●優秀作品賞(いずれ劣らぬ秀作揃い)
『アイム・スティル・ヒア』(監督:ウォルター・セレス/2024年製作、ブラジル・フランス合作)
監督は、チェ・ゲバラの若き日を描いたロードムービー『モーターサイクル・ダイアリーズ』などで知られるブラジルの名匠ウォルター・サレス。1970年代の軍事政権下のブラジルで実際に起きた、政権の理不尽な拷問による元議員の死と、遺された彼の妻子が歩んだ道を描いた政治ドラマ。2024年・第81回ベネチア国際映画祭で脚本賞、第97回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した。
鑑賞後、半年以上たった今でも時折、主演のフェルナンダ・トーレス(夫の失踪の真相を求め、不屈の人生を送る妻エウニセを演じた)の顔が頭に浮かぶが、それほどに彼女の印象が強烈だったという事。後で知ったことだが、フェルナンダ・トーレスの母親であるフェルナンダ・モンテネグロも老後のエウニセ役で出演していた(あまりに娘のトーレスと面差しが似ていたため、メイク技術が凄い!と勘違いしてしまった)。因みにフェルナンダ・モンテネグロは、本作と同じウォルター・サレス監督『セントラル・ステーション』でブラジル人俳優として初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた伝説的女優。
『聖なるイチジクの種』(監督:モハマド・ラスロフ/2024年製作、ドイツ・フランス・イラン合作)
イランは「神権政治(主権は神にあり)」の国だが、その本質がイスラム教ではなく家父長制にあることを暴いた傑作(映画後半、自分の家族に権力&暴力を振りかざす父イマンの狂気に目が釘付けになること必至)。トランプのアメリカ、プーチンのロシア、そして初の女性総理・高市の日本も本質的には同じようなもの(高市総理との密接な関係が取りざたされている統一教会も家父長制の構造と深く結びついている)。イマンと家族の物語は、国民の自由を抑圧し、異議を封殺する国家のアナロジーのように思えた。
『ブルース・スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』(監督:スコット・クーパー/2025年製作、アメリカ)
主演は映画『アイアンクロー』で、フリッツ・フォン・エリック(「鉄の爪」の異名で一世を風靡したプロレスラー)の四男ケリー役が印象的だったジェレミー・アレン・ホワイト。ギター、ハーモニカ、歌唱トレーニングを経て若き日のスプリングスティーンを見事に体現していた。
というわけで、『明日なき暴走』以来、“ザ・ボス”の大ファンである私的にもイチ押しの秀作だが、この映画には“ザ・ボス(アメリカの男らしさの象徴)”と呼ばれるような、革ジャン、ジージャン、マッチョでワイルド的なスプリングスティーンは一切登場しない(だからイイ!)。寧ろ、少年時代に負った深い心の傷に苦しみながら、自らの出自(主にアルコール依存症で暴力的な父との確執。それによって発した精神的苦痛)と向き合いつつ、音楽的に昇華しようとする繊細で誠実なミュージシャンの姿が映し出される。(曲作りのために借りた部屋で一人、ギターを手に悶悶としながらダーク・バージョンの『Borm in the U.S.A』等、暗い曲ばかりを生み出すブルースの姿が、たまらなく胸に刺さる)
その“暗い曲づくり”を経て、あの有名な『Born in the U.S.A』がリリースされるのだが、知っての通り、張り裂けんばかりの明るい雄叫び……でも歌詞は“ちゃんと暗い!”。その辺が、スプリングスーンの“ザ・ボス”スプリングススティーンたる所以。王様気取りの大統領や能天気な“愛国主義者”に好まれるような曲ではありません。(以下、その歌詞)
俺は「死人の町」と呼ばれる地に産み落とされた
この地に生まれ落ちたのが、蹴飛ばされ続ける人生の始まりだった
ここに来たらひたすら殴られ続ける犬のように人生を終えることになるのさ
そして人生の半分は毛布に身をくるめて生きることになるんだ
それがアメリカに生まれるってことなんだ
そう、俺はそんなアメリカって国に生まれたんだ
ああ、アメリカに生まれちまったんだよ
アメリカに生まれたのさ
故郷の町で人が集まってる場所に行ってみたんだ
そしたら連中は俺の手にライフルを持たせて
異国の地に俺を送り込んだんだ
黄色人種どもを殺してこいってな
これがアメリカに生まれるってことなんだ
ああ、俺はこんなアメリカという国に生まれた
アメリカに生まれてしまったんだ
これがアメリカに生まれるってことさ
アメリカに生まれたんだよ
戦争から故郷へと帰ってきて、精油所に職を求めて行った
でも採用者は「まあ、私に権限があるなら考えてもいいけどね」と口を濁すだけだった
それで今度は退役軍人局の担当者に会いに行ったんだが
「おまえ職の世話なんかしてもらえるとか思ってるのか」と突き放されただけだった
俺にはベトナムのケサンの街にいる兄貴がいる
ベトコンとの戦争のために行かされたんだ
だけどベトコンを退けることなんてできず、兄貴は死んじまった
兄貴にはサイゴンの街で恋仲になった女がいた
俺の手に残ってるのは、兄貴が彼女の腕に抱かれている写真だけ
俺は刑務所の影が落ちる僻地へと落ちていき
すぐそばの精油所のガスの炎が届きそうな場所で暮らしてる
もう10年もこんな焼き尽くされるような生活を続けている
逃げるところなんてないし、他に行けるところなんてないからな
これがアメリカに生まれるってことなんだ
ああ、俺はアメリカに生まれちまったんだ
そう、アメリカに生まれてしまった
俺はアメリカで長らく存在してないかのように扱われてきた男さ
これがアメリカに生まれるってことなんだ
これがアメリカなんだよ
ああ、俺はアメリカに生まれてしまったんだ
これが「ベトナムに従軍したアメリカのクールな英雄」と呼ばれてる男達の実像さ



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