2012/01/26

過去は未来に通じている……映画『サラの鍵』


ホロコーストを題材にした映画は数多く観てきたが、その中でも『サラの鍵』は長く記憶に残るであろう作品の一つ。戦争がもたらした傷跡を、ミステリー・タッチで現代に生きる人々の問題として浮かび上がらせた秀作だと思う。

物語の背景は、1942年に起きたナチス占領下でのパリ警察によるユダヤ人一斉検挙事件(通称、ヴェルディブ事件)。両親が一時的な監禁場所であるヴェルディブ(冬季競輪場)からアウシュヴィッツへ送られる中、大切な「鍵」を握ったまま一人取り残された幼い少女サラ(この子役が秀逸!)の苛酷な運命と、ふとした偶然で戦後の彼女の軌跡を探り始めた女性ジャーナリスト「ジュリア」の人生が併行して描かれる。

「過去は未来に通じている」……過去の無垢な視線と現代の孤独な視線を交互に捉えながら、“真実を知ることが贖罪感からの解放につながる”ことを静かに訴える映像の力。その確かな作品力に導かれて迎えるラストシーンは、苦悩する魂の浄化を促す<赦し>の感情に包まれるようで正に胸熱、危うく涙を落すところだった。

それにしても、ジャック・シラク(1995年に“ヴェルディブ事件”に対する謝罪演説を行った当時のフランス大統領。映画の中でもその演説の様子が取り入れられている)のような尊大な保守政治家ですら、呼び起こしたくない記憶を呼び起こし、国家と国民の誤りを認め謝罪する誠実さを持っているフランスという国の懐の深さは羨ましくさえ思う。「自虐史観」などとあらぬ非難や妨害を受けることなくこういう映画が作れる国を、本当の意味で先進的な文化国家と呼ぶのではないだろうか……。







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