2013/10/19

「名もなき死」とオシムの涙。(&日本代表)



昨日の朝刊に《「名もなき死」に名 正念場》と題して、《ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(199295)で集団殺害の犠牲になり「名もなき死」をとげたとみられる行方不明者3万人の捜索と身元確認の作業が、正念場を迎えている》という記事が載っていた。

957月、ツズラという都市の南東約90キロのスレブレニツァで、セルビア人勢力が住民を連行し約8000人を殺害したとされる虐殺の犠牲者の遺体は、一端埋められた後、発覚を防ぐために重機で掘り起こされ、あちこちに分散して埋め直されたという。このためそれぞれの遺体はバラバラになった。

「今ここに500袋の遺体があります……500人の遺体ではありません」。法人類学の専門家ドラガナ・ブチュティッチ氏の言葉が胸に重く響く。

現在、欧米各国の資金提供により96年に設置されたICMP(国際行方不明者機関)が、ボスニア政府に協力して不明者の家族ら9万人が提供した血液をもとにDNAデータベースを構築し、遺体の身元確認作業を続けており、22000人の遺体、遺骨の身元が確認されたそうだ。(スレブレニツァの事件では、6300人を超える犠牲者の遺骨が家族の元に戻った)
だが、別々の場所で見つかった遺骨が、同一人物とされ「再結合」しても、腕・足・骨盤と小さな骨片で頭などは見つからず、遺族が遺体として受け入れるかどうかを決めかねているケースも多いという。

戦闘終息から20年近く経った今も、苛烈を極めた民族紛争の傷跡はあまりに深く大きい。当時、相次ぐ虐殺の中、特定民族の根絶を意図する「民族浄化」というナチス・ドイツを思い起こさせるような言葉も生まれた。

その傷跡は、スポーツの分野にも色濃く残る。特にサッカーにおいては……

今回のW杯欧州予選グループAは出場6チームの中に旧ユーゴスラビア諸国からセルビア、クロアチア、マケドニアの3ヵ国が同居している「異常事態」。当然の如く、「民族」「国家」などで互いに熱くなり、サポーター同士の衝突により多数のケガ人が出たようだ。とりわけ、永遠のライバルである「セルビア」と「クロアチア」の戦い「旧ユーゴスラビア・ダービー」は、互いに積年の憎しみと融和への願いが複雑に入り混じってヒートアップする。(先日、NHK BS1ドキュメンタリーWAVE W杯予選の最も熱い日~セルビアVSクロアチア」で、その因縁の闘いの1日が紹介されていた)

セルビア代表監督は、クロアチア生まれで、元ユーゴスラビア代表選手だったシニシャ・ミハイロビッチ(元日本代表監督イビチャ・オシム氏が旧ユーゴ代表監督時代に代表デビュー)。父親がセルビア人、母親はクロアチア人という多民族家庭の出身で、本来は民族融和的環境に育った彼だが、その立場上「忠実なセルビア民族の息子」であるという身の証を立てなければならない状況に置かれ、民族主義的発言を繰り返し、監督と選手の信頼関係が保てなくなったチームを「愛国心」でまとめあげようとしていたようだ。

それに対し、かつての師でもあるオシムさんは「ミハイロビッチは監督として何か特別なことをやろうとしたのだろう。しかし、国家やら愛国心やら、世論の関心を集める手段を選んだことで、誤った路線を進んでしまった。それは、どこかですでに読んだことのあるストーリーで、それをこれから採用しようというのでは時代に遅れている」などと、過去の自分の経験を踏まえアドバイスしていたらしいが、チームの内紛は収まらず、結果的にセルビアはグループAの3位でW杯出場への道は断たれた。(グループAは強豪ベルギーが1位でW杯出場決定。クロアチアは2位となり各グループ2位同士によるプレーオフへ回った)

で、その代わりと言っては変かもしれないが、「サッカーで特別なことをするために愛国心などを持ち出す時代は去った」と、絶えずメディアにメッセージを送りつつ、ボスニア・サッカー連盟正常化委員会の座長という立場で、サッカーを通じて「民族融和」に尽力するオシムさんの母国「ボスニア・ヘルツェゴビナ」が、先日(16日)のリトアニア戦に勝利し、グループGの1位でW杯初出場を決めた。
その瞬間をスタジアムの貴賓席から見つめていたオシムさんは「日本がW杯で優勝する以上のものだ。国内の多くの問題を解決できる」と、歓びの涙を流していたそうだが、私もその記事と映像・画像を見て胸が震え、目頭が熱くなるのを抑えることができなかった。

そのせいだろうか、15日に行われた日本代表戦(対ベラルーシ)の歯がゆさも淋しさも胸に残らず、寧ろW杯で応援するチームが増えたことを心から喜んでいた次第。
お陰で、日本代表に関する記事もほとんど読んでいなかったが、昨日、ネットで「スポーツナビ」等に目を通してびっくり。批評家とも言えない批評家たちが「ザックを解任すべき」「本田の暴走を止めよ」などと好き勝手な批判を繰り返している様子……

もちろん私も、現在のチーム状態や選手起用がベストとは思っていないが、今回の欧州遠征2戦の結果が悪かったというだけで、日本代表をW杯出場に導くとともにアジアカップ及び東アジアカップを制したイタリア人監督に対して、この時期に「解任」を叫ぶなど、礼節を失ったナンセンスな行為というほかない。一体、何様?と言いたい所だが、所詮、文句をつけるだけで自分の発言に責任を取らない連中の与太話のようなもの。
「納得がいくまで選手もシステムも試せばいい。そのためのリスクを冒す時間も権利も彼(ザッケローニ)にはある」「自分の意見が、まるで王の命令であるかのように思い込んでいるジャーナリストの言葉に、耳を傾ける必要はない」というオシムさんの力強い助言通り、監督も選手も巷の雑音に惑わされることなく、しっかりチームの戦略を再構築し、戦力とコンディションを整え、ブレず焦らず、敬愛する元日本代表監督の母国と共にブラジルへ向かってほしいと思う。



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