Steel Orchid……「ビルマ(現ミャンマー)の母」と国民から慕われている民主化運動指導者アウンサンスーチー氏に冠せられた通称だそうだ。
マーガレット・サッチャーの通称「鉄の女」に比べて認知度は低いが(私も映画を観るまで知らなかった)、彼女の半生を描いたフランス映画『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(監督リュック・ベッソン)を観れば「確かに」と誰もが頷けるはず。それほどに映画の中の彼女は凛として意志堅固であり、その立ち居振舞いは優しさと気品に満ちて心が洗われるほど美しかった。
映画『鉄の女の涙』では、主演メリル・ストリープの見事な演技以外、その人の人生及び政治姿勢に心を奪われることはなかったが、ガンジー主義(非暴力、不服従)を貫きながら国民の権利と自由を勝ち取るために、兵士の銃にも怯まず静かに歩を進める「鋼鉄の蘭」の姿には、ただただ胸を熱くし頭を下げるだけ。彼女の毅然とした意志と並外れた勇気に鼓舞されながら、無策無能・残虐非道な軍事政権との「闘争」の渦中に飛び込むように観続けた133分だった。
で、少し余談……通路を挟んで左隣の席から、ひっきりなしに聞こえてきた“すすり泣き”。「同年代だろうか?それとも若い女性だろうか?」と少し気になってエンドロールの終了後にチラッと横を見たら、20歳前後のメガネの男子。そのキョトンとした目&ややダサい風貌も含め妙にシンパシーを感じて、思わず「負けるな、青年!」と声をかけたくなったが、とにかくそれほど世代を超えて多くの魂を震わせる感動作。“アウンサンスーチーの魂までも表現した”と評される「ミシェル・ヨー」の演技も素晴らしかった。(老若男女問わず、黙って観るべし!)
ところで、この映画の成り立ちだが、2007年にイギリスの作家レベッカ・フレインの書いた脚本をミシェル・ヨーが手にしたことがきっかけ。その脚本に感動した彼女は「この役だけはやらないわけにはいかない」と、友人であるリュック・ベッソンに「魅力的な脚本があり、プロデューサーを探している」と助けを求めたところ、脚本を読んで感動のあまり“泣いてしまった”彼は、すぐにサポートを申し出るとともに「まだ監督が見つかっていないなら、自分が立候補する」とまで乗り気になって製作化が実現したそうだ。プロデューサーであるリュック・ベッソンの妻ヴィルジニー・ベッソン=シラも「どうせ悪戦苦闘して何年も関わるなら即座に心を掴まれる企画でなければ」とヨーロッパ・コープでの製作を即決したらしい。なんとも映画人の良心と力強い情熱を感じるエピソード、だからこその傑作とも言えるだろう。
というわけで今日の〆は、1ヶ月以上も前に新聞紙上で目にして以来、ずっと心に残っている「鋼鉄の蘭」アウンサンスーチー氏の言葉。
「完全な世界平和の実現は到達できない目標だ。でも、私たちは救いの星に導かれる沙漠の旅人のように、平和をめざして旅を続けなければならない」(2012年6月17日、ノーベル平和賞受賞演説より)