2013/01/28

「人間が滅びない秘密」とは?


去年の暮れ、意図せず手に入れた著者のサイン本『歓喜の仔』。(年内読了をめざしていたが、思ったように頭が働かず年を越してしまった)

表紙を開くと著者名「天童荒太」の右横に、一言「初心」と書いてある。

初心……多分それはこの長編小説に込めたストレートな思い。
 
真摯に死者と向き合うあまり苦行僧にでもなってしまったのだろうか?と首を傾げ、そのストイックな表現世界に息苦しさを感じ途中で読むのを止めた前作『悼む人』とは違って、人の心の荒地に想像力の網を張りすべての哀しみを掬い取るように、切なく重く生きる意味を追い求める天童荒太の世界が戻ってくるような予感がした。


物語の主人公は、誠、正二、香の三兄弟。『永遠の仔』同様、親の愛が薄く、平和な社会の幸福から見放された子供たち……(父は借金を残して突然失踪、母は大怪我をして植物状態)

高校を辞めた長男・誠は、親の借金返済のためヤクザから覚せい剤の「アジツケ」を請け負わされながら、昼夜の労働で家計を支えている。学校でいじめにあっている次男・正二は母の介護を一手に担い、“死者が視える”妹の香は複雑な事情を抱えた家族の子供が集う幼稚園に通っている。

もう、その設定だけで十分に重たいのだが、そんな子供たちの過酷な日々を追いながら、さらに作者は、「誠」の空想世界に戦火の中で生きる紛争地域の少年「リート」を作り上げる。まるで、平和に見える私たちの世界と、戦火に喘ぐ子供たちの世界が隣り合わせであるかのように……

そして、同時進行する「パラレルワールド」の二人、誠とリートの心の交信にテーマを託し “はびこる悪が勝利する世界”で「なぜ人間は滅びないのか」という自問に答えるべく渾身のペンを走らせる。

その疾走の果てに、子供たちが悪と苦しみから解放される“歓喜”の結末は描かれるのだろうか……と、祈るように迎えたラストシーンは、救いと切なさの合わせ技一本。

「人間が滅びない秘密」を知った子供たちが高らかに歌う“第九(歓喜の歌)”を胸の奥で聴きながら、なんとも言えぬ不思議な爽快感に浸ってしまった。
 
 
 

2013/01/22

ELVISな日曜日


一昨日は、招待券を手に入れたツレのお供で、エルヴィス映画祭『TRIBUTE TO ELVIS 2013』を観に新橋・ヤクルトホールへ。

毎年恒例となっているイベントらしいが、2本のフィルムの合間にトークショーを交えた4時間半の長丁場(開演12時、終演1630分)にも関わらず、会場は私以上のオールド・ファンでほぼ満席……今年は世界同時中継により15億人が見たと言われる伝説的ハワイ・ライブ「フロム・アロハ・ハワイ」(19731140時・日本時間1930分、ハワイのホノルル・インターナショナル・センターで行われたチャリティコンサート)の40周年ということで、そのフィルムも懐かしの映画『GIブルース』(1960年製作)と共に上映された。

当然、私の目当てもテレビで見た記憶が微かに残るそのライブだったが、上映開始と同時に40年の時を感じさせない圧倒的なパフォーマンスに目も耳も奪われ、胸は高鳴るばかり……「シー・シー・ライダー」を皮切りに、シナトラの「マイ・ウェイ」、ビートルズの「サムシング」、シャンソンの名曲・ジルベール・ベコーの「そして今は」、さらに「愛さずにはいられない」「ハウンド・ドッグ」「ジョニー・B・グッド」などなど。その大半がカバー曲だが、エルヴィスが歌えば全てエルヴィスのもの。鳥肌が立つような熱唱に酔わされながら、ラストに流れた感涙モノの名曲「アメリカの祈り」でノックアウト。目にうっすらと涙を浮かべ“グローリ、グローリ、ハレルヤ♪”とリフレインするエルヴィスの姿に、ジーンと胸が熱くなったまま終演を迎えた。

というわけで、大満足の「エルヴィス映画祭」だったが、このイベントのもう一つのお楽しみは、自他ともに認める熱狂的エルヴィス・ファンの音楽評論家・湯川れい子さんのトークショー。今回のゲストは、元歌手で現在エイベックスエンタテインメント会長の飯田久彦さん……(う~ん、懐かしい名前。60年代に「ルイジアナ・ママ」で一世を風靡した飯田久彦が、今やエイベックスの会長さん!)
71歳という年齢にはとても思えない若々しい容姿と声(74歳になられた湯川さんの声も若く美しいが)、そして辣腕音楽プロデューサーらしからぬ慎ましい態度に感心しながら興味深い二人の話に聞き入った。

