本好きを自認していながら、今年に入って読んだのは漫画と仕事本・趣味本を除けば、まだ片手で数えるほど……少なっ!と、自分でも驚いてしまう。
3.11以降あまりそんな気分になれなくて……という言い訳もできるが、何でも震災の所為にしてはいけない。単に自分の気力が衰えているだけだと思う。
読むスピードも遅くなった。その分、眠気は直ぐにやってくる。(まあ、これは年の所為にしておこう)
ところが、最近そんな事態が二冊の本で一変した。
読めるのだ、グイグイと!……きっかけの一冊は先月読んだ怒涛のエンターテインメント小説『ジェノサイド』。怠惰な脳が慌てて飛び起きるほどの面白さに、今年初の“やめられない止まらない”かっぱえびせん状態に陥った。
そして、もう一冊は時間潰しに寄った練馬の本屋で偶然手にしたミステリー小説『ユリゴコロ』。
妙に惹かれるタイトルだった。著者は「沼田まほかる」……まほかる? 本名だろうか、その名前も気になった。奥付を見ると、1948年生まれ、主婦、僧侶、会社経営を経て50代で作家デビューと書いてある。主婦→僧侶? 50代で作家に?……経歴もかなりミステリアスに思えた。
その時点で「これは、ヤバイかも?!」と、心を持っていかれる予感はあったが、これほどとは……
すーっと背筋を血が走る。いくども肌が粟立つ……小説を読みながら、そんな感覚の震えを味わったのは『1Q84』以来だろうか。
恐怖感、おぞましさ、気味悪さ……ではなく、日常の底に潜む無垢で非情な孤独感、虚無感、無常観が瞬時に重なり迫ってくるような、何とも説明しがたい感覚だ。読むうちに普通の倫理観も飛び散った。人が特別な理由もなく次々に殺されていく話なのに……。
でも、この小説にとって“人が殺されていく話”は、あくまで娯楽小説として不可欠な伏線に過ぎない。読後感が快いのは、物語の根底に誰もが抱える深いテーマが流れているからだろう。
主人公とともに4冊の“殺人記”の謎を追い、いくつかの愛の行方を探す読者を、待っているのは鮮やかな結末……その「幸福」に胸が熱く震えるのは、きっと私だけではないと思う。