2021/04/30

4月の映画メモ(&グレそうな私たち)


46日(火)グランドシネマサンシャイン池袋

『ノマドランド』(監督:クロエ・ジャオ/2020年製作、アメリカ)

アメリカにはワーキャンパー(ワークキャンパーの略)といって、キャンピングカーで寝泊まりしながら国中を移動し、広い荒野の只中にあるAmazonの倉庫などで働き日銭を稼いで暮らしているお年寄りがたくさんいるそうだ。

この映画の主人公ファーン(フランシス・マクド―マンド)もその一人。

(リーマンショックによる企業倒産の影響で長年住み慣れた家を失った彼女は、キャンピングカーに家財道具一式を詰め込み、現代のノマド(遊牧民)として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながらも、アメリカの広い大地を“ホーム”として、自由を生きる道を選んだ。というわけ……「私はホームレスじゃなくてハウスレスなの」と、行きずりの子どもに答える姿が印象的だ)

彼女を含め、家も定職もないノマドの暮らしは当然ながら不便かつ厳しいものだが、不思議なことにスクリーンから悲壮感が漂うことはない。寧ろ、行く先で出会うノマドたちとの心の交流を重ねながら、“誇り高き自由の旅”を続ける彼女の凛とした佇まい&アーティスティックな映像美に魅せられ、コチラの気分はシャキッ……

「私たちに老後なんてないのよ!自由に生きればいいじゃない!」というファーンからのメッセージだったのだろうか。エンドロールが流れた後、いつもより軽く、すっくと立ちあがれたような気がした。

※祝・アカデミー賞3冠(作品賞、監督賞、主演女優賞)。とりわけ、主人公フェーンを演じ、企画プロデュースも兼ねたフランシス・マクド―マンドに大拍手!(『スリー・ビルボード』の時も凄い女優だなあと思ったが、今回もすごかった。本作により“動く国立公園”と評されたようだが…)

413日(火)新宿シネマカリテ

『街の上で』(監督:今泉力哉/2019年製作)

舞台は下北沢。1人の青年と4人の女性たちの出会いをオリジナル脚本で描いた群像劇(&会話劇)……けっこうシリアスな作品では?と思ったが、さにあらず、ちょっとシュールなコメディといった感じ。(ずーっと、いつまでも観ていられる&聞いていられるような稀有な作品。私は好きです、こういうの)

監督は今泉力哉……これまでその作品を観たことはなかったが、心をくすぐるいくつかのエピソードを矛盾なく自然にまとめあげる構成力&台詞の間とテンポの良さは、見事の一言。(映画好きの若者たちから大きな支持を得る理由も分かる)

俳優陣は「成田凌」以外、名前も知らない役者ばかりだったが、ホントに演じているのか?と疑いたくなるほどリアルで、実に面白かった。

※上映開始までの小1時間、喫茶「らんぶる」でコーヒー&読書。数年前に購入したまま本棚の肥しになっていたミステリー『二流小説家』(デヴィッド・ゴードン著/早川書房)を、ようやく読了。謎解きとトリックが絡まり合って醸し出す不思議な世界観を味わいつつ、訳者の青木千鶴さんの才に幾度も唸らされた。

422日(木)池袋グランドシネマサンシャイン

BLUE/ブルー』(監督:吉田惠輔/2021年製作)

負け続け、夢半ばで引退し、それでもボクシングが頭から離れない男たちの物語。

主演は好漢・松山ケンイチ。テレビでの「ウチの嫁」発言により、人気俳優としての好感度を下げてしまったようだが、やはり「松ケン」! 並みの役者ではなかった。その素朴かつ哀感漂う独特の存在感にノックダウンの一本。(エンディング曲は竹原ピストル『きーぷ、うぉーきんぐ!!』、竹原本人も出演していた)

ところで、彼のように、連れ合いを「ウチの嫁」と呼ぶのは、ウチの近所の八百屋の大将もそうだが、何故か若い世代(30代~40代)の人たちに多い気がする(ちなみに私の周りにはいない)。関西お笑い芸人の影響だろうか?…(照れなのか見栄なのか、よくわからないが、家制度の名残のような、そんな呼び方、いい加減にやめた方がいいと思うけど)

424日(土)自宅にて(ネットフリックス)

『君はなぜ総理大臣になれないのか』(監督:大島新/2020年製作)

