2019/04/30

4月のメモ①(今日で平成も終わり)




4月8日(月)
いま最も好きな映画館「アップリンク吉祥寺」で(音響が素晴らしい!)、アカデミー外国語映画賞受賞作『ROMA/ローマ』(監督:アルフォンソ・キュアロン/メキシコ・アメリカ、2018年)を鑑賞。

舞台は政治的混乱に揺れる1970年代初頭のメキシコシティ。とある中産階級の家庭に訪れる激動の1年を、若い家政婦クレオの視点から描いた心揺さぶる家族の愛の物語(監督キュアロンの半自伝的作品。タイトルの「ROMA」は、一家が住む高級住宅地域の名称「コロニアローマ」からとったもの)……

ROMA」を逆から読むと「AMOR」。スペイン語で「愛」……まさに女と愛と人生の物語。遠い日の記憶を淡々と静かに呼び起こすようなモノクロの映像が美しい。ささやかな日々の暮らしに溢れる音が心地いい。また一つ忘れられない映画に出会ってしまった。(『万引き家族』が受賞を逃した理由も明白。相手が悪かったとしか言いようがない)

4月10日(水)
山本太郎が自由党を離れ「れいわ新選組」を結党。まずは、寄付とポスターで支援。(党名は元号を私物化する安倍政権に対する痛烈なアイロニー。主権在民、「新選組」が仕えるのは御上ではなく「この国に生きる全ての人々」とのこと。さすが、太郎!)

※気温6℃。4月とは思えぬ寒い一日。午後、録画していた韓国映画『愛を歌う花』を鑑賞。

4月11日(木)
東海テレビ製作のドキュメンタリー『きずあと 101歳 戦争と平和のレクイエム』(2017年放映、NA:宮本信子)を録画鑑賞。

米軍による名古屋空襲(19453月)で左目を失い、その後の人生を大きく狂わされた女性(杉山千佐子さん)が、1973年に自ら結成した「全国戦災障害者連絡会」の代表として、国に救済を求めて訴え続けた日々と、人生の終末を迎えようとしている“今”の姿をとらえた痛切なドキュメンタリー。(その傍らには、40年以上に渡り、身寄りのない杉山さんの生活を支えながら、彼女の訴えを世間に伝え続けてきた“生涯一、ジャーナリスト”元中日新聞の記者、岩崎建弥さんの姿あり)

「戦争は兵隊だけがするんじゃない!」「戦争で被害にあうのは、弱い立場の女性や子供だ」「戦争のない世界にしてほしい!」と力強く叫ぶ100歳の杉山さんの姿と、望み叶わず、気力も体力も尽き果て雑誌記者のインタビューにも嫌悪の眼差しを向ける101歳の杉山さんの姿……その落差が民間人の戦争被害者を見捨ててきたこの国の冷たさを表しているようで、深く胸に刺さった。

4月13日(土)
伝説のバンド「ザ・スターリン」を率いていたロック・ミュージシャン「遠藤ミチロウ」が、自ら監督・主演を務めたドキュメンタリー『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』を録画鑑賞。

遠藤ミチロウが還暦を迎えた2011年に行われたザ・スターリンの再結成ライブとソロ還暦ツアー、その最中に起きた東日本大震災へのアクションとして、数人の仲間と共に立ち上げた「プロジェクト FUKUSHIMA!」での活動を収め、故郷・福島と向き合いながら再び旅を続ける姿を追った“ロード・ムービー”……

“日本で一番危ないバンド”を率いた男。さぞかしぶっ飛んだ人かと思いきや、しゃべりも見た目も知的で穏やか、普通に優しいロマンチストだった。という驚き。(いい意味で裏切られたが、そのミチロウさんは現在、癌で闘病中とのこと。“復活”を心より願う)

4月14日(日)
フジTVで唯一と言ってもいい、お気に入りの番組「ザ・ノンフィクション」(毎週日曜14時~15時)。この日は、難病パーキンソン病を患いながらも、今なお街頭に立ち続ける88歳の大道芸人・ギリヤーク尼ヶ崎さんの一年間(2018年)に密着した「情念の男~ギリヤーク尼ヶ崎~」。