その中で、特に面白かったのは古くから飯田さんと親交のあるサザンの桑田くん絡みの話……サザンのデビュー曲『勝手にシンドバッド』は、当時流行っていた沢田研二の『勝手にしやがれ』と、飯田さんが発掘したピンクレディーの『渚のシンドバッド』を合わせたタイトル。『チャコの海岸物語』の“チャコ”は、「飯田久彦」の愛称を拝借したものだったとのこと(ちなみに歌詞中の “ミコ”は弘田三枝子、“ピーナッツ”はザ・ピーナッツ)。

そんな桑田くんらしいシャレとセンス&飯田さんの人柄が感じられる楽しいエピソードに、ひとしきり会場が沸いた後、嫌がり固辞する彼を、湯川さん、MCのビリー諸川さん、そして会場が一体となって引っ張り出し歌の催促……ようやく観念して歌った「ルイジアナ・ママ」が流石の一言!

 
あの娘は ルイジアナ・ママ

やってきたのはニューオリンズ

髪は金色 目は青く

ほんものだよ ディキシークイーン

マイ ルイジアナ・ママ

フロム ニューオリンズ

 
昔より数段カッコいいチャコさんのリズムに乗せられ、私も小さな声で歌ったが、最後の一節……流行っていた頃は、“ロニオリン”としか聞こえず、どういう意味かも分からないまま口ずさんでいたけど、“from New Orleans”だったんだね~

 

2013/01/16

遠い日の記憶


それは、確か18歳の夏。

黒のジーンズ&Tシャツ、黒メガネに下駄という不穏ないでたちで、当時、赤坂にあった映画製作プロダクション「創造社」をアポなしで訪ねた私は、ドア越しに応対してくれた30前後の男性(名前は忘れたが、Mさんということで)にいきなり「次に作る映画の製作スタッフに加えて欲しくてお願いに来ました」と申し出た。

いま思えば「バカか、お前は」と自分を罵るほかない無謀かつ失礼な話だが、日常と非日常が日々街中に混在していたような時代、何故か彼は私の妙な勢いに興味を持ったらしく「多少時間はとれるので、とりあえず中で伺いましょう」と、黒いソファが数点置かれている応接室(といっても部屋らしい部屋は、その一室だけ)に招き入れてくれた。

そこでも図々しく、勧められもしないのに一番居心地の良さそうなソファの真ん中に腰を下ろした私に、Mさんは困惑気味に「その席は、ちょっとマズイなあ」と一言……どうやらそこは誰も座ってはいけない“監督さん”の定席。なのに礼儀知らずの私は「座る場所に拘るなんて権力と闘う人らしくないですね」と、生意気なことを呟いて大儀そうに席を移動(ホント、ムカつくガキだ!)、それでも彼は優しく微笑んで、かれこれ2時間近く好きな作品の話を交えながら「映画を武器に権力と闘いたい、社会を変えたい」などと青臭い熱弁をふるう無礼な若者の話に熱心に耳を傾けてくれた。(その間、応接室に立ち寄った今は亡き俳優の渡辺文雄さん、小山明子さんに「スタッフ希望の方です」と紹介されながら)

で、物静かに見えたMさんも見かけによらず熱い人らしく「キミの話は面白いなあ」と楽しげに目を合わせ、「ゴッホの自画像を観た瞬間、激しい衝撃を受け自分の人生が変わった」などと同世代の友人のように自分の体験を語り、最後に「今度、沖縄を舞台にした映画を撮るから、それに参加できるよう監督に頼んでみます」と約束してくれた。

もちろん私は、喜び勇んで「創造社」を後にしたのだが、後日Mさんから「かなり力を入れて監督にお願いしたけど、既にスタッフが決定していて全く空きがないそうです。申し訳ない」という連絡があり、Mさんの取り計らいに感謝の言葉を返しながら若き日の無謀なチャレンジは終幕を迎えた。(流れる月日と共に、映画製作への拙い夢も道も消滅)

以来、その“監督”の映画を観たのは、スタッフとして参加するはずだった『夏の妹』と『戦場のメリー・クリスマス』だけ。(それ以前は、『青春残酷物語』、『日本春歌考』、『儀式』など……まさにアヴァンギャルド。鮮烈だったなあ)
『朝まで生テレビ』にコメンテーターとして出るようになってからは、その存在にすらほとんど興味を失ってしまった。

でも、私にとっては今も忘れられない「創造社」の設立者であり、日本のヌーベルバーグの旗手として時代の先端を果敢に駆け抜けた映画監督「大島渚」……長い闘病生活の果ての死去に際し、静かにそのご冥福を祈りたい。

2013/01/15

初雪・初映画

昨日は成人の日。20歳を祝う晴れ着姿の人たちには酷な天気だったが、家でレンタルDVDやテレビを見ている分には悪くない風情。降り積もる雪を視界の端に置きながら、午後はティム・バートン&ジョニー・デップの『ダーク・シャドウ』を観て過ごした。(ダークな画面と白い景色のコントラストは趣的に良かったが、映画はイマイチ……ブラックユーモア&ゴシック・テイストに彩られた名コンビの作品もそろそろ食傷気味かも)

