2015/02/03

最近の映画話②『さよなら歌舞伎町』



ロケ地は昔よく飲み歩いた新宿・歌舞伎町(正しくは、歌舞伎町を挟んで新大久保コリアンタウン~百人町あたり)、監督は80年代にピンク映画で名を馳せた廣木隆一、主演は『ヒミズ』の好演が記憶に新しい若手演技派・染谷将太、そして松重豊、大森南朋、田口トモロヲ、南果歩などなど錚々たる顔ぶれの役者陣……とくれば、当たりの予感がビンビン。面白くないわけがない!と、封切を心待ちにしていた映画。(鑑賞日は127日、小屋は「シネリーブル池袋」)

作品のスタイルは、限られた時間と空間でそれぞれ異なる人生ドラマが並行して描かれる「グランド・ホテル形式」。歌舞伎町のラブホテルを舞台に、そこで働くわけありな人たちと、そこに集うカップルたちのリアルな人間模様を描く群像劇……物語は、とある日の朝の新宿から始まる。

主人公は、ミュージシャン志望の恋人・沙耶(前田敦子)と東北の家族に「一流ホテルマン」と偽り、ラブホテルで店長として働く徹(染谷将太)。でも、その二人の関係を中心にドラマが展開するわけではない(徹は主役というより狂言回し的存在か?)。
時効が明日に迫った逃亡犯の二人、韓国人の恋人同士、風俗スカウトマンと家出少女、逢瀬を重ねる不倫刑事カップル、AV女優として撮影にやってきた徹の妹・美優、そして彼らの人生とすれ違う男たち(大森南朋、田口トモロヲ、村上淳)……そのすべてが一つの火鍋に入れられた肉や魚のように、絶妙のバランスで人生の辛さとほどよい甘味を醸し出す。
中でも特に印象的だったのは、恋人に内緒で風俗店で働く韓国人デリヘル嬢・ヘナを演じるイ・ウンウ。ヘイトスピーチデモに遭遇した際の微妙に強張る顏、過激なベッドシーンを何の衒いもなく演じきる叩きあげの女優魂、ラスト近く恋人との混浴シーンで魅せてくれた深い哀しみと美しさ。もう、胸キュンどころの話ではない。彼女の存在がこの映画の価値を決定づけたといっても過言ではないほどの熱演に、只々感嘆するばかり。

練り上げられた脚本も、ピンク映画出身監督らしい過激な演出もいいが、2時間15分という長尺にもかかわらず、スクリーンに釘付けになって楽しむことができたのは、逃亡おばさん「南果歩」の抜きん出た演技力・個性と「イ・ウンウ」をはじめとする女優陣のカラダを張った演技のたまもの。(生活に疲れた感が滲み出る染谷将太もイイ)
エンドロールの先に希望が見えてくるような大団円のラストも気持ちよく、日本映画も捨てたもんじゃない。と、心底拍手を送りたくなる一本……

だが、唯一「前田敦子」がいただけない!目を覆いたくなるようなグダグダな演技、とてもミュージシャン志望とは思えないギターと歌の拙さ(極め付きは、完全にシラケてしまったラストの無意味な泣きのソロ)。で、ラブホテルが舞台の映画のヒロインという立ち位置で、当然のようにのうのうと「裸&激しい絡みNG」(別に見たくもないが、そのせいで映画全体の雰囲気が壊れるのは勘弁)……どういう事情かしらないが、他の俳優たちが素晴らしかっただけに、何とも残念なキャスティングというほかなし。せっかくの映画が、本当にもったいない!(前田本人も出る映画を間違えたと思っているだろうが、それ以上に監督は無念のはず)

というわけで、「前田敦子」以外は文句なしの力作。日本アカデミー賞は無理でも、東スポ映画大賞くらいはかっさらってほしいものだ。(「勝手にコトノハ映画2015」邦画部門・作品賞には早くもノミネート決定。助演女優賞は「イ・ウンウ」で決まり!)

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