2016/04/10

ボブ・ディランの夜 〜その1〜








45日、待ちに待った「ボブ・ディラン」の日本公演に行ってきた。(場所は、渋谷Bunkamuraオーチャードホール)

その日は朝から少し落ち着かず、ネットで前日のセットリストを手に入れ、かなり時間をかけて“予習”していた。(「自ら進化し続けるロック界最重要アーティスト」らしく、そのリストには「ライク・ア・ローリング・ストーン」も「FOREVER YOUNG」も「時代は変わる」もなく、私たちが熱狂した60年代の曲は「風に吹かれて」と「She Belongs To Me」があるのみ)

開演は19時予定……16時前に家を出て副都心線で渋谷へ。道玄坂の『麗郷』で腹ごしらえ(&ビールと紹興酒)した後、18時半過ぎ「オーチャードホール」へ入り3階正面4列目(30番)の席に着く。(さすが最安のA席、ステージは遥か彼方)
周りを見渡すと、やはり同世代(及び団塊世代)と思われる観客が多く見受けられたが、20代の若者や外国人の姿もかなり目につき、世代・国境を越えたイイ感じの雰囲気がホールに漂っていた。(開演10分前くらいに、真っ赤なスーツに身を包んだファッション・デザイナー山本寛斎氏がドアを開けて入って来た。席は私とツレの2列前)

そして19時過ぎ、会場が暗転。大歓声が上がる中、アコースティックギターの演奏が始まり、ボブ・ディラン登場!(私の席からは白い帽子が分かるだけで、顏・姿はまったく視認できない)。年季の入ったしゃがれ声で、オープニング曲「シングス・ハヴ・チェンジド」を歌い出した。

2曲目はブルースハープを吹きながらの「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」(65年の名盤『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』収録曲)。そして「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング」(2009年リリース)、「ホワットル・アイ・ドゥ」(フランク・シナトラに代表されるグレート・アメリカン・ソングブックの名曲)と続き、5曲目はアルバム『テンペスト』(2012年リリース)収録の「Duquesne whistle(デューケイン・ホイッスル)」。ピアノを弾き、気持ちよさそうに揺れながら歌うディランの姿を遠目に拝み、コチラの気分もハイテンション。

ちなみに“デューケイン”はペンシルヴァニア州にある人口5千人超の町。この町にはかつて「カーネギー鉄鋼」傘下の鉄鋼会社「デューケイン・ワークス」があり、20世紀初頭の鉄鋼業の最盛期には、この町の産業の中心となっていたようだ。
この時期、ニューヨークとこの地を結ぶ鉄道があったそうで、ディランの曲で歌われているのはこの鉄道のことらしい。(「Duquesne whistle」はデューケインの駅から出発する汽車の汽笛)


Can't you hear that Duquesne whistle blowing
Blowing like the sky is gonna blow apart
You're the only thing alive that keeps me going
You're like a time bomb in my heart

デューケインの汽笛が聞こえるかい?
空が吹き飛ばされてしまうような汽笛の音だ
お前は私を活気づける唯一の存在
私のハートにある時限爆弾のようだ



……ということで、この時点で一番のお気に入り曲。一瞬「ん?トム・ウェイツ!?」と錯覚しそうなほど魅力的な、ディランのしゃがれ声が胸に気持ちよく沁み渡る、渋くて軽快なブルースナンバーだった。(この曲がリリースされたのは4年前。なんとディラン70歳の時!さすが“進化するロック・レジェンド”)

6曲目は日本初登場の「メランコリー・ムード」。5月発売予のニュー・アルバム『フォールン・エンジェルズ』に収録される曲らしいが、またもやフランク・シナトラのレパートリー……ディランの新境地と言われれば「ふ~ん」と頷くしかないが、ロックとは無縁のメロディアスな大人の音楽は眠気を誘うのみ。オーチャードホールがラスベガスのナイトクラブに変わったような気分だった。
7曲目は「Pay in Blood(血で払え)」、前曲のソフトなボーカルから、凄みのある声でまくしたてるディランが戻ってきた。(アルバム『テンペスト』は必聴かも!?)

で、8曲目「.I'm a Fool to Want You」と9曲目 That Lucky Old Sun」もシナトラのカバー。「何ゆえここまでシナトラ押しなの?」と集中力が切れかけところで、第一部最後の曲は、70年代のディランの代表作『血の轍』から「Tangled Up in Blue(ブルーにこんがらがって)」。
当時のテイストは感じさせつつも、まったく原形を留めないディランの自由奔放な歌いっぷりに「そうこなくっちゃ!!」と心が躍った。この曲、とにかく詩がすごい。

ある朝早く 太陽は輝き 俺はベッドに横たわり
すっかり変わったろうか まだ髪は赤いだろうかと
彼女のことを思った。
彼女の両親は、俺たちが一緒に暮らしても
絶対すぐ駄目になると言ったものだ
俺のママお手製のドレスなど好きにはなれないし
パパの銀行通帳には大した額がないだろうというわけだ
そして俺は道端に立ち尽くし
靴は雨でずぶ濡れになり
俺は東海岸を目指した
到着するまでに俺が支払った対価は神のみぞ知る
ブルーにこんがらかって

ふたりが出会った時、彼女は結婚していたが
離婚は間近だった
彼女を救ってやったとは思うが
手口は少しばかり強引だった
俺たちはできるだけ遠くまで車を走らせ
西の外れで乗り捨てた
それが最善と同意して
俺たちは暗く、悲しい夜に別れた
俺が歩き去ろうとすると
彼女は振り返り、俺を見た
肩越しに彼女の声が聞こえた
「いつかまた、大通りで会いましょう。
ブルーにこんがらがって」

……こんな感じで7番まで続くのだから。まさに現代の吟遊詩人と言われる所以。




そして、曲が終わり、ここまで一切MCを入れなかったディランが客席に向かって「ありがとう!」と日本語で叫んだ。思わぬリップサービスに会場はどよめき、大歓声。私も「ヘイ、ディラ~ン!」と小さく叫び手を振った。


0 件のコメント:

コメントを投稿