2012/06/20

「途上にて」


台風4号が凄まじい勢いで通り過ぎたと思ったら、早くも5号が接近中らしい(おまけに今日は異様に蒸し暑い)……今週の土曜日には高校時代の仲間が楽しみにしているクラス会もあるし、この時期“快晴”は望めなくても、せめて梅雨らしい天気の範囲でおさまってほしいもの。

さて、そんな大荒れの昨日、私にしては珍しく朝7時半に家を出た。行く先は東急東横線の綱島駅……クライアントから「新製品のヒアリングをしたいので、10時に工場の方へ来てほしい」との要請があったためだが、遠い昔その沿線の安アパート(4畳半一間で1万円)で暮らしていたこともあり、たまに東横線に乗ると懐かしいような切ないような妙な気分に陥ってしまうのが常。昨日も、綱島駅に着くまでボンヤリと各駅停車の風景を眺めながら、ただ貧しかった頃の自分をちょっぴり思いだしてしまった。(で、肝心の仕事の打合せはいたって順調に1時間少々で終了。帰路の途中、日吉に住むデザイナーのH君に連れられ日吉駅近くの洋食屋・プクプク亭で満足の日替わりランチ……帰りがけに渋谷でアルモドバルの新作『私が、生きる肌』を観ようと思ったが、雲行きが怪しいので断念)

そんな次第だから当然、沿線の駅にもいくつか忘れがたい思い出が残っている。例えば、あまりに雰囲気が悪く3時間でウェーターのバイトを辞めた忌まわしい高級ステーキハウスがあった「学芸大学」、政治・文学・南沙織を論じながら友人のアパートで飲み明かした「自由が丘」、度々通う定食屋でテーブルにある“ゴマ塩”目当てにライスだけを注文し、店の人に「えっ?」と二度見された「武蔵小杉」などなど……その中でも、最も鮮烈な記憶として残っているのは「新丸子」。今はどうなっているか知らないが、昔は駅の近くに小さなピンク映画館があった(もちろん、外観がピンクなのではない)。上映作はエロ・オンリー、しかも如何にもアレな場末感を醸し出しており、一駅先の武蔵小杉に住んでいた私でもそこに入ったのは一度きり(なぜ入ったの?と聞かれても困りますが)。だが、その一度が思わぬ名作との出会いになったのだから、人生は摩訶不思議。エロも場末も馬鹿にしたものではない。

その“名作”の監督はピンク映画界の伝説・中村幻児、タイトルは『○○○○』……だったと思うが、明確に覚えていないので伏せ字のまま(まあ、分かっていても書きにくいけど)。でも、ラストシーンは今でもはっきりと覚えている。なぜなら、そのシーンに心を射抜かれ、観客わずか2、3名の館内で不覚にも一人ボロ泣きしてしまったからだ。(それも、若さ故か)

映画の大まかなストーリーこんな感じ……(遠い記憶の糸を手繰りつつなので、実際とはかなり異なるかもしれないが)

主人公は集団就職で上京した純朴な青年。だが、都会にも仕事場にも馴染めず焦燥感にかられ、自分から逃げるように盛り場に入り浸り徐々に“ドロップアウト”。夢も希望も失ったまま水商売の世界に堕ちていく中で、彼は一人の清純そうな女性に偶然出会い見惚れる。それは腐りかけた都会で見つけた唯一の「光」。青年は、彼女への一方的な思慕を心の拠り所に「前向きに生きる意欲」を取り戻そうとするのだが、その女性の正体は怪しい実業家?に囲われる愛人。それを知った彼は……というような内容(だったと思う)

で、ラストシーンは、彼女に対する幻想&純粋な思いを打ち砕かれた青年が、広い野原を逃げ惑う彼女を捉え、絶望感をぶつけるように泣き叫びながら犯す(スミマセン、なんせエロ映画なもので)……というもの。逃げる女性と追いかける青年のスローモーション映像に重なって流れたのは「みなみらんぼう」の「途上にて」。その曲に促され一気に溢れ出る涙。後にも先にも、エロ映画を観ながら泣いたのは、この作品だけだ。

というわけで、昨日から頭の中で流れている歌「途上にて」……



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