2014/08/05

斬られ役の人生(『太秦ライムライト』を観て)



連日続く厳しい暑さの所為で、外へ出るのも気が引ける。お陰で、ここ1ヶ月の間に劇場で観た映画は、たった2本という寂しい有り様。(その分、『家族狩り』、『若者たち2014』に加え、録画して観ている『アオイホノオ』、『孤独のグルメ』など、TVドラマは充実一途……特にオススメは『家族狩り』と、柳樂くん主演の深夜ドラマ『アオイホノオ』)

でも、その2本が、大当たり。

まず、2週間程前に隣駅のTジョイで観た『太秦ライムライト』……「5万回斬られた男」の異名を持つ大部屋俳優・福本清三、71歳にして初の主演作だ。

物語のモチーフは、チャップリン晩年の名作「ライムライト」。年老いた道化師と才能豊かな若きバレリーナの出会いと別れ――師弟愛を超えた同志的思慕を描いた、切なく美しいラブストーリーである。(舞台で脚光を浴びる「テリー」の姿を見ながら、「カルヴェロ」が一人静かに死んでゆくラストは、名曲「テリーのテーマ」の美しい旋律と共に忘れられない名シーン)
その昔、「月曜ロードショー」の解説者だった今は亡き映画評論家・荻昌弘氏が、この映画の放映後、「私は、今日は何も言うことがありません」と前置きし、チャップリン自身の「美しさの中には、必ず哀しみがある」という言葉だけを紹介したそうだ。

そんなエピソードと「ライムライト」の中の名セリフ「人生に必要なもの、それは勇気と想像力、少しのお金だ」「死と同じように避けられないものがある。それは、生きること」などを頭に浮かべながら、舞台を100年前のロンドンから時代劇のメッカ・東映京都撮影所「太秦」に移して繰り広げられる、悲恋なき現代のライムライト、斬られ役人生50年の老優と女優志望の少女の“芸の継承”の物語に見入った。

フィルムの雰囲気は、昭和の時代劇風。勧善懲悪ものの時代劇が飽きられ、プロフェッショナルな殺陣の技もCGにとって代わられる中、一人、少ない出番に備え、木刀を振い稽古に励む寡黙な主人公「香美山」の姿が美しい。結局、映像現場に自分の居場所はなく、映画村のショーで刀を振るうだけなのだが……
そんな折、香美山は、時代劇に憧れ、彼の技と生き方に心酔する少女「さつき」と出会う。「殺陣を教えてほしい」と懇願する彼女を軽くいなし、すぐには受け入れなかった香美山だが、いつしかその直向きな思いにほだされ、自分の技と時代劇への想いを伝えるために稽古をつけ始める。そして、端役の座から、一気にスターダムへと駆け上がる「さつき」の姿を見届けて、静かに「太秦」から身を引いていく……という「ライムライト」的展開になるのだが、そこからが「太秦にはエキストラは一人もいない。いるのは表現者だけだ」という名セリフに通ずる「太秦魂」を感じさせる一ひねり。
嘗て「木枯し紋次郎」「鉄砲玉の美学」など、数々の時代劇や任侠映画を世に送り出した東映京都の重鎮、中島貞夫監督(本人)がメガホンをとる劇中劇『江戸桜風雲録』の最強の「敵役」として香美山はカムバック。その大立ち回りがそのまま映画のクライマックスとなる。

桜吹雪の中で見事に斬られ、天を仰いで崩れ落ちる「香美山」の姿、その画の美しさ。殺陣一筋に生きた老優の人生と技が体現する時代劇の歴史に対するリスペクトが込められた、この鮮やかなラストカットを観るためだけでも、暑さの中、映画館に足を運ぶ価値があるというもの。
廃れゆく「時代劇」への郷愁に身を委ねながら、「太秦」の熱い映画魂に胸を焦がされる104分。表現者「福本清三」の無垢で静かな眼差しと顔に刻まれた深い皺、その一途な生き様と際立つ存在感に拍手を送りたい。

で、もう1本の大当たり『グランド・ブダペスト・ホテル』(監督・脚本:ウェス・アンダーソン)については、いずれまた……


明日は、仕事で6年ぶりに名古屋へ(1泊)。撮影は午後2時スタート、取材は午後6時から。夜は、気心の知れた仕事仲間のNさん(クライアント)とサシ飲みになるはず。


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