2016/04/22

『バベル九朔』読了。




先日、とある駅前の「喫茶店」で、隣席に座る見知らね高齢女性に「講談社とか角川書店とかの本はどこで売ってるんですか?」「彩の国のサイの字は、土へんじゃないんですね…」等々、唐突かつ不思議な質問を投げかけられながら、狐につままれたような気分で読み終えた万城目学の新作『バベル九朔』。

どこの街にでもあるありふれたテナントビルを「迷宮」に変貌させていく手腕は、さすが「万城目」と思うが、面白いような、そうでもないような。分かったような、分からないような……スッキリしない後味。“奇想天外・驚天動地のエンタテインメント”と謳われてきた今までの万城目ワールドとはかなり様子が違い、戸惑った。(読みながら寝落ちしたことも度々)

例えるなら、純文学のスパイスを効かせすぎて持ち前のエンタメ味が薄くなり、結果、リリシズムが欠落したやや深みのない村上春樹になってしまったという感じだろうか……

違うか。

主人公はタイトルにもなっている雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしながら小説家を目指し、新人賞に応募しては落選を繰り返す日々を送る「俺=九朔(きゅうさく)」。(「バベル九朔」は、38年前に亡き祖父・九朔満男が建てたもの)
その「俺=九朔」は、ある日雑居ビルのなかで不気味な黒ずくめの女と出会う。日毎ビルの入口付近でうろつくカラスの化身と思われる“鳥の目”をもつ彼女に何故か後を追われ、ビルの中を逃げ回る途中、「九朔」はそのビルに隠された謎に触れ、異様な「バベル」の世界に迷い込む……というのが大まかなあらすじ。
本の帯には《万城目ワールド10周年 最強の「奇書」誕生! 俺を追ってくるのは、夢か、女(カラス)か?》と書いてある。

“最強”かどうかは別にして、言われてみれば、まさに「奇書」……作者本人が「表紙に万城目学と名前がなかったら、わからないかもしれない」と語るくらいだから、「これって、万城目なの?」と私のような読者が奇異に思うのも当たり前。
でも万城目学が「本当に書きたかった一作」らしいし、彼には主人公「九朔」同様、ビルの管理人をしながら小説を投稿していた時期があり、その実体験が随所に盛り込まれているとのことで、私の感想はさておき、それだけ思い入れの深い作品なのだろう。

「王様のブランチ」のインタビューでは、小説家を夢見ながら成果の出ない時間を過ごす主人公のように「打算なく時間とエネルギーを注ぎ込むことは非常に美しい」と語り、それが今作のテーマになっていると明かしたようだ。

なるほど。この世は、願いながらも力及ばず果たせなかった無数の夢の残滓で出来ている、とでも言いたかったのだろうか。その残滓こそが尊いモノだと。

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