2014/04/19

一冊丸ごとオシムの言葉

W杯まで、あと二か月を切ったところで、久しぶりにサッカー絡みの話でも…

昨日、村上春樹の新作短編集『女のいない男たち』(春樹っぽくないタイトルだけど)が出たというので、散歩がてら駅前のTSUTAYAへ。
現在的に『里山資本主義』(藻谷浩介/NHK広島取材班)、『昭和の犬』(姫野カオルコ)など、読みかけの本も幾つかあるが、とりあえず最優先で読もうと決めて購入。そのついでにスポーツ雑誌でも立ち読みしようとコーナーを覗いたら、いきなり、平積みになったムック本の表紙を飾るオシムさんの厳しい顔が目に飛び込んできた。

Number PLUS『イビチャ・オシム 日本サッカーに告ぐ2014』(1000円)……即、買わなきゃ!と手に取り、レジにとんぼ返り。そのまま急ぎ足で家に帰り、里山も昭和も春樹も忘れて読み耽ってしまった。

巻頭は、最新ロングインタビュー「野心を持って、驚きを作り出せ」……日本から遠く離れた地にいても、常に日本サッカーの現状を気にかけ、注視し続けてくれているのがよく分かる。
日本代表に関しては、ここまでのプロセスを「全般的に悪くない」「昨年秋のヨーロッパ遠征でも、オランダとベルギー相手に自分たちが決してアウトサイダーでないことを証明した。これ以上何を望むというのか」と評価したうえで、新戦力として「速くて機動力があり、勇気をもって戦いを挑んでいける」若手(斉藤、大迫、工藤など)の台頭を期待している。一方、Jリーグで得点を重ねている大久保の代表入りについては「大久保はたしかにある時期、日本で最高のストライカーだった。だがそのころから、もっと高いレベルで何ができるか疑問だった。実際、ヨーロッパで彼は実績を残してはいない。得点王を獲得できたのもJリーグだからではないのか。その点で彼は抜け目なく、日本のチームや選手たちのことをよく分かっている。では国際試合で、岡崎と一緒にプレーしたら、いったいどれだけできるのか……」と懐疑的だ。やはりチームの成長のための「変化」をもたらす“サプライズ枠”に入れるべきは、若手の選手(斉藤、塩谷、工藤、原口、南野など)であり、Jリーグで活躍中のベテランFWDFではないということだろうか。(大久保だけじゃなく、中沢も闘莉王も“行く気満々”のようだが、今のパフォーマンスでは……)

また、代表の攻撃面での核となる海外組の4人(香川、本田、岡崎、長友)については、こんなコメント。まず香川には「現在の香川を、イングランドのパフォーマンスで評価してはならない。というのもプレミアの試合は、他のどこよりも厳しいからだ。彼の問題はフィジカルとボディ・コンタクトだ。それにさえ慣れれば、香川には小さなスペースでもプレーができる高いスキルがある。速くて正確な判断力と、他の誰も及ばない卓越した想像力がある。もっと長い目で彼を見るべきだ」と、メディアとファンの懸念を鎮めつつエールを送り、イタリアのプレースピードに適応しかねていた本田には「日本代表において本田が、コレクティブな面(組織的なプレイの面)で進歩を見せたように、イタリアの速さにもやがて慣れていくだろう。もしできないのであれば、彼はそれまでの選手ということだが、私は決して心配していない」と、彼の強い野心と不断の努力、そしてどんな相手も恐れず戦いを挑む勇気に厚い信頼を置いている。

崎に関しても「彼はゴール前で危険だ。右サイドに限らず左でも中央でも、3人目のセンター・フォワードとしてもプレーができるだろう。それだけアグレッシブで、相手ディフェンスを悩ませる存在だ。スピードがあり戦いでも負けない」と高く評価。
同様に長友にも「彼は何でもできる主婦のようなものだ(笑)。ピッチでも縦横に走り回る。相手は彼の運動量について行けず、最後は脚を壊してしまう。その積極性は賞賛に値する。サイドで常にひとり多い状況が生まれるのは、日本の大きな武器で相手は対処が難しい。スピードがあるうえに、予測がつきにくいからだ。それに彼は両脚のシュートも持っているし、パスの能力も高い。戦術的にも常にサイドを塞ぎ、相手にクロスを上げさせない。本当に進歩した。たぶんその進歩の度合いは、長谷部よりも大きいだろう。根本的な運動量が違う。インテルでプレーしているのは偶然などではない」と賛辞を惜しまない。

それに引きかえ、日本の弱点である守備陣については「攻撃にはそれだけの武器があるのに、守備がさほどでもないのがかえすがえすも残念だ。だが、ないものを探しても仕方がない。既存の選手たちで何とかしていくべきだ」とシビアかつ冷静な目を向け、「今日ではディフェンダーといえどもプレーが求められる。守るだけでなく、勇気をもってボールをコントロールすることを」「あらゆる技術的な進歩を追求していくべきだ」と助言しながら、つまらないミスによる失点や、攻撃のリズムまで切断する緩慢なプレーが目立つディフェンス陣(特に川島と吉田か?)を厳しく叱咤している。

ただそれでも、インタビューの最後では、「グループCの中では、どこが最も強いと思いますか?」という問いに「私は日本に少しアドバンテージがあると思う。日本人のメンタリティだ」と答えるオシム……「優越感を抱きながら生き続けるのは簡単ではない」と独特の言い回しで、FIFAランキング上位の対戦国(特にコートジボアール)が抱く「日本が自分たちにかなうはずがない」という傲慢さこそ日本が歓迎すべきことだと説く。そして何とも心強い言葉で締めくくってくれた。

(本田や長友同様)「野心を持てと私も言いたい」「日本というチームを知らぬものはもはや誰もいないし、何人かの選手は高い評価も得ている。野心に溢れ、可能性を秘めた選手が数多くいることは、今では世界に知られている」「日本には若くて優れた選手がたくさんいる。だからこそ信じて戦うべきだ」
何だかこっちまで武者震いしそうなメッセージだが、オシムさんがこう言うのだから、ファンである私(たち)が日本代表の躍進を信じないわけにはいかない。まずは、512日の代表メンバー発表に注目したい。

で、今日の〆に、このムックで一番印象に残った記事「日本と日本人を救った力(3.11から1年)」と題されたメッセージの一部をご紹介。その中でオシムは「なでしこジャパン」のW杯優勝に関連してこう述べている。

《日本で本物の生活を送り、自己表現ができる本物の人生を歩んでいるのは、仕事と金に囚われすぎて疲弊し、自分を表現する余裕も機会も見失った男たちではなく、実は女性のほうであった》《なでしこがそれを証明した。精神的に望ましい環境さえ得られれば、何でもできる。忍耐強く努力して、厳しい状況の中でも、ストレスやプレッシャーを男子よりもよくコントロールできる。なでしこの勝利は、日本社会に対する女性の勝利でもあった》《他方でそれは、男子にも望ましい勝利だった。女子にあれだけのことができたのだから、どうして男子にできないのかという認識が、人々の間に生まれたからだ。もしかすると男子は、女子に対して、すでにある種のコンプレックスを抱いていたのかもしれない。無意識のうちに女子は何でもできると感じ、ならば男子は、そこまで真剣にやる必要はないと。だが、男子がコンプレックスを抱く間に、女子は現実にワールドカップ優勝を果たした。それはストレスやプレッシャー、生きることの難しさなど、日本が抱えるすべての問題に対する勝利であり、それこそ彼女たちが、日本人に与えた勇気の実態でもあった》

では、また来週。

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