2026/01/07

勝手にコトノハ映画賞④(邦画)


●最優秀作品賞

『敵』(監督:吉田大八、主演:長塚京三)

※筒井康隆の同名小説を『桐島、部活やめるってよ』等の吉田大八監督が映画化。


主人公は、仏文学者で大学教授の職をリタイアし、祖父の代から続く日本家屋に一人暮らす渡辺儀助77歳(妻とは死別)……と書くと、寂しい独居老人の姿を思い浮かべるだろうが、質実剛健という言葉を久しぶりに思い出すほどの整った暮らしぶり。加えて料理は上手いし、蓄えもまあまあ豊富。孤独とも無縁そうで、時には友人と酒を酌み交わし、教え子を招いてディナーも振る舞う。正にイケおじならぬイケ爺といった風情だったが、物語中盤、書斎のパソコン画面に突然「敵がやって来る」という不穏なメッセージが流れた辺りから、整った”雰囲気は一変。普段はインテリらしいプライドの高さによって抑え込まれていた煩悩が、彼の妄想の中で顕在化、哀しくも可笑しい“夢と妄想の人”儀助さんの余生が描かれる……という「さすが筒井康隆!(&吉田大作)」的展開。その筋立ての面白さに拍手し(もちろん心の中で)、ほど良いユーモアに包まれながら、現世の煩いや執着から離れて「穏やかな死」を迎えることの難しさを、改めて思い知らされる作品だった。(というわけで、日本アカデミー賞は恐らく『国宝』が選ばれるだろうが、私的には十分匹敵できる傑作だと思う。儀助を演じた長塚京三はもとより、儀助の現実と妄想を行き来する3人の女性「瀧内公美、河合優実、黒沢あすか」も実に個性的かつ魅力的。とりわけ瀧内公美)

 

●優秀作品賞

TOKYOタクシー』(監督:山田洋次、主演:木村拓哉、倍賞千恵子)

本作が91本目の監督作となる山田洋次が、倍賞千恵子と木村拓哉を主演に迎え、2022年製作のフランス映画「パリタクシー」を原作に描いたヒューマンドラマ。

監督・山田洋次、主演・木村拓哉……ということでイマイチ食指が動かず「さて、どうしようかな?」と少し観るのをためらった映画だったが、やはり変な先入観は禁物。      御年94歳、山田洋次監督の集大成(キムタク運転のタクシーが最初に“すみれさん”倍賞千恵子を乗せる場所は「葛飾柴又・帝釈天」…言わずと知れた「寅さん」の町)とでも言うべき、監督自身の使命感と映画愛に満ちた傑作。年の瀬を飾るにふさわしい絶品の味わいだった。

で、この作品のテーマは何かと言うと、ずばり「戦後史の継承」(忘れちゃいけない「昭和」、ここにあり!)……東京大空襲から戦後の復興、そして高度経済成長期までの東京及び日本(19451960年代)を、映画を通して「若い世代」に伝えること。そういう意味では「違う世代の人間が車に乗って旅をする」珠玉のロードムービー『幸せの黄色いハンカチ』と同じ構成だが、「新しい戦前」とも言われるこの国の今、「伝えたい思い」は本作の方がより強く感じた。(戦後復興の只中で生まれた私も、より若い世代の人たちに観て欲しいと思う)


●最優秀ドキュメンタリー作品賞

『黒川の女たち』(監督:松原文枝/2025年製作)


戦時下の満州で黒川開拓団の女性たちに起きた「接待」という名の性暴力の実態に迫ったドキュメンタリー。

193040年代に日本政府の国策のもと実施された満蒙開拓により、日本各地から中国・満州の地に渡った満蒙開拓団。日本の敗戦が濃厚になるなか、19458月にソ連軍が満州に侵攻し、開拓団の人々は過酷な状況に追い込まれた。岐阜県から渡った黒川開拓団の人々は生きて日本に帰るため、数えで18歳以上の15人の女性を性の相手として差し出すことで、敵であるソ連軍に助けを求めた。帰国後、女性たちを待ち受けていたのは差別と偏見の目だった。心身ともに傷を負った彼女たちの声はかき消され、この事実は長年にわたり伏せられることになる。しかし戦争から約70年が経った2013年、黒川の女性たちは手を携え、幾重にも重なる加害の事実を公の場で語りはじめた》(映画.comより)

戦争は人を狂わせる。改めてそう思い知らされる作品。被害の事実を語り始めた女性たちの勇気もさることながら、戦後に生まれた「黒川開拓団」の人々のご遺族・ご子息の真摯な姿勢と確かな認識。とりわけ「被害」の歴史と共に「加害」の事実もきちんと刻むことを明言し、碑文の建立に力を注いだ遺族会の4代目会長の姿には、頭が下がる思いだった(その正しい歴史認識と真っ当な精神が、この映画の価値をより高めているように思う)。また、同じく遺族会の男性(犠牲になった女性の息子さん)の「未だあの戦争の総括を誰もしていない」という言葉も胸に残る。(そう、あの戦争の責任を誰もとっていないまま戦後が始まったのだ。私たちはそのことを忘れてはいけない)

もう一つ、映画の中で被害女性の一人が、インタビューに答えて「戦争反対の女性政治家が出てくることを期待して女性にいつも投票している」と語っていたことも印象的。(逃げた関東軍も男、接待に活かせた大人も男、帰国後の彼女たちを中傷し隠そうとしたのも男。そして何より、馬鹿な戦争を始めたのは男たち。

やはり今でも「戦争は女の顔をしていない」……はずなのだが、さて、高市早苗さん、「軍拡路線」まだ続けます?)

2026年元旦、「必見だよ」と以前この映画を勧めた友人からこんな俳句が書かれた賀状が届いた。

敗戦忌まだ語られぬこと多し

《この句は、「黒川の女たち」を見て作ったものです。私も涙が止まりませんでした》とのこと。10日の新年会で彼と会うのが楽しみ。


その他、邦画実写歴代1位の興行収入を達成、社会現象にまでなった『国宝』(吉沢亮も良かったが、何といっても田中泯)。そして同様の大ヒットが期待されながら何故か動員数も興収も伸びず低迷した『宝島』(妻夫木聡、窪田正孝、広瀬すず…みんな良かった)も、しっかり心には残っているが、正直、みんな知っている映画だろうし、特に書きたいこともないので、コトノハ舎的には「選外」としたい。(ただ、同じ「宝」の付く2作品。これほど世間の評価に差が生じるとは?……私的には、テーマ重視で『国宝』より『宝島』推し。いま私たちが目に焼き付けるべきは「藤娘」より「コザ暴動」ではないだろうか)

 

以上。「勝手にコトノハ映画賞2025」でした。

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