2013/04/09

事実は小説&映画より奇なり



先日、DVDで映画『アルゴ』を観て、こんな嘘みたいな事実が歴史の裏側に隠されていたとは……と、ハラハラドキドキしながら驚かされたものだが、その興奮度やスケール感には及ばずとも「事実は小説より奇なり」と言う点では、一昨日読み返した『嘘みたいな本当の話』(20116月第1刷発行)も負けてない。

米国の作家ポール・オールスターが、ラジオで視聴者から「作り話のように聞こえる実話」を募った「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の日本版だそうだが、奇妙な体験や笑える体験をWeb上で全国から募り、内田樹と高橋源一郎の2人が選んだ「149」の巷の実話”……笑い、驚き、時にしんみりしながら、身近にある人生いろいろの情景を思い浮かべ、人の世の不思議を噛みしめ味わうことができる面白本だ。

その中から、私がジワ~っと笑えた3話を紹介。


《電光掲示板》

仕事帰りのこと。バス待ちの列に並び、おばあさんの隣に座った。ちょうどバスがでたところだったのか、そこには数名しかいなかった。ふいにおばあさんが、ビルの電光掲示板に流れていたニュースを読み上げ始めた。しんと静まりかえっていた夜のバス停に、突如、年老いた震える声が響き渡った。

「東京 晴れのち曇り 降水確率 30パーセント……

 簡単な天気予報が終わると、その日の出来事が流れ始めた。おばあさんは無表情に、どのニュースも滞ることなくゆっくりと、しかし淡々と読み上げていった。その声色からは、読み上げている事実なんか、おばあさんにとってはまるでどうでもいいことみたいに感じられた。ニュースが「政治経済」から、「社会」へ変わった。

……母親は、子どもを絞め殺したと供述している」

 戦慄の殺人事件だった。おばあさんの震える声がいっそう不気味に聞こえてきた。おばあさんはそこでぱたりと読むのを止め、押し黙ってしまった。バス停に再び戻ってきた沈黙は、さっきよりも深くなったみたいだった。

バスはまだ来る気配すらなく、電光掲示場にはもう別のニュースが流れていた。


《モガといわれた女》

近所においしい洋食屋ができたと言い出したので「店の名前は?」と聞くと「オペン」と答えた。場所的に近かったので行ってみると店の名はまったく違った。

ばあさんは、「OPEN」の札を店の看板だと思っていた。


《暗証番号》

友人が銀行の窓口業務をしていた頃の話。
ある老人がキャッシュカードをつくりにやって来た。
書類をおおかた書いて、最後に暗証番号を書く段で、老人は尋ねた。
「これは暗号のようなもんですか」
友人はちょっと違和感を覚えたが答えた。
「ええ。お客様だけにわかる暗号のようなものです。この四つの枠に書いてください」
老人は考え込んだ末に言った。
「生まれ年でもよろしいか」
「ええ、けっこうです」
友人がアッと思った瞬間には、時すでに遅し。

枠内には力強く「イノシシ」と書かれてあった。


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