で、夜は『ハンチョウ』→『ビブリア古書堂の事件手帖』と、テレビドラマの梯子。安うまワインの酔いがまわって“ビブリア”の途中で意識が朦朧としてしまったが、日曜スタートの『dinner』も含め、新ドラマはけっこう楽しめそうな気がする。(とりあえず『dinner』は、「サカナクション」の主題歌「ミュージック」がイイ感じ)

さて、「初映画」……

身も心も元気にスタートしたはずの2013年だったが、先週半ばから週末にかけて風邪気味でクシャミ連発、鼻水ダラ~、腹の調子も悪かった。おまけに、おみくじの「大吉」効果も空しく、昨年末に参加したタレントもののポスター・コンペの結果がアウト……あまり気分がすぐれない一週間を過ごしたが、所詮、起用した女性タレントの評価で決まるお役所絡みのギャンブル仕事、制作レベルの問題ではないので、さほど凹むこともなく早々に気持ちをリセット。連休に入り体調も戻ったので、日曜はフランスのアクション映画『96時間リベンジ』(監督オリビエ・メガトン)を観にTジョイ大泉へ。

以前に観た『96時間』(原題『Taken』)の続編だが、作品の舞台は夜中のパリから白昼のイスタンブールへ移行。そのコントラストの妙と前作同様のスリリングな展開&怒涛のアクション連打に目を奪われながら、リーアム・ニーソン演じる元CIA工作員「ブライアン・ミルズ」の“無双オヤジ”ぶりを堪能した1時間半……“96時間リベンジ”というタイトルにも関わらず(原題は『Taken2』)、事が起きたその日の昼間に全てが終わるストーリーだが、そのスピード感が醸し出す迫真のスリルは、さすがリュック・ベッソン(製作&脚本)、抜かりなしといった感じ。前作に比して特別な新味はないが、年の初めにふさわしく一本筋の通った活劇を楽しませてもらった。

2013/01/07

紅白・初詣・新年会


ソコソコ楽しめた大晦日の「紅白」、私の“高得点”は、斉藤和義、矢沢永吉、そして復興ソング「花は咲く」。“好印象”は、福山雅治、きゃりーぱみゅぱみゅ、プリプリ、MISIA、ファンモン、いきものがかり等……で、森進一の顔に“どっきり”、和田アキ子の歌に“がっかり”(一人、部屋で歌って泣くべし!)、美輪明宏のエンヤコーラに“びっくり”……

という感じで幕が閉じ、「ゆく年くる年」を見ながら年も明け、初詣は、3年連続で近くの「東伏見稲荷神社」へ。

それほど大きな神社でもないが、元旦の午後らしく長蛇の列が青梅街道沿いに伸びており、参拝までに要した時間は約40分。シンプルに自分と家族と仲間の「健康」だけを祈願した後、そこで引いたおみくじは10数年ぶりの「大吉」……その文面も去年の「末吉」とは雲泥の差で、「尽くした労は、すべて報われる」という趣旨の有難い文言ほか、良いことばかりが書き連ねてあった。当然、悪い気はしないが、「大吉は凶に還る」ということわざもあるし、“大のオッサン”がおみくじごときで浮かれているわけにはいかない。とにかく自分の力を尽くすのみ。と改めて晴天の寒空を見上げて誓った次第。

で、飲んで食ってテレビ三昧の3が日が過ぎ、4日は田無駅前の「土間土間」で今年初の新年会。例年通りのメンバー(男1人、女3人)が集い新しい年を楽しく祝ったが、とりあえずの話題は我が家のアイドル「黒ネコ・ジャック」……安曇野在住のエキセントリックかつエモーショナルな面白女MOTOMIさんが、ジャック&MITSURU の“漫画化”を企画してくれているようで、そのスケッチを見せてもらいながら、「これこれ、こんな感じ!」と大盛り上がり。春先に、私の手料理でもてなす“ジャック見学・撮影会”を実施することも決まった。

年が変わっても、やはり持つべきものは変わらぬ仲間……大いに話して笑って、“仕事も私事も楽しく”という年間テーマに向かって良いスタートが切れた気がする年初め。

新しく始まったNHKの大河ドラマ『八重の桜』も期待できそうだし(キャスティングもオープニング映像もグー!)、朝ドラ『純と愛』も余貴美子の登場で新展開(相変わらず学習力の足らない純が不安だが)……今朝は、「ザ・タイガース」再結成という嬉しいニュースも飛び込んできた。

 
「おもしろき こともなき世に(を) おもしろく」。

先人の名句に倣って、さあ、また今日から、遠い世界と遠い未来を夢想しながら、身近な世界と身近な未来を見つめて、元気に歩いていきますか。

 では、皆様、今年もコトノハ舎ブログを、宜しくお願いいたします。