2019/11/09

新富町で「小三治」



振替休日の4日、柳家小三治の独演会を観に、新富町の「銀座ブロッサム(中央会館)」へ。(今も江戸情緒が残る町。会場に着くまでの数分の間に、和服姿の女性数人とすれ違った)

普段あまり落語を聞かない自分が、なぜに「小三治の独演会」なのかというと……先日、ツレの友人のチエさんから「急な用事が入って行けなくなったんですよ。MITSURUさん行きませんかね?…」という打診があり、「(小三治なら)行くよ!」と即ノリ。4200円のチケットを2000円で譲り受け、生前の「談志」を観て以来、10数年ぶりに落語を聞きに行くことになった次第。

開演は13時。


前座の柳家三之助「のめる」が思いのほか早く終わり、1320分過ぎ、小三治登場。

「三之助に25分は話をもたせろと言ったんですが、たった18分…あいつ、20分ももたずに終わっちゃったよ。真打ち剥奪しようかな」といった調子で始まり、その後の“まくら”の長いこと、長いこと(もちろん「面白い!」ので文句なし)……

「肉弾相打つとはあのこと。もう命懸けですよ、あれは」、「分かりやすく例えるなら、大相撲の土俵だね。グラウンド全体が大相撲の土俵のようなもの。しかも、あちこちでぶつかりあってさ……で、人間のゴミの山からボールが出てくるんだから(スゴイったらありゃしない)」、「野球もサッカーもそれなりに楽しめますが、ラグビーを知っちゃうとね~…日本シリーズ?そういえば、なんかタラタラやってたなあ」等々、W杯での日本代表の戦いぶりを通じて、すっかりラグビーの魅力に取り憑かれたらしい小三治師匠、名言・珍言目白押し。未だ興奮覚めやらずといった感じだったが、極めつけは、日本代表のSH・田中史朗への「ありがとう」……

数年前、パリ空港で海外遠征中のラグビー日本代表一行に遭遇した師匠。2階の待合室に自分の荷物を運ぶのに四苦八苦していたところ、見かねた小柄な選手が親切にも「私、持ちますよ」と言って、重いスーツケースを軽々と担ぎ運び上げてくれたそうだ。その時は、何処の誰かも分からなかったのだが、W杯初戦のロシア戦、途中出場した「田中」を見て、「あっ、あの時の!」となり(師匠ひと言「そりゃあ、忘れられませんよ、あの顔は」)、さらに興奮度上昇、その後の声援にも相当な力が入ったらしい。

というわけで、まくらの〆は「ありがとう、田中!!」。

そんな話の途中、舞台の袖から「師匠、この後、(ホールには)別の催しも入っているんですから、二席やる時間がなくなりますよ。どうするんですか」という女性(マネージャー)の“厳しい声”あり。「どうするたって、そんな…アタシだっていきなり気持ちを切り替えられないよ」とぶつぶつ言いながら、ようやく一席目の『死神』を話しはじめた。

柳家小三治/「死神」(1996年)

小三治の『死神』は、TVやネットを通じて何度か聞いたこともあり、オチも分かっていたが、やはり生で聞くのは新鮮かつ格別の味わい。“まくら”で十分に盛り上げた後、スッと飄々とした死神のキャラに入っていく巧みさ・凄さ……そのくぐもるような声に導かれ、束の間、ちょっと不思議で滑稽な江戸の世にタイムスリップした気分に。(「死神」の静かな声が眠気を誘うのか、気持ちよさそうに寝ている人もチラホラ。私もついウトウト)

『死神』終了後「仲入り(休憩)」を挟んで、二席目の『小言念仏』……マネージャーの“忠告”に従い、今度は“まくら”短め。
(師匠自身は宗教とは無縁のようだが、お父上が熱心な神道の信徒だったらしく、天皇を神として崇めていたという事から、いつの間にか天皇の話に……「あの方々は、何処へ行くにも御付きの人が付いてくるんでしょ。可哀想だよね~、自由がないんだもん…江戸城から吉原あたりにまっすぐ行ける抜け道でもあればいいけど」。で、「大臣がバカなことやって何人も辞めちゃって……そのたんびに、任命責任は私にあります。って、お前が辞めろ!」と少しだけ時事話。会場は拍手、拍手、私も拍手)

何やかや10分程話した後、おもむろに左手を前に出し、右手で木魚がわりに床を扇で叩きながら、ナムアミダブナムアミダブと読経を始めた。

10代目柳家小三治『小言念仏』

床を叩く音はリズミカルだが、瞑想にふけるような表情をしながらも絶えず脇見&文句タラタラで注意散漫。信心に身が入らない様子が面白い。(信仰も長く続けていると惰性になってしまうという話のようだ…)

で、最後は、殺生を禁じているはずの仏教を信心しながら、「ざまあみろ」とドジョウの断末魔を笑い飛ばす……というオチ。そんな江戸の庶民のいい加減さが、小三治のすっとぼけた表情と重なって、実に楽しい演目だった。

独演会終了、1520分。(20分オーバー)

小三治師匠「私は落語家じゃなくて“話し家”です」と言っていたが、なるほどなあ。だって、「小三治」そのものが落語だからね~……「いやあ~、面白かった!」。と、一人、ほくそ笑みながら帰路に就いた。

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