2014/03/27

「差別にノーと言おう」


巷ではそろそろ賞味期限切れの話題かもしれないが……

今月8日、埼玉スタジアムでのサッカーJ1「浦和レッズVSサガン鳥栖」戦において、ゴール裏に陣取る熱狂的な浦和サポーターが、コンコースのゲートに「JAPANESE ONLY」という差別的な横断幕を掲げた問題で(その横断幕の前方には旭日旗も掲げられていた)、Jリーグは浦和に無観客試合という厳しい処分を下し、23日、Jリーグ初の無観客試合が開催された。

観客のいないスタジアムでのプレーを強いられた選手たちには気の毒だったが、「Say no to racism(差別にノーと言おう)」をスローガンに掲げ差別撲滅を目指すFIFA(国際サッカー連盟)の方針に、事実上背く形でサポーターの意向を優先し、問題の横断幕を試合終了後まで掲示させ続けた浦和の企業責任は重大。Jリーグの処分は当然かつ妥当なものだったと思う。

で、今回の問題だが、果たして偶然に起こったことだろうか。

当初、横断幕を作成した3人は浦和の調査に対し、「ゴール裏は自分たちのエリア。応援の統率がとれないので、他の人たち、特に外国人が入って来るのは困る」などと説明、それを受け入れた浦和・淵田社長は「差別する意識はなかったと話している」とJリーグに報告していたそうだが、笑止千万。以前から、浦和レッズの一部熱狂的なサポーターが「嫌韓」であることは、浦和の選手とファン・サポーターはもちろん、Jリーグファンの間でも広く知られている事(ベガルタ仙台の梁勇基選手への差別発言、自クラブの李忠成選手に対するブーイング&侮辱発言など)、当該のクラブ関係者が(まして社長が)知らないはずはない。
そうした差別の火種があることを分かっていながら、事なかれ主義で対応を怠っていれば、今回のような事件が起きるのは必然(「JAPANESE ONLY」という言葉も、すべての外国人に対してではなく、出自が“特定の国”に関係している人に向けられたものであり、よりタチが悪い)。尚且つ、「無意識」を装うサポーターの言い分を丸呑みし、上っ面の体裁だけを保とうとするような事後処理をしていては、「浦和には、本気で差別主義を排除する気はない」と受け止められても仕方ない。記者会見で「クラブの危機」と淵田社長は語ったが、こういう企業体質でこの重大な危機を乗り越えられるのだろうか、と疑念は膨らむばかり。

また、日常的にネット上でのサッカー関連スレッドを通じてレイシズムの蔓延を目にしている人間から見れば、今回の事件はそれが表面化しただけのこと(最早、在日韓国・朝鮮人に対する差別発言はネット上の「娯楽」のようになっているのではないだろうか?)。ここが根絶されない限り、スタジアムや社会の様々な場所で差別問題が繰り返し起きるのだろうなあ……と、ウンザリしながら浦和レッズの将来とネット社会の未来に対して懐疑的にもなっていた。

が、そんな折、清水のゴトビ監督と浦和のペトロヴィッチ監督の示唆に富んだメッセージに触れ、こういう監督や差別的横断幕への抗議をいち早くツイッターで発信した浦和のDF槙野智章選手のような人たちがJリーグを支えている限り、二度と差別的表現やヘイトスピーチがスタジアムに持ち込まれるようなことはないはず。と、やや暗澹としていた気持ちを取り直した次第。
今後も二人にならって「差別を憎んで、人を憎まず」……日本のサッカーファンの一人として、その姿勢を忘れずに、ちっぽけな社会の片隅で「差別はNO!」と言い続けたいと思う。

以下、少し長いがその二人の監督のメッセージを紹介したい。(無観客試合後の記者会見より)

「差別・人種差別というものには、パスポートも何もなく、社会の病気だと思っています。それは、世代世代に移っていき、そして親から子へと伝染するものです。
我々にはこういった美しいゲームがあります。この美しいものには色がありません。全ての国際色を持っているものです。
スタジアムに誰もいない状況で戦うと、本当にスタジアムに魂が欠けているように感じます。サガン鳥栖戦の埼玉スタジアムで事件は起きました。私たちはサッカーから、差別・人種差別をなくしていかなければいけないと思っています。人と人には、違いがあり、だからこそ、世界というものが美しい場所であると思っています。
私がサッカーを始めた頃、サッカーボールは白と黒でした。今、我々が使っているボールには多くの色が使われています。エスパルスは、9カ国の違った国籍の人達がいるチームです。カナダ、韓国、スロベニア、オランダ、ドイツ、ブラジルなど。私については、自分がどこから来たのかさえ分かりません(笑)。日本が、「全てのものを受けいれるサッカー」を行っていければいいと思います。
私は日本に来て、3年と2ヶ月になります。本当に悲惨だった、東日本大震災を経験しました。日本はその時、世界と強く団結していました。それが真の日本だと思っております。私も含めて、外国人の人達は本当に日本を、そして日本人を愛しています。優しさ、礼儀ただしさ。それが日本の顔だと思っております。もしこの国で、そういったことに対して無知な人がいるならば、彼らを愛し、彼らに教えていきましょう。この先の将来というものは、そういった複数の色が、多様なものが重なっていく時代だと思います」(清水エスパルス・ゴトビ監督)

「差別問題に関してですが、そのことを語れるのはもしかしたら、私かもしれません。私自身は、37年間、ほぼ自分が生まれた所でない外国(オーストリア)で生活しています。もちろん、私が生まれ育ったユーゴスラビアという国はもう存在しません。
差別というものは残念ながらどこの国でもあります。オーストリアでは旧ユーゴスラビアの人々を快く思わない人もいるし、現役時代にプレーしたスロベニアやクロアチアでも差別的な態度を受けたことがあります。ただ、最終的には、私はどの国に行っても、そういった差別から勝利することができました。それは、なぜか。私は差別を受けながらも、差別した人間に対するリスペクトと愛情を忘れなかったからです。
クラブは今、厳しい状況に置かれていますが、どんな状況であっても、私は他者を愛し、リスペクトすることを忘れず生きて行こうと思っています。それが私の考え方であり、哲学であり、そういうものに対する向き合い方です」(浦和レッズ・ペトロヴィッチ監督)

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