2023/01/23

2022面白本ベスト5


ミレニアム1~3(スティ―グ・ラーソン著、ヘレンハルメ美穂 岩澤雅利訳/ハヤカワ文庫)

亡き友が生前に「衝撃が走りました。これほどの本は今まで出会ったことがない」と、強く薦めてくれた北欧ミステリーの金字塔的名作(1「ドラゴンタトゥーの女」、2「火と戯れる女」、3「眠れる女と狂卓の騎士」)。読み始めたら止まらない!緻密なストーリー展開は見事の一言、何より登場人物のキャラターがしっかり作りこまれているのが素晴らしい。(特に、社会適応能力、共感性・協調性の欠如、精神病質的・反社会行動等、「ジェンダーなんて、くそくらえ!」とばかりに負の個性を満載して登場するリスベット・サランデルの圧倒的な存在感)

※作者スティ―グ・ラーソンは3部作を一気に書き上げた後、シリーズ1の発売前、200411月に急逝。シリーズ4からは別の作家が書いている。(ラーソンの構想を引き継いだというシリーズ4も読んだが、やはり1~3ほどの魅力はなし。登場人物は同じでも、別の本として読むべきもの)


卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッド・ベニオフ著、田川俊樹訳/ハヤカワ文庫)

人類史上最も死者を出した独ソ戦(レニングラード包囲戦)の最中、(大佐の娘の結婚式のために)卵を 12個調達せよ!という理不尽なミッションを受けた17歳の少年レフと脱走兵コーリャの、スリルあり、ユーモアあり、ラブあり(時々下ネタあり)の冒険譚(死の匂いが至る所で漂う中、人生、性、家族、文学を語り合う二人の姿…その不思議なほどの明るさが痛ましい)。戦時下の青春を描きつつ戦争のばかばかしさを痛烈に皮肉った良作。


ぼくらの戦争なんだぜ(高橋源一郎/朝日新書)

TV「徹子の部屋」で、徹子さんに「来年はどんな年になりますかね」と問われたタモリさんが「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えたそうだが、その話を聞いて、すぐに思い浮かべたのが、この本。

作家・高橋源一郎は「民主主義」とか「天皇」とか「神」といった「大きなことば」ではなく、戦時下における個人的な経験を「大きなことば」を使わずに書き記したものから“大切な示唆”を得るべく、各国の歴史教科書、戦争小説、無名詩人の戦中詩、ロシア文学、林芙美子、向田邦子、太宰治の小説などを丁寧にひも解いていく。そして今の日本に、また私たち自身に必要な「小さなことば」とは何か? その言葉(小さな声)によって語られる「(彼らの物語ではない)ぼくらの物語」を作りはじめる必要性・方向性を指し示しながら、長い思索の旅の始まりのような本書を締めくくる。

(というわけで、この本を、私自身は源一郎さん流「君たちはどう生きるか」と受け取ったが、ありもしない「台湾有事」とか、憲法に反する「敵基地攻撃能力」とか、不穏なことばが飛び交いだした今こそ、読まれるべき一冊だと思う)


嘘の木(フランシス・ハーディング著、児玉敦子訳/創元推理文庫)

舞台は19世紀後半(ヴィクトリア朝)のイギリス。男尊女卑の世の中で、自分の進路を「博物学」に定めた14歳の少女フェイスの物語……当時の暗い世相を背景に、尊敬する父の死、その犯人捜しの謎解きと「人の嘘を食べて成長する」という“嘘の木”の幻想が交錯しながら、フェイスの心の葛藤と共に描かれる。(あまり体験したことのない、そのダークかつミステリアスな展開に戸惑いながらも、気が付けばどっぷりハマっている不思議な魅力を持つ一冊。とりわけ、厳しい社会的制約のもと、自分の強みを武器に、強かに生き抜いていく女性たちの姿が印象的だった。ちなみに「コスタ賞」の児童書部門の大賞を受賞した作品ということだが、これが児童書?と驚くほど、少年少女が読むにはかなり全体トーンが暗く重い内容……14歳の少女の成長物語と捉えて頷くべきなのだろうか) 


その女アレックス(ピエール・ルメートル著、橘明美訳/文春文庫)

これも亡き友人が強く薦めてくれた一冊。事の発端は女性誘拐事件、当然、被害者は善人で、犯人は悪人。と思いきや、えーっ!?…という驚きの展開(その驚きが1度、2度では終わらない)。まあ、これ以上はちょっと言わない方がいいと思うが、正に「驚愕」という言葉がふさわしい凄いミステリー小説だった。(とにかく、読めば分かる面白さ。暴力描写が苦手な人には薦めにくいが、私的には「読まずに死ねるか」レベルの作品)

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