2013/12/25

サディスティックなサスペンス


ポスター(コンペ)用のコピーを書き上げ、PCでデザイン案をチェック&決定して、年内の仕事はほぼ終了。後は、年賀状書きと大掃除を済ませ、映画、ライブ(ザ・タイガース!)、忘年会などのイベントに興じつつ、新年を迎えるだけ……なのだが、ラジオから流れてくるクリスマス・ソングの響きに心躍ることもなく、何故か心急く年の瀬。
ブログもそろそろアップしなくては……と思い、まずは先週(20日)、新宿武蔵野館で観た『鑑定士と顏のない依頼人』(監督は『ニューシネマパラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ)の紹介&感想から。

この映画、NHK「あさイチ」の中でも紹介されていたらしく、タイトルもキャスティングも地味な割に平日昼間の館内は満席状態。私たち同様に中高年夫婦&中高年女性グループの姿が目立つ。
だが、そんな5060代の観客(特に男性)の心を抉るような、情け容赦のない無慈悲な結末が待ち受けている作品なのでご用心。映画序盤の淡々とした流れに、眠気を誘われたとしても、決して“地味な映画”などと侮ってはいけない。途中からぐいぐい物語に引き込まれ、スクリーンに目が釘付けになること必至(のはず)。

 で、簡単にストーリーを紹介すると……

主人公ヴァ―ジル(ジェフリー・ラッシュ)は、並外れた審美眼を持つ「美術品鑑定士」にして名うてのオークショニア。極度の潔癖症で、生身の女性と接したことも付き合ったこともないという少し薄気味悪いほど屈折した初老の男だが、その代替行為なのか美女の肖像画収集に執心。ホテルのような自宅に秘密の隠し部屋を設け、そこに飾った無数の高価な絵画(美女オンリー!)を眺めることを唯一の趣味(悦楽?)として暮らしている。
そんな彼の元に、クレアと名乗る若い女性から「死んだ両親が残した美術品の査定をしてほしい」という依頼の電話が入る。初めは横柄に断るのだが、何度もかかってくる切迫した電話の声が気になり依頼を受けることに。しかし、査定の日に何故かクレアは姿を見せない。ヴァ―ジルは不信感を募らせ苛立つが、謎めいた「クレア」の態度・行動に好奇心を抱き、対人恐怖からか自室に閉じこもって暮らしている彼女の姿を覗き見した瞬間から一気に惹かれていく……というミステリアスな展開。

その後は推して知るべし。初めて知る恋の歓びに、冷静沈着かつ尊大な「鑑定士」の身も心もメロメロ。周到に張り巡らされたトリックに気づく由もなく(恋は盲目)、破滅の落とし穴にまっしぐらという、哀しくもサディスティックなサスペンスだが、「若い娘が、下心なしにキモいオヤジに惚れるわけがないじゃん!」と、中年男のアホさ加減が際立つ切なく惨めなラストシーンを見ながら、ひとり自分の胸で呟き、老いてゆく人生への警告として味わうのも一興。

現在的に「若い女性と、いい仲になりたい」という飽くなき妄想に駆られている、あるいは「若い娘にモテている」と錯覚しているご同輩諸氏には、特にお薦めしたい一本。(音楽は巨匠エンニオ・モリコーネ、上映時間131分)

 
では、では、良き人生を……メリー・クリスマス!

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