2018年に街頭デビュー50周年を迎えたギリヤークさんだが、パーキンソン病も悪化し、すでに体はボロボロ。もの忘れもひどく、一人では歩行もままならない車椅子の生活。10歳年下の弟さんの献身的な介護のもと都営団地で暮らしている。(老老介護のストレスを抱え、兄弟の確執も日常的のようだ)

そんな状況で全国各地の記念公演に挑むというのだから、観ているコチラも気が気でない。街頭に立って踊るなんてさすがに無理だろう……とハラハラしながらテレビの前で固まっていたのだが、見せてもらったのは、投げ銭だけを稼ぎに生きてきた芸人の心意気と、その魂の表現。
最悪の状態で迎えた新宿公演が凄かった。

「じょんがら一代」で車椅子から立ち上がり、オハコの片足立ちまで決めてみせた後、「よされ節」の途中から急に走り出し、おぼつかない足で長い階段を駆け上がってしまった……

そして踊り終わった後、声をふりしぼってこう叫んだ「母さん 勝見はしっかり踊っているよ」

泣いている観客がアップで映る画面を観ながら、私も流れる涙を抑えることができなかった。

 

2019/04/20

3週間分のメモ②




4月1日(月)
新元号が「令和」に決まった。もともと天皇制がなければ元号もないわけで、「令和」という言葉の良し悪しを論じる前に(「令」という字はイヤだけど)、メディアも国民も「天皇制」について考える、あるいは話し合う機会にするべきでは?……と思うが、今や天皇制も元号制度も完全に不問にふされた感じで、議論にすらならない。それを「象徴天皇制が国民に浸透した証」と言う人もいるが、単に多くの日本人が考えることを避けている(サボっている)だけのような気がする。(しかも、婉曲な“人権宣言”と同時に明仁天皇が発した「象徴天皇とは何か?」という切実な問いかけをも無視する形で)

だから「改元」(&天皇制)は今もこれからも、簡単に時の政治権力に利用され(安倍が長々と煩いくらいに自己宣伝)、日頃くだらない事で騒いでいるメディアも官邸の広報機関になったみたいにお祝いモード一色……
大勢の人が新元号の「号外」に群がり(新宿駅南口)、我先にと奪い合う姿にはバカバカしさを通り越して、空恐ろしささえ覚えてしまった。(「令和」には、「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ」という意味が込められているそうだが、早くも文化の末路が見えた感じ)

というわけで、特に元号を拒否しているわけでもないのに、何だか妙に寂しく気分が晴れない一日。国を挙げてのバカ騒ぎに付き合うのもイヤで、「令和」に決まった頃は、駅前のサブウェイで岡崎京子の『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』(平凡社)を読みながら、ぼんやりと、こんな一節に心を揺らしていた。

《百億万年前はきっとここは海の底だ。つまらなそうだね、こんな話。もうお終いにするけど、つまりこういうこと。風景や歴史や世界のほうがぼくらよりずっと忘れっぽいということ。
百年後のこの場所には君もぼくももういない。ぼくたちは世界に忘れ去られているんだ。それって納得できる?》

4月3日(水)
令和、令和と、飽きもせずに「改元狂騒曲」が続く中、気分転換を兼ねてツレと一緒にTジョイへ。オスカー(作品賞)受賞作『グリーンブック』(監督:ピーター・ファレリー/製作国:アメリカ、2018年)を観てきた。

人種差別をテーマにしながらも、多くの人が“「ほっこり」した気持ちになった”と評価するだけあって、主人公二人の交流に焦点を当てたヒューマンドラマとして上々の出来栄え。誰もが楽しめそうな後味の良い映画だったが、人種差別及び性的マイノリティを描いた映画を観て、「ほっこり」なんかしていて良いものだろうか?という素朴な疑問が湧いてきたのも事実。

ちなみに、車中での二人の会話シーンで妙に気になった「フライドチキン」だが、もともとは奴隷の人たちが作り上げた料理で、その文化を白人が横から奪い取った典型としてアメリカでは広く認識されているらしい。なるほど、だから「黒人なのにフライドチキンを食べたことがないのか?」という台詞なわけだ。