安倍政権下の2019年、国会で不正統計疑惑を質す姿が注目を集めた衆議院議員・小川淳也(香川1区・当選5期)を2003年、32歳での初選挙から17年間追い続けたドキュメンタリー。

頭も切れるし弁も立つ。そして高い志を持ち、情に厚く涙もろい。という一人の魅力的な政治家が、「総理大臣」どころか、党の要職にも付けないという政治の世界の現実……(選挙区で勝てない政治家は党内における発言権が弱く、権力欲も足りない小川は、家族からも「政治家に向いていないのでは?」と言われてしまう)

まっとうな主張よりも党利党略が優先され、掲げた理念もないがしろにされる中、その志の高さ故に苦悩する一人の政治家の姿に、多くの有権者の無関心・無投票により迷走する日本の民主主義の今が重なる。(安保法制後の国政選挙において安倍政権の圧勝を三度も許したその責任は野党のみならず、当然、私たち有権者にもあるということ)

というわけで、危機を前に右往左往するばかりで何ら打つ手の無い空っぽな政治に、自らの生命をゆだねている今こそ観るべき映画。「君はなぜ総理大臣になれないのか」というタイトルも、言い換えれば「なぜ彼のような人物を総理大臣にすることができないのか」という私たち有権者への問いかけのように思えた。

P.S.

毎週、その取材力及び権力にひるまず立ち向かう姿勢にエールを送るつもりで「週刊文春」を購読しているのだが、今週号のトップ記事の見出しは《「甘いのよ!」小室圭さんを叱った眞子さま暴走愛(全内幕)》……「やれやれ、文春よ、おまえもか!」と、一気に購買意欲が失せた。

元々皇室内の出来事に興味がないせいかもしれないが(もちろん天皇制には関心あり)、本人同士が決めた結婚に、他人がとやかく言うことが(ましてや政治家でも芸能人でもない人間へのバッシングの嵐など)、とても私には理解できない。(「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するという憲法241項の規定がある通り、親であっても天皇であっても法律的に二人を邪魔することはできない。なのに、ワイドショー好きの赤の他人が、何をうだうだ……という話。所詮、他人事だろうに)

話は変わって……つい先日、東京新聞の「本音のコラム」で文芸評論家の斎藤美奈子さんが「3度目の緊急事態宣言が発出された東京や大阪はブラック校則に縛られた学校に似ている」と言っていたが、正にその通り。以下、そのコラムより。(実に的確。皮肉もきいて面白い)。

◆要求しかしない教師

「不要不急の外出は控えて」「マスク着用の徹底」「イベントや部活は自粛」「学食は休業か時短」「禁を破った場合は罰則も検討」…学校側は生徒に要求しかしない。だが、ご自分たちはワクチンの確保もできず、検査態勢を整えることもできず、生徒に禁じた会食もし放題。「警戒が必要」式の無能な校長の説教はもう聞き飽きた。

◆体育祭は開催

そうである一方、学校側は学外から選手を招いて行う予定の体育祭に執念を燃やしているのである。「もうやめようよ」「せめて延期だよ」という生徒の声が7割を占めても聞く耳持たず。体育祭運営班は先日、大会期間中、看護師500人を確保するよう看護協会に求めすらした。保健室はもう手一杯なのに。

◆やる気を失った生徒

パチンコ店、夜の街、接待を伴う飲食店。この一年、さまざまな業種がスケープゴートにされてきた。旅行を推奨したかと思えば、てのひらを返したように県をまたぐなと迫られた。その上、気の緩みだ、コロナ慣れだと叱責された。人出が減らないっていうけどさ、変異株を校内に流出させたのは誰のせい?

感染症による死者はついに1万人を超えた。私たちはもうグレそうである。(4/28 東京新聞「本音のコラム」より)

斎藤さん同様、私もグレそうだが(否、既にグレてるか…)、緊急事態宣言下のゴールデンウイーク。どうぞ皆さんも、ほどほどにグレながら、ご自愛のほど。

GW…私自身は、仕事もあるし、映画館も閉まっているし、で、特に予定なし。桜庭一樹の小説『火の鳥 大地編』とネットフリックスで暇をつぶす感じです。



2021/04/19

酒屋談義(&セカンド・オピニオン)


とある土曜日。

「今日の夜はワイン」(と勝手に決め)。冷凍しておいたロールキャベツが少しあるので、それプラス、美味い惣菜とパンでもあればOK。と、一駅先の大泉学園にある10年来の行きつけのパン屋「Boulangerie bee(ブーランジェリー べー)」へ。(11時ちょい過ぎ到着。沿線で評判のパン屋さんだけに、店の前には既に10人程が並んでいた)

