色々な物の値段が上がる中、本の価格も上がる一方。
(値上げの大きな原因は需要減。いわゆるZ世代を中心に活字離れが進み「本や新聞を読む日本人が少なくなった」こと。文化庁の調査によると「本を月に1冊も読まない人が6割を超えている」とか……以前、誰かが「SNSの進展は知の衰退をもたらす」と言っていたが、玉木率いる「国民民主党の躍進」「兵庫県知事選」「在日クルド人へのヘイト」等の現状を見ると、その通りの世の中になってきた気がする。「(人との出会いはもとより)いつの時代も、映画と音楽と本は、人を変える」と、当たり前の様に思い生きてきた人間としては、何とも寂しい限り)
特に、発行部数の少ない海外文学作品などは1冊2000円~3000円が普通で中には5000円を越えるものもあり、とても手が出しにくくなっている。
というわけで「買うより、借りろ!」……7月頃から市内の図書館を利用することが多くなった。ここで取り上げる何冊かもその図書館で見つけたもの。
まずは台湾発ハードボイルドタッチのミステリー小説『台北プライベートデイ』から。(最近は海外小説、とりわけアジア文学中心の読書生活。その感想を一言で言うなら「俺はアジア(文学)を知らなさすぎた&読まな過ぎた」……本当に興味深い作品が多いし、感性瑞々しく鋭い素晴らしい作家たちがいる)
『台北プライベートアイ』(著者:紀蔚然(きうつぜん)/船山むつみ訳)
主人公は元演劇科大学教授というプロフィールを持つ駆け出しの私立探偵「呉誠(ウーチェン)」(年齢は50歳手前)。酒の席での失態が原因で仲間を失い、(パニック症候群など精神的問題を抱えている故か)妻にも逃げられ、何もかもなげうって私立探偵を始めた…という、かなりハチャメチャな人物(ひねくれたユーモアが好みで、毒舌全開の独白で憂さ晴らし。風体はダサいのに音楽の趣味はめっちゃイイ…というあたりは「ハードボイルド」小説ファンにはたまらない味付け)。その「呉誠」によって語られる台北の街(主に下町)、人、文化、歴史…とりわけ「台湾人観」が実に興味深かった(言うならば「読めば台湾・台北の事が分かったような気になれる」ハードボイルド小説。元気過ぎる呉誠の母、つれな過ぎる妹、倫理感ゼロのマスコミ、頼りない警察、探偵ビギナー揃いのダサ面白い仲間たちなど、いい加減だが憎めない。という「台湾らしさ」を感じさせる脇役陣にも自然に興味を惹かされた)。
ちなみに「台北」は、(数少ない海外旅行の中で)私的に好きな街ランキング3位の街(ちなみに1位はホーチミン、2位はベネチア)。この小説を読んで、「もう一度行ってみたいなあ」と、より「台北」の魅力が増した気がする。(続編『DV8 台北プライベートアイ2』も現在読書中)
『黒い豚の毛、白い豚の毛』(著者:閻連科(えんれんか)/谷川毅訳)
中国の農村や軍隊(著者自身も入隊していたことのある人民解放軍)を舞台・題材として展開されるマジック・リアリズムの世界を作り上げ、フランツ・カフカ賞をアジアでは村上春樹に次いで受賞するなど、世界的評価が高く(一方、その鋭い寓意に満ちた作品は、本国では「軍を侮辱した」などとして発禁処分も受けてきたそうだが…)ノーベル文学賞の有力候補との呼び声もある著者・閻連科の自選短編集(2002年~2018年の間に綴られた作品群)。
表題(の短編)『黒い豚の毛、白い豚の毛』とは、クジをひかせるために用意した毛(黒い毛なら当たり、白ならハズレ)。で、そのクジの景品は何かというと《自動車事故で人を轢いてしまった鎮長(「鎮」は県より少し小さい都市や町のことで、その「長」。即ち市長もしくは知事といった所だろうか)の身代わりになる権利》……はっ?何それ?と思うが、「貧しく冴えない現状から抜け出すには市や村の有力者に取り入るほか無し」と考える人たちが普通に多い超格差・村社会。「罪を被って牢に入ることで恩を売り、出獄の暁にはたぶん出世が待っているはず…」と、うだつの上がらない男たちが次々にクジを引くことになる。結果、見事当たりクジを引いた男に待っていたのは「出世」ではなく…という話(想像通りの哀しい結末)。
その他、《未婚の中隊長を結婚させるために、軍をあげての嫁探し。どうにも上手くいかず、最終手段としてイケメンの部下が「中隊長」と偽り、自分の写真と恋文をターゲットの女性に送りつける。そして遂にその女性が中隊長のもとに現れるのだが…》という、ほとんど性暴力としか思えない、あまりの人権無視&驚愕の結末に唖然とさせられる『革命浪漫主義』、また、限界集落を一から建て直す郷長(集落の長)の執念が凄まじい『柳郷長』、晩年になってからキリスト教を信じるようになった老婆を翻意させるため(共産主義を標榜する国家・中国。実際は多様な宗教文化が存在していて、建前上も禁止していないものの「ない方が良い」というスタンス。とりわけ「キリスト教」は中国共産党政権の一番の標的、キリスト教会の十字架破壊、撤去及びそれに抗議する信徒たちの逮捕など、習近平政権下、弾圧が続いている)、元村長の隣人が様々な策を講じる『信徒』なども、深く印象に残った。
0 件のコメント:
コメントを投稿