2015/02/01

最近の映画話①『イロイロ』(&残念なニュース)



早朝からあまりに残念なニュース。何ともやりきれない気分だが、「平和国家」の総理大臣が怒りにまかせて「テロと戦う」姿勢を前面に打ち出し「その罪を償わせる」などと、有志連合の一員として、将来的な武力行使をにおわせるような言葉を、感情的(扇情的?)にまくしたてるのもどうかと思う。で、昼ごろには「総理は目に涙を溜めながら、憤りの念を…」と、またぞろ見たくもない安倍劇場を見せられるという二重のやるせなさ(泣いている場合じゃない!と言いたいが、涙の理由は自衛隊を海外派遣できない悔しさか?)。

こんな時に、質疑応答なしの囲み取材だけで、首相の正式な記者会見すら要求しない大手メディアは、一体何をやっているのだろう(「緊急時だから、政府を叩くな」という指令でも出ているのだろうか?)。危険地域の取材はフリーランスのジャーナリストに任せて、安全な国内で活動しているのだから、せめて首相の行動・発言は国民目線でしっかり問いただしてほしい。それが平和への願い空しくシリアで散ったジャーナリスト・後藤健二さんに対する、同じジャーナリズムの世界で生きる人間としての最低限の礼儀ではないだろうか……

さて本題。年明け最初の仕事(ポスター制作コンペ)も一段落。あとは、デザインの上がりを待って企画書を書くだけ。というわけで、遅ればせながらここ2週間の間に観た映画を紹介。

まずは、14日に新宿・K’s cinema(元「昭和館」)で観たシンガポール映画『イロイロ ぬくもりの記憶』……舞台は1997年・アジア通貨危機時代のシンガポール、監督はこれがデビュー作となるシンガポール出身のアンソニー・チェン。

で、どんなストーリーかというと……
共働きで多忙な両親をもつ一人っ子のジャールーは、ワガママな振る舞いが多く、小学校でも問題ばかり起こして周囲の人々を困らせていた。経済不況化、家計は厳しかったが、手を焼いた母親の決断で、家事と息子の世話をしてくれるメイドを雇うことに。フィリピン人のテレサが住み込みでやってきた。突然の部外者に、なかなか心を開かなかったジャールーだったが、仕送り先にいる我が子への想いを抑えつつ必死で働くテレサに、いつしか自分の抱える孤独と同じものを感じて心を開いていく……というもの。

監督自身の幼少時代の体験を元に、シンガポールの一般的な共働き家庭を描きながら、家族の問題・少年の成長・金銭トラブル・移民や格差の問題といった文化や国境を超えた普遍的なテーマを、家族のリアルな日常の中に浮かび上がらせ、静かに深く観る者の心を揺らす見事な作品。
主要な登場人物は、両親とジャールー、そしてテレサの4人だけだが、それ故の濃密な時間がスクリーンに流れる。自国経済の暗雲に晒され翻弄される普通の人々の暮らし、日常生活の些細な出来事と、そこで交差する細やかな感情の描写が実に巧み。特に、様々な悩みや不満をグッと呑み込んで職務を遂行するテレサの人間味、その優しい眼差しが魅力的だ。
是枝作品の雰囲気に似ているなあと思ったら、パンフレットに是枝裕和監督の声が載っていた。「アジアからまたひとり、時代を代表する監督が誕生したことを素直に喜びたい」……私も、30歳の気鋭監督の誕生を喜びつつ、次作を楽しみに待ちたいと思う。

※「イロイロ」は色々ではなく「ILO ILO」。アンソニー・チェン監督の幼年期、彼の家庭にいたフィリピン人のメイドさんの故郷の地名とのこと。

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