2018/08/03

気持ち悪いCM&映画『国家主義の誘惑』




8月初日の話。朝からイヤなものを見てしまった。


空っぽの教室。薄暗い体育館の中を、ほとんど無表情で同じ方向へ走り出す全員制服姿の生徒たち。(BGMは何故かムソルグスキーの「展覧会の絵」)……なに、このセンス!?イメージは正に「学徒動員」。

“灼熱オリンピック(の危険性)”が叫ばれる中、雇用責任を問われないが故に「ボランティア(という名の労働搾取)」に固執する、そのあざとさ・無責任さもさることながら、このCMを見て気持ち悪いと思わないセンスの人たちが“純粋な善意の行為”を募っているという薄気味悪さ。
しかもボランティア募集や研修を担うのは政権の提灯持ちで非正規激増の“立役者”竹中平蔵率いる人材派遣会社「パソナ」とは!?……最早「復興(五輪)」の大義名分などどこ吹く風、見えてくるのはオリンピック憲章と真逆の「国威発揚」と「利益誘導」の思惑だけ。

で、もっと気持ち悪くなりそうなのが、オリンピックに向かうこれからの2年間……
物流と人の移動の統制、学徒動員(大学、専門学校等への休講・授業スケジュール変更等の要請)、国家総動員(無償労働力の提供、木材の無償提供、五輪メダル用金属回収、個人資産の提供など)、メディアの翼賛体制(多額の税金が投入される以上、メディアによる監視と批判は不可欠。なのに、全国紙大手4社が揃ってオフィシャルパートナーでは…)、予算節約を大義名分にした精神論の復活(森喜朗曰く「暑さはチャンス」、小池百合子曰く「打ち水」&「総力戦」)などなど。身を以て1940年代前半の不穏な空気を味わうことになるのかもしれない。

さて話は変わって、先日(730日)ポレポレ東中野で観たドキュメンタリー『国家主義の誘惑』(監督:渡辺謙一/製作国:フランス、2017年、54分)。

《国益・国家の名の下に秘密裏に決裁、反対意見には耳を貸さず、新造語を連発し、嘘を通す――日本社会のいまを浮き彫りにした フランス発ドキュメンタリー。
世界にナショナリズムの風が吹き荒れる中、2015年の公開作『天皇と軍隊』(2009年)で話題を呼んだフランス在住の渡辺謙一が、 国際関係史・地政学の観点から国内外の論客によるインタビューも交え、日本社会を誘う政治の正体、日本人にとってのナショナリズムを問いかける。 果たして、取り戻さなければならないものは何なのか。本当に知らなければいけないことは何か。日本社会を俯瞰することで見えてくるものとは――

と、公式ホームページに作品のあらましが紹介されているが、「取り戻さなければならないもの」も「本当に知らなければいけないこと」も、すべては観た人の胸の中。
映画は、日本の近現代史を改めて紐解くことによって、「何故これほどまでに日本の政治は地に落ちてしまったのか」という問題にコミットする上でのヒントを与えてくれるだけ。
映像を通して見えてくる“人々の政治に対する意識が醸し出す空気”(それを渡辺監督は「国家主義の誘惑」と呼ぶのだが)を、自ら察知できる感性・知性を研ぎ澄ませ、その空気に対抗しうる(あるいはその流れを変え得る)しなやかな論理の力を蓄えよ。という無言のメッセージを添えながら……。
(映画の中で最も印象的だったのは、「生前譲位(生前退位)」を望む今上天皇のメッセージビデオが流れる場面。それに対してフランスの歴史学者ピエール・フランソワ・スイリは、こうコメント。「驚きの状況を前にしています。民主的な自由と平和憲法を、天皇が擁護しようとしているのです。政治による改憲に対抗しています。これは政治的に非常に奇妙な状況ですね。現政権に対して、天皇が唯一の反旗を立てています。日本では他に組織的な対抗勢力がないためです」)

映画終了後、渡辺謙一監督と鈴木邦男氏(元・一水会顧問)のトークライブあり。

「左翼」「右翼」という言葉の由来とその違い(「心の中に天皇があるか無いかだけで、もともと大差ない」とは鈴木氏の言葉)、日本会議の歩みと現政権への影響など。1時間ほどの語らい。

その際、鈴木氏からも映画の中の論客たち同様「天皇陛下は憲法を守ろうとしている。生前譲位は、そのためのものではないか」との発言あり。それに関連して渡辺監督も「(生前譲位を求める)天皇はちょっとおかしい」「天皇は祈っているだけでいい」という日本会議系の学者・平川祐弘氏の発言を取り上げ、それを耳にした天皇が「ショックだった」と、強い不満を漏らしたという話(新聞記事)を紹介。その天皇の“憤り”に「へえー、そうだったんですか」と鈴木氏も驚いた様子。
(要するに、「日本会議」が崇め、必要としているのは憲法を守る「人間・天皇」ではなく、観念的存在としての「天皇」及び「天皇制」ということ。言わば国体護持のための“操り人形”が欲しいだけ。本音は「操り人形が勝手にしゃべるな。我々の憲法改正を邪魔するな」だろう)

以上、いま観るべき、タイムリーなドキュメンタリー映画。ぜひ、ポレポレで。


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