2012/03/10

マイトガイのつぶやき

昔よく観た日活アクション映画、中でも好きだったのは小林旭の『渡り鳥シリーズ』。いわゆる股旅物で、ギターを背負った主人公が全国を放浪しながら、辿り着いた場所のワルを懲らしめるという「男はつらいよ」と「水戸黄門」を7:3で合わせたような筋立てだが、そのシチュエーションの不可思議さが際立っていて特に印象に残っている。

例えば、何故か主人公はいつも馬に乗って現れる(馬で海を渡れないし、どこで乗り継ぐのか?)。寅さんのような香具師でもなく、どうやって金を工面しているのかも不明だ(しかも拳銃まで所持している)。で、酒場で暴れ過ぎじゃないかと思うし、そんな荒くれの風来坊が女にもてるのも腑に落ちない。そもそも何故ギターを持っているのか、なぜ敵役はアキラが歌い終わるまで攻撃しないのか……と次々に疑問が湧いてくるのだが、「そんな小さなことは気にするなよ」とでも言うように明るく歌い颯爽と振舞うアキラの存在感は圧倒的で、その無頼な佇まいとカッコいいアクションに時も疑念も忘れて見入ったものだ。

本当の銀幕スターだけが持つ説得力とでも言うのだろうか。自らが放つ眩い光にさえ無頓着で、周囲の目など気に留めず感じたままを口にし、思いのままに振舞い、抜きん出た存在感で人を魅了していく……そんな「小林旭」を、作家・小林信彦は「無意識過剰」と表したが(今風に言うと“不思議ちゃん”)、なかなか上手いことを言うものだと思う。“代々木泣くのはおよしなさい♪(恋の山手線)”と、空に抜けるような甲高い声で能天気に歌っている姿などは、その典型かもしれない。

で、その昭和の大スター「小林旭」の半生を振り返ったインタビュー本が出ていることをつい最近知った。著者はサッカー通なら誰もが知っているスポーツライター・金子達仁……きっと、渡り鳥シリーズの裏話や痛快でスケールのでかい話がてんこ盛りなのだろうと無性に読みたくなり、先日(13日)仕事で恵比寿に出た際、アトレの本屋で手に入れた。

タイトルは『不器用なもんで。』……う~ん、イケてない。不器用=健さん、ではないのか。でも、きっと中身は面白いはず。と信じ込んで読み始めたのだが、これがまた思いのほかイケてない。期待した“スケールのでかい話”は、14億もの借金を僅か数年で返したことと、コンサートのギャラ750万円+所持金200万円を入れたポシェットを新幹線の中で寝ている隙に取られたという、少しマヌケなネタだけ。“渡り鳥”に関しては、ロケ先で暴徒化したファンから必死で逃げたとか、暮れの忘年会では「石原一家(裕次郎組)」と「渡り鳥一家」が熱海の海側・山側に分かれて芸者を取りっこしたとか、その程度のこと。特に後半は“痛快な話”どころか、芸能界と平成の時代に対する愚痴&説教のオンパレード……ひょっとしてコレは73歳のアキラ流《好々爺・拒否宣言》なのか?とでも思わなければ、「マイトガイ」の名が泣くようなインタビュー本だが(一体、金子達仁はアキラの何を書きたかったのだろう)、やはり映画を語らせたら一級品の味わい。名匠・黒澤明と三船敏郎について語った箇所だけはトップスターらしい視線と経験、そして映画への愛着が感じられて面白かった。

ということで、かなり長くなるがその部分をご紹介。

「黒澤さんみたいに画面の被写体を生かしていく撮り方のできる人はそうそういないよ。なにより構図が素晴らしい……スケールを出す技術はアメリカにあっても、その中で動く被写体の色を芸術的に出したり、魅力を引っ張り出すいう撮り方ができるのは、日本という狭いエリアで家内工業をコツコツやってきた黒澤さんならではだと思う。日本の深さや広さというのは、すでにあの人が目一杯出し切っちゃったね」

「壮大な絵を撮るという点では、ジョン・フォードに軍配があがる。“荒野ってすげえな”っていう、あの乾きや埃は日本人には撮れないね。粘りきってすごさが出るのが黒澤明の世界だから、やっぱり砂漠を開拓した人間と、田畑を耕してビショビショの足元を這いつくばって生きてきた東洋人とは違うってことだな」

「映画という特別な世界に入ったときだけ異色な感覚を発揮する才能があったんだろうね。だって、普段喋ってるときは何もない人だったから。会ったら『こんにちは。元気でやってる?』なんつって話はしたけど、鬼の黒澤の面影なんて少しもない。ハハンって笑ってるだけ。それでも、あの目は特別だったな。ああいう人は個人的な感情を達観しているような目をしてるんだよね。なんというか、自分から見える場所だけじゃなくて全体を見ながらすでにデッサンが終わってる感じ。黒澤さんは常に風景画の中に入っていて、瞬間的に『後は色刷りだけ』っていう状態に仕上げちゃうんだと思う」

「黒澤さんは、一辺倒の芝居しかできなかった三船さんの迫力を買った。誤解されるのを覚悟で言わせてもらうと、大根ということを見越した上で、三船さんを黒澤明流に作り上げたんだな。三船さんは黒澤さんの汁の色が出てくるようないい大根だったんだよ。俺らみたいな灰汁の強い役者は初めっからお呼びじゃない」

※小林旭の代名詞「マイトガイ」は、「ダイナマイトのような男」という意味。なぜか漢字で書くと「旋風児」。

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