「これから映画ですか?」「いや、今日は観ずに、即、帰ります」(よく行くシネコンの途中にあり、映画の前に注文だけして、映画終了後に再び立ち寄り持ち帰るのが通常のパターン)と、顔なじみの店員さんと軽く言葉を交わしつつ、ライ麦パンとパン・ド・ミ、「グラーシュ」(牛肉をパプリカで煮込んだシチューのようなもの)&「そら豆とチーズのサラダ(生ハム添え)」などを買い、その足で、かなり立派なワインルームがある地元の酒屋(兼豆腐屋)さんに向かった。

ワインルームには既に先客がおり(年の頃70代半ばの男性)、「さて、どれにしようか?…」と吟味中の私たちに、「入口の横のカゴに入っているスペインワインが店主のオススメみたいですよ」と話しかけてきた。

それを機に「ジブラルタル海峡で、アフリカ大陸を眺めながら、スペインワインを飲むのが夢だった」という、その方と暫しの歓談。

「こんな状況じゃあ、当分の間、海外旅行なんてできそうもないし…(楽しみは)家でワインを飲むだけですよ」(彼)

「海外に行けるのは2年後ぐらいでしょうね。早くて……ちなみに、お酒はワインが主ですか?」(私)

「そうです、そうです。日本酒は、けっこう太っちゃうんで……飲んだ翌朝計ると500gぐらい増えているんですよ。その点、ワインはね、体にもいいし」(彼)

などと、日ごろの飲酒と健康に関わるあれこれを話していたのだが、いつのまにか話題は「東京オリンピック」から「ガースー総理」へ…

「オリンピックもどうするんですかね、こんな状況で…海外から観に来る人もいないんでしょ?」(彼)

「ええ、そうですよね~。もう、とっとと中止にした方がいいと思うんですけど、こと五輪になると菅さんも政府も妙に前向きで止める気ゼロ。まあ、コロナ対策もまったくダメだし、ワクチンもしくじったし、ほかに目を引く政策もないし……で、五輪まで中止にしたら(支持率が一気に下がる)…という感じなんでしょうかね」(私)

すると唐突にこんな言葉が…

「ガースーさん……あの人は悪人ですね。それに比べれば、(色々あったけど)まだ安倍さんの方が…」(彼)

「まあね~…安倍さんもいい人だとは思えませんが、確かに、お坊ちゃん的な滑稽さがあって、まだましかも。菅さんは目つき悪いし、やることも陰湿で不気味ですよね……というわけで、今や私の周りではガースーじゃなくて、単に“カス”と呼んでますけど」(私)

「えっ?カス?!…あーあ、カスね!。でも、それじゃあ酒粕に失礼じゃないですか、ハハハ」(彼)

という感じで、数百本のワインの瓶に囲まれながら、束の間の“地域交流”。

「私はコレを買います」という彼のオススメ通り、スペインワイン「ディエゴ・デ・アルマグロ(レゼルヴ)」を手に、帰路に就いた。

(で、その「ディエゴ・デ・アルマグロ」だが、とても980円とは思えない美味しさ。その出会い以来、ウチの定番ワインになりました)

P.S.

現在、食生活の改善により体重は4ヶ月で約4キロ減。炭水化物を極力減らしている分(ご飯は週1で白米+十六穀米。パンは11枚)、料理のバリエーションも増え、酒もおいしく飲めるし、腹回りのせいで穿けなくなったジーンズやパンツもすんなりだし、今のところいいことずくめ。

なのだが、そもそも食生活を変えるきっかけになった皮膚炎はどうなったかというと……

半年間の治療の効果がまったく得られず(昨年の秋口から3月上旬まで、週1ペースで通院するも悪化の一途)、それまであれこれ薬を変えて“頑張っていた”ドクターも遂に根を上げ「ごめんね」の言葉と共に、某大学病院への紹介状をしたためてくれた。

で、3月中旬、紹介された大学病院で診てもらったところ、なんとこれまでの医者の見立て違い(はっきり言うと「誤診」)が発覚。「脂漏性皮膚炎」と診断されたものが、実は「真菌」の仕業だったという……