4月5日(金)
『神宮希林 わたしの神様』(監督:伏原健之/配給:東海テレビ放送、2014年)を録画鑑賞。
昨年9月に亡くなった女優・樹木希林が、20年に一度の式年遷宮の年である2013年に、人生で初めてのお伊勢参りに向かった旅をとらえたドキュメンタリー。

タイトル通り、伊勢神宮を樹木希林が案内する作品か……と思いきや、主役は「伊勢神宮」ではなく、やはり樹木希林。(東海テレビと樹木希林のカップリングによるドキュメンタリーは何本か観たが、いつも楽しく魅力的)
希林さんの人生観・生活観、日本人の宗教観など、独特のトーンで語られていく様を観ながら、改めて素晴らしい表現者だなあ…と思った。

2019/04/17

3週間分のメモ①

3月25日(月)
昼前に家を出て吉祥寺へ。ココマルシアターでドキュメンタリー映画『岡本太郎の沖縄』(監督:葛山喜久/2018年)を鑑賞。
岡本太郎自身が久高島で撮影した司祭主・久高ノロさんの写真をモチーフに“神の島”の神秘と魅力に迫る一作(知らなかった沖縄がここに!)。とりわけ、島の女性たちによって行われていた神事「イザイホー」の映像が圧巻。(久高島は琉球開闢の祖アマキキヨが天から舞い降りてきて、ここから国造りを始めたという琉球の聖地)

映画の後は八王子で飲み会(17時半スタート。面子はY君、O君、私)。駅ビル内の中華料理店「梅蘭」で紹興酒のボトルを2本空けた後、駅前の居酒屋で焼き鳥をつまみながら日本酒を3人で4合ほど飲んで散会。


3月27日(水)
五反田メッセで「Exhibitionism-ザ・ローリング・ストーンズ展」を鑑賞。(13時頃にツレと一緒に家を出て、15時に五反田駅改札でチケットを手配してくれたY君と合流)
展覧会と言うよりは、ローリング・ストーンズの人生とそのロック・スピリットを辿る一大テーマパークという感じ……実に刺激的で楽しく、大満足の1時間半だった。








「ローリング・ストーンズ展」の後は、五反田駅近くの大衆酒場「PING(ピン)」で一杯。“旨い・安い・感じイイ”の三拍子揃った店。お勧め上手の外国人スタッフ(アジア系)に乗せられ、会話も酒もすすんだ。(二軒目は、雰囲気もたいまさこ風の女将が一人で切り盛りしている「若ちゃん」という“おでん”の店。初めて食べた牡蠣のおでんが絶品!酒は菊正のみ)


328日(木)
ショーケンが死んだ(26日)。60歳から8年も癌と闘っていたとは……故人の遺志でお別れ会はしないという。最期までショーケンらしさを貫いて逝ったんだなあと思う。合掌。(宮台真司曰く「愛と正義のために法を破る男」は最早、日本にはいない。長く親交があった寂聴さんの哀しみもいかばかりか…)

3月29日(金)
アップリンク吉祥寺で『たちあがる女』(監督:ベネディクト・エルリングソン/製作国:アイスランド・フランス・ウクライナ、2018年)を鑑賞。
原題は「Woman at war」……まさに「戦う女性」の物語(主人公はセミプロ合唱団の講師にして、政府相手に過激な抗議活動を繰り返す謎の環境活動家“山女”)。シュールな映像と決して折れないパンクな魂に心惹かれながらの101分(心湧き立つ、あっと驚く展開も…)。で、最後は地球温暖化・気候変動への強烈なメッセージで締め括られた。(この映画、権力に対する怒りを忘れた日本人へのギフトだったのかも?)


3月30日(土)
韓国の作家ハン・ガンの『すべての、白いものたちの』(河出書房新社/訳・斎藤真理子)読了。
生まれて2時間でこの世を去った姉に捧げる「白いものたち」の物語……研ぎ澄まされた言葉が奏でる静かな音楽のように、「生」と「死」のイメージがひとつひとつの言葉として胸に沁み入ってくるような作品。久しぶりに“至福の時”を過ごさせてもらった。