテレフォン。まさに千天の慈雨、捨てる神あれば拾う神あり。瞬時に、止まっていた気持ちが動き出し、来週か再来週になるであろう「名古屋出張(ロケ取材&撮影)」のスケジュール調整のためカメラマンのN君に連絡を取った。

で、その打合せ後、再度、渋谷・新宿の映画館を中心に検索を続け、「コレにしよう」と選んだシネマは《冬のアイルランドを舞台に不器用な大人たちの人生の再生を描く、ほろ苦いけれど心をポッと温めてくれるウィスキーのような物語》……という傷ついた男心(?)をそそる魅力的な宣伝コピーがついている『ダブリンの時計職人』(原題『PARKED』)

小屋は渋谷のミニシアター「アップリンク」。午後5時上映開始に合わせ、3時半過ぎに家を出た。
渋谷に着くと、街はすでに雨の中……いつもながら「アップリンク」の観客は少なく、5時ジャストにチケットを買った私に手渡された番号札の数字は「6」(6番目の客)。

映画は、アイルランド人の時計職人フレッド(コルム・ミイニー)が不況のあおりを受けロンドンで失業、故郷ダブリンに戻ってくるところから始まる。
だが、失意の中もどった故郷に住む家も職もなく、仕方なく駐車場で車上暮らし。失業保険の給付申請のため役所に行っても、「住所不定の人間には給付できない」と冷たくあしらわれてしまう……まさに貧乏のどん底。そんなある日、彼は同じように車上で暮らす一人の青年カハルと知り合う。真面目で不器用なフレッドとは真逆の能天気で陽気な性格の若者との出会いによって、次第に明るく前向きになっていくフレッド。
そんな折、偶然行ったスイミングプールで、ジュールスという少し翳のある美しい中年のフィンランド人女性に一目惚れしてしまう。
カハルにけしかけられながら、何とか彼女の気を引こうとするフレッド。その努力が実り徐々に二人の距離は縮まっていくのだが、同時に自分がホームレスであることを打ち明けにくくなる。一方、ジュールスも、暗い過去を引き摺っていた。

果たして、フレッドは「アナ雪」の主題歌のように、ありのままの自分を曝け出して、彼女のハートを射止めることができるのか? 麻薬に溺れるカハルとの友情の行方は?
カハルとジュールスの動かなくなった“思い出の時計”を直した時、止まっていた3人の時間も動き出す……というのが「ウィスキーのような物語」のあらすじ。

で、この映画、カハルが麻薬の売人にボコられ、意識が遠のく中、遠くに花火が打ち上がるところとか、心にグッとくるシーンも多いが、最大の魅力は、何と言っても生粋のアイルランド人・フレッドの人間性(ドキュメンタリー出身のダラ・バーン監督が、ダブリンの片隅に住む多くのホームレスの声なき声から作り上げたキャラクターだそうだ)。
人生の悲哀を漂わせながらもユーモアを忘れず、車上生活を続けながらも車の中は常に整理整頓。詩を作ったり、規律正しく教会に通ったり、決して自分のアイデンティティを失わない。また、公共のトイレで髪や身体を洗い、いつも身ぎれいにしていて、変に気持ちが荒むようなこともない。

かの司馬遼太郎が語るところによると「アイルランド人は、客観的には百敗の民である。が、主観的には不敗だと思っている」そうだが(言い換えると「ボロは着てても心は錦」を地でいく精神)、格差社会の底辺にいながら、人間としての誇りと再生への希望を失わず、前を向こうとするフレッドの姿は「不敗の民」そのもの。中年男らしく肉体は緩みきっているが、その胸には、歴史上さまざまな逆境に見舞われ、敗北を繰り返しながらも、不屈と再生の意志を持ち続けてきたアイリッシュの魂が輝く鋼のように宿っているように思えた。(ちなみに、ロックンロールも反骨のアイルランド音楽から生まれた。昔よく聴いたヴァン・モリソンもU2もアイルアンド出身。そして、ビートルズの4人もアイルランド系労働者階級の出身)

というわけで、宣伝コピーに偽りなし。少し痛んだ心の琴線に触れる珠玉の一本。(やはり、気持ちを立て直すには、いい映画を観るのが一番)

お陰でその夜の会も楽しかった。(場所は秋葉原駅近くの「越後酒房」。メンバー9人でドンチャカ。「八海山」、何合飲んだかなあ…)