2014/07/08

最近のあれこれ②シネマ



6月中旬から7月初めにかけて、街で観た映画は3本(新宿で2本、池袋で1本)。

 その中で最も印象に残ったのは、コーエン兄弟の最新作『インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌』。(ボブ・ディランをはじめ60年代のフォーク・シンガーに大きな影響を与えたディヴ・ヴァン・ロンクの自伝を元にコーエン兄弟が脚本・監督を手がけた作品。2013年、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞)

舞台は1961年のNYグリニッジ・ヴィレッジ。主人公は、フォーク・ミュージックをこよなく愛し、音楽にすべてを捧げながらも、全く売れないその日暮らしの宿無しシンガー、ルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)。映画は、そんな彼の流浪の日々を一週間の出来事に集約し、ペーソスとユーモアを織り交ぜ60年代アメリカの空気感と共に映し出す。

で、ストーリーを簡単に紹介すると……

音楽に対する姿勢だけは真摯で頑固、それ以外のことにはまるで無頓着なルーウィン・デイヴィスは、金も家もなく、知人の家を転々とする日々を送っていた。そんなある日、泊めてもらった友人の家の飼い猫「ユリシーズ」が自分の不注意で逃走。すぐに追いかけて捕まえるが、成り行きから猫を抱えて行動する羽目に。おまけに、出来心で手を出した友人の彼女「ジーン」からは妊娠を告げられた上、自分の信条を曲げずに貧しい生活を送る己の生き方を責められ、「負け犬!」と罵られる始末。しかも、ユリシーズに再び逃げられてしまい、頭痛の種は増すばかり。
必死に街を探し歩き、なんとかユリシーズを見つけて、飼い主である友人夫妻の元へ届けるのだが、そこでも自分の歌のことで感情を爆発させ二人と衝突。恩人夫妻を怒らせた上に、連れてきた猫がユリシーズではないことが判明。八方塞がりの中、ギターと猫を抱えて街を出る決意をする……という情けなくも痛ましいお話。

コーエン兄弟らしく、物語的高揚もハリウッド的な感動もなく、苦い後味が胸に残る作品だが、大きなプロットに小さなドラマを連続的に挟み込み、ルーウィンの“インサイド”を描き出す構成&テクニックは流石の一言。全編セピアのフィルムが醸し出す雰囲気も素晴らしく、そのアンダーグラウンドな感じが何ともたまらない。
もちろん、ルーウィンがギターを奏でて歌う曲や流れる音楽にも心をそそられる。私は、いきなり出だしの「首吊りの歌」で胸を抉られてしまった……

が、本当に鳥肌が立つのはその1時間半後。
打ちひしがれて旅から戻ったルーウィンは再びグリニッジ・ヴィレッジのコーヒーハウスで歌い始めるのだが、彼が歌い終えた後、そのステージに上がったのは若き日のボブ・ディラン!時代の転換を見事に描いたワンシーンの直後、ハウスを出たルーウィンは、彼を待ち伏せていた見知らぬ男に殴り倒される(冒頭部分と重なるシーン)。それは古い時代の歌の終焉だろうか、「あばよ」とルーウィンは自らに別れを告げ、映画は終わった。

というわけで、「不遇のシンガーと猫」が織りなす突発的ロードムービーの味わいと、音楽ドキュメンタリーのような生々しさを併せ持つ人間ドラマ。ボブ・ディランと猫が好きな方は、ぜひ!

 

0 件のコメント:

コメントを投稿