先週の月曜(3日)に、新宿武蔵野館で観たフランス映画『最強のふたり』。
上映開始は14時10分、昼メシの時間も考慮し武蔵野館には1時間前に着いたのだが、チケットと一緒に手渡された整理番号は「84」(指定席無し、番号順に10人ずつ入場)。よく利用する130席程度のミニシアターだが、1時間前でこの席順というのは記憶にない。超満員になるかも……と、予想外の人気に驚きながら東口駅ビル内のレストラン街へ向かったが、案の定、食事から戻ったらフロアはすごい人だかり。立ち見も出るほどの盛況だった。
で、その盛況ぶりに応えうる映画であったかと言うと……コレが文句なしの傑作。一週間経った今も、ラストの清々しい余韻が胸に残っている。
映画の舞台はパリ、主人公は二人。脊髄損傷で車椅子生活の大金持ちフィリップ(フランソワ・クリュゼ)が、職安向けの“アリバイ作り”でヘルパー面接に訪れたスラム育ちのアフリカ移民ドリス(オマール・シー)と知り合い、障害者と健常者、雇用主と雇用者の垣根を超えて友情を育み、お互いの心の空洞を埋めあいながら、それぞれが生きざるを得ない場所で、再び生きる気持ちを取り戻していくというハートウォーミングなお話。実話に基づいた「再生の物語」だ。
といって「お涙頂戴」的なエピソードは一切なし。もちろん「身障者介護は斯くあるべき」というような説教がましい声高な主張もない(身障者介護や雇用・移民問題を背景にしているが)。全体を通してストーリーに特別ドラマチックなうねりもなく、屈託のないユーモラスな会話を軸に、心の距離を縮めていく二人の姿を淡淡と描くだけ。その分、日常と近接する「リアル」を感じ、境遇も人格も対照的な二人の会話を楽しみながら、自然にその表情の中に浮き上がる、感情や感覚の揺れを見逃すまいとスクリーンに見入ってしまう。微笑ましい二人の関係が破綻なく続くことを願いながら。そして何度も声を出して笑った後に見せられる「孤独」……その深さにお前ならどう寄り添えるのか、どう折り合いをつけられるのか、と静かに問われている自分の人生に気づく。
失った部分ではなく、残された身体と心で生きているという当たり前の姿を見よう。欲しいのは肉体的な多少の快感と日々の些細な「いい気分」の積み重ね。淋しかろうが、虚しかろうが、それだけで人生は生きるに値するもの。ユーモアこそ最大の思いやり、最良の薬。つらい時こそ笑おう、楽しい話をしよう、身近で生きる人たちと。神などいない、国家など当てにしない。「人を救えるのは、人だけ」なのだから……そんなメッセージを全身で素直に感じ取ることができる珠玉の一作。『最強のふたり』という邦題も見事にハマった。
※主演の二人の演技も感動モノ。特に、ちょっと雰囲気がダスティン・ホフマンに似ているフランスの俳優フランソワ・クリュゼ。サスペンス映画『唇を閉ざせ』を観た時から注目していたが、本当に上手くて独特の存在感のある素晴らしい役者だと思う。
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