お酒はぬるめの燗がいい。肴はあぶったイカでいい。映画はイーストウッドが演ればいい……
名作『グラン・トリノ』から3年半、クリント・イーストウッドが役者としてスクリーンに戻ってきた。もう、それだけで十分に嬉しいのだが、期待に違わぬ“渋い老いぼれ”ぶりを存分に見せつけてくれるのだからファンとしては堪らない。
その役柄は、メジャー・リーグ、アトランタ・ブレーブスの老スカウト「ガス」。長きに渡り新戦力を発掘し球団を支えてきた“伝説的スカウトマン”だが、視力は衰える一方、データ野球に不可欠のパソコンもダメ。その上、性格は頑固一徹、独自の嗅覚と経験に頼るやり方を変えない……必然、時流に合わず引退勧告も迫っているが、ガス自身は仕事への自負・意欲に揺るぎなし。そして、球団の命運と己のキャリアを賭けた勝負の場、ドラフト会議の目玉とされる高校生スラッガーの実力を見極めるため、ノースキャロライナに向かう。但し、その見立てが外れたら、間違いなく解雇。彼の身を案じた球団幹部の親友ピートは、長年、父ガスとの確執を抱え都会で暮らしていた敏腕弁護士の娘ミッキー(エイミー・アダムス)に“視察旅行”への同行を懇願する。初めは拒んでいた彼女だが、仕事上の岐路に立ちながらも疎遠だった父の後を追う……果たして、ガスは仕事を成功裏に収めることができるのか、父娘の関係修復は可能なのか。
という、アメリカの野球文化を背景にした、複雑な捻りのないヒューマン・ストーリー。何か深いテーマや格別な感動を求めて観に行く人には申し訳ないくらい、想定内の展開&お約束通りのハッピーエンドが待っているベタなハリウッド映画なのだが、イーストウッドがいるだけで「名作」に思えてくるから不思議。突っ込みどころも多々ある幾分ご都合主義的な作りでも、最後まで飽きずに楽しめ、絶品の後味で家路につくことができるのは、映画を知り尽くした名優のお陰と感謝するほかない。(特に、亡き妻の墓前で口ずさむ「ユー・アー・マイ・サンシャイン」には、ゾクッと痺れた)
普通はスターの老いた姿を見るのは辛いものだが、ことイーストウッドに限っては、どんなに皺が増え、頬が弛み、小便が出にくかろうが(映画のワンシーン)、その漂う気配が突き抜けて魅力的なので、辛いどころか「シブい!」と惚れ直すだけ。既に御年82歳だが、監督業もさることながら、命ある限り、その老いの渋味をスクリーン上で見せてほしいと思う。
映画の原題は"Trouble with the Curve"「カーブに難がある」。ストーリーと直接的に絡むタイトルだが、「人生の曲がり角における困難」という意味も含まれているらしい。なるほど、なるほど……で、父も娘も曲がったことが大嫌い、だからこそのストレート勝負ということか。
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