2016/03/17

『へろへろ』が、面白い!



悲しいかな、一向に仕事の依頼がこなくても、その分、「歩け歩け運動」(バイトのこと)でバテバテになろうとも(週23日、18~10キロくらい歩くので体には良いかも?)、面白い本と出会えた日は、それだけで気分のいい一日になるもの。

池袋西武の三省堂(「リブロ」が去年の7月に閉店し、「三省堂」になった)で見つけた『ヘロヘロ』(雑誌「ヨレヨレ」と「宅老所よりあい」の人々)が、その本。
桜前線が近づくこの時期、すーっと肩の力が抜けるようなタイトルもいいが、目に飛び込んだ帯のコピーが、なお気持ちイイ。

ぶっとばせ、貧老!

つかみはOK10年後、自分が言ってる言葉かも?)。で、帯の裏にはこう書いてあった。
お金のないことが、あんたはそげん恥ずかしいとね。
「僕たちは、〈老人ホームに入らないで済むための老人ホーム〉を作ります。」お金も権力もない、老人介護施設「よりあい」の人々が、森のような場所に出会い、土地を手に入れ、必死でお金を集めながら特別養護老人ホームづくりに励む!》

装丁の雰囲気も昔の「ガロ」っぽくて、マンガ好きのオヤジ心をそそるし、なんかすごく面白そうな本じゃないか!?(あとで知ったが、装画は、著者の友人のご子息「天才画伯・奥村門土くん」が描いたもの)と、8割方購入を決めたところで、とどめは、著者・鹿子裕文のプロフィール。

1965年福岡県生まれ。編集者。
ロック雑誌「オンステージ」、「宝島」で編集者として勤務した後、帰郷。1998年からフリーの編集者として活動中。2013年、「宅老所よりあい」という小さな老人介護施設で起きているドタバタのみを取り上げる雑誌「ヨレヨレ」を一人で創刊(現在第4号まで発行)。ありえない企画と不思議な誌面が噂を呼ぶようになり、ブックキューブリックの「売り上げベスト10」で18週連続123位を独占するという空前絶後の記録を打ち立てる。杉作J太郎が率いる「男の墓場プロダクション」のメンバー。
人生で最も影響を受けた人物は早川義夫。

はい、鉄板!(の面白さ)。こんな経歴を持つ(書く)人間が書く「老人介護」の世界(そのドタバタ)が、つまらないわけがない。これを読まなきゃ、何を読む!?

というわけで、超久しぶりの一気読み。

結果、“愛と笑いと涙と怒りの四重奏”が胸に響いて、暫し放心……そのすべてを細かく拾って書く気はないが、当ブログを覗いた方の「読書意欲」を刺激すべく、最も印象に残った言葉と一節を紹介しておきたい。

まず、ある「ばあさま」の言葉から……
「なぁんが老人ホームか!あんたになんの関係があろうか!あたしゃここで野垂れ死ぬ覚悟はできとる!いたらんこったい!」

「よりあい」の中心人物・下村恵美子さんの「老人ホームに入りませんか?老人ホームはよかとこですよ」という呼びかけに対して「大場ノブヲ」さんは、すごい剣幕でこう言い放った。この方との出会いが「宅老所よりあい」創設のきっかけともなったのだが、その「野垂れ死ぬ覚悟」という言葉を、著者は雑誌「ヨレヨレ」創刊の際、原稿書きに苦闘する中、改めて「孤立した人間の声」として、また「自分自身の声」として思い起こす。

「わたしがそんなに邪魔ですか?」
聞こえないはずの声が聞こえてくる。僕の中から聞こえてくる。(中略)社会から放逐された多くの人間が、犬が、猫が、孤立した世界の中で発する声だ。僕は前にも聞いたことがある。だから壺に入れて土に埋めたのだ。それは、はみ出し者にしか聞こえない声だ。落ちこぼれにしか聞こえない声だ。(中略)

ぼけた人を邪魔にする社会は、遅かれ早かれ、ぼけない人も邪魔にし始める社会だ。用済みの役立たずとして。あるいは国力を下げる穀潰しとして。どれだけ予防に励んでも無駄だ。わたしはぼけてない、話が違うじゃないかと泣き叫んでも無駄だ。
きっと誰かが冷たく言うのだ。
じゃあそのおぼつかない足腰はなんだ。ろくに見えないその目はなんだ。まともに働けないその体はなんだ。ばかなやつだ。ただ「ぼけてない」ってだけじゃないか。そんなもんはなぁ、俺たちからしてみりゃ、五十歩百歩の違いでしかないんだよと。そして肩をぽんと叩かれてこう言われるのだ。こんな街の中にいたってしょうがないだろう。どっか隅のほうに姿を消してみないか。それが子のため孫のため、ひいてはお国のためってやつだよと。
そのとき聞こえないはずの声は、必ず聞こえてくる。

「野垂れ死ぬ覚悟」とは、おそらくそういうところからしか生まれてこない反逆の覚悟だ。人様からどんなことを言われようと、それでもそこで生きてやるという宣戦布告だ。あるときはしたたかに、またあるときは笑い飛ばしながら、自分の居場所に旗を立て、その旗もとにどっかり腰を下ろし、今日も明日も明後日も、悠々とふんぞり返って握り飯を食おうじゃないかという心意気の表明だ。
おもしろいじゃないか。
痛快じゃないか。
ロックンロール。
僕らはせっかく生まれてきたのだ。

書きためていた原稿は、どうやら書き直すハメになりそうだ。仕方ない。僕は机の上にあったメモ帳に走り書きをした。
「楽しもう。もがきながらも」
それは創刊号のキャッチフレーズになった。

さて、また少し胸が熱くなり、ググッと気合いが入った所で……どうです皆さん、もっと「よりあい」の人々を知りたくないですか?もっと彼の言葉を聞きたくはないですか?

著者は、本がたくさん売れたら、「よりあい」の職員さんのように「ボーナスカンパ」をしてドキドキしたいそうなので、ぜひ、ご一読のほど(もちろん、読んだ人に借りるのではなく)。

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