しかも、最悪なことにこれまで使っていた塗り薬(ステロイド系軟膏)も、炎症と痒みを抑えるために飲んでいた薬も、症状をさらに悪化されるだけの代物だったという……

もう、唖然、愕然、あの野郎!!…でありました。

(結果、今回の皮膚炎と食生活はまったく関係なかったわけだが、食意識の変化をもたらしてくれた“あの野郎”でもあり、半年間、それなりに一生懸命、私と向き合ってくれたので、特に恨みはない。が、「半年分の治療費を返せ!」くらいは言いたい気分だった)

で、現在は、その大学病院・皮膚科の先生の見立て&治療のお陰で、症状は劇的に改善。皮膚の赤みも、常に気になっていた痒みもすっかり消えて、ようやく安堵の日々。(あと数回は通院する必要があるようだが)

やはり、時にはセカンド・オピニオンも必要だし、それより何より、初めから専門医に診てもらわないとダメなんだなあ、と、自分自身、反省するばかり。(ちなみに、半年間通った所は、小児科・内科・皮膚科の看板を掲げている地元のクリニック)。

聞けば、友人のお母さまも、一時はそう長くは生きられないか、と諦めかけていた頃、別の医者に診てもらった所、それまで処方されていた薬が不適応ということで、薬を変えたら、奇跡のように良くなり、一人で散歩もできるようになった、とのこと。(ちなみに現在97歳だそうで、二重にびっくり)

皆さんも、医者の見立てと薬には、ご用心のほど。

2021/04/08

いい対談。(&ジャック近影)

 

コロナ禍の中、アメリカ国内ではアジア系の住民を標的にしたヘイトクライムが増加しているという。しかも、アジア人をターゲットにしているのは白人だけではなく、黒人やラテン系の人にもいるそうだ。(私自身、NYの地下鉄内でのアジア人男性への暴力、何処かのビルの入り口前でのアジア人女性に対する黒人男性による暴力の動画が頭にこびりついて離れない)

もともと根深くあったアジア人への差別意識が、トランプの「チャイナウイルス」発言によって頭をもたげ、暴力という形で一気に表面化した……という見方が一般的のようだが、自由と平等を掲げる民主主義大国ですらこんなあり様。まったく何という世の中になっちまったんだ…と、日本のみならず至る所で社会が劇的に後退していることを改めて実感させられる。

で、コロナ感染拡大中ながら病床が一向に増えない我が日本(1年以上もの間、一体何をしていたのか!?)……金が無い無いと言いながら、東京五輪の大会費用は何と16440億円!(うち税金は9230億。一体、何にそんなに…?)。いまや「平和の祭典」でも何でもなく「経済と政治の祭典」であり「(日本では)電通だけががっぽり儲ける商業イベント」なのに、それを伝えるメディアは週刊文春のみ。(だから大会組織委員会から睨まれ「発売中止及び回収」の要求を突き付けられたりするわけだが、それを毅然として突っぱねるところが文春砲の文春たる所以)

さらには、大臣や官僚への接待疑惑が続く中、心底怪しい「デジタル庁」の設置等々(2カ月ほど前、ネットで「警察が令状なしで図書館に出向き、利用者の閲覧情報を求める事例が全国で多発」という記事を読んだが、このような思想調査が公然と行われる背景には、安倍から菅へと2012年以降延々と続く「公安出身の杉田和博官房副長官」重用体制があるわけで、「デジタル庁」もその流れと無縁ではないはず)、「ふざけたことばかりしやがって!」と、ムカつくことだらけの菅政権だが、相も変わらず内閣支持率40%超え。もう馬鹿馬鹿しくて、虚しくて……という状況だが、束の間、こんな対談を読んでほっと一息。

「最近の男は間違った思い込みを持ってるから」土井善晴が“前世代的な考え方”を一刀両断する理由(岡村靖幸 幸福への道)

 https://bunshun.jp/articles/-/44136

 

さすが「土井さん」。いいこと言うなあ。(ホント、ためになりますわ)


※家にいる日が多いせいか、愛猫ジャックと戯れる時間も自然に増している(見かけによらず、けっこう甘えん坊で、寝ている時以外はニャーニャーと私を呼んでばかり。ここ2、3日は寝床までやってきて、ゴロンと頭を並べる始末……まあ、罪のないストーカーといった感じ)。

もうすぐ9歳になるが、至って元気で(白血病ウイルスに感染しているが)、体重は5年前から不変の7キロ(かなりデカい!)。今や我が家に欠かせない家族の一人(?)であります。