◎映画
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月4日、Tジョイ大泉)
《カンフーとマルチバースの要素を掛け合わせ、生活に追われるごく普通の中年女性が、マルチバースを行き来し、カンフーマスターとなって世界を救うことになる姿を描いた異色のアクションアドベンチャー……》なのだが、映画を観る前にまず、「マルチバースって、何?」という疑問が……で、調べてみたところ「マルチバース」は、「マルチ(複数)」と「ユニハース(宇宙、世界)」を合成した造語(日本語では「並行宇宙」or「多元宇宙」と訳されている)で、「現実と枝分かれした世界が、どこかにあるはず」という物理的・数学的な仮説に基づいた概念のようだ。(言い換えると「どこかに違う世界があり、そこで生きる別の自分がいる」「現在の自分とは異なる他の人生を選択した自分がいる」という感じ…)。
まあ、そういう概念とカンフーアクションが合体して生まれた、かなりややこしいコメディ映画なので、多少の予備知識と想像力が必要なわけで、それなくして楽しもうとしても、何の事やらさっぱり分からず、笑えず、一人スクリーンから取り残され「何なのこの映画!?お金と時間を返してほしい!」と後悔するのがオチ(私のツレも含め、けっこうそういう人が多かったようだ)。しかし、「マルチバース」の何たるかを朧げにでも頭に入れ、多少の想像力を働かせてスクリーンと向き合えば、このビッグバン級に奇想天外で、笑いあり涙あり、ふか~い人間愛・家族愛に満ちた映像世界を存分に楽しむことができるはず。
私的には、目の前の絶望的な現実に押しつぶされそうな人々、フィジカルな暴力も言葉の暴力もない平和な世界と偏見や差別のない社会を夢想する人々、そして映画を愛する全ての人に捧げられた、オスカーにふさわしい見事な一本!に思えた。(主人公「エブリン」を演じたのは、この作品でアカデミー主演女優賞(アジア系初)を獲得した世界的カンフースター「ミシェル・ヨー」……今年、還暦を迎えた彼女の見事なアクションにも感服)
『ロストケア』(4月5日、TOHOシネマズ池袋)
医療、介護、貧困問題、自己責任(という名の暴力)等……ここ10年で大きく変化した日本の“光の当たらない場所”(及び政治不信、人心の荒廃等)を鋭く予見し、露呈させた必見の社会派サスペンス。(個人的に、今年観た映画の中でのベストワン。来年の日本アカデミー賞決定!では?)
65歳以上の高齢者が人口の3割を占めるこの国で老いを迎えることの恐怖(迫真の演技で認知症の“父”を演じる柄本明の姿は、老い先の自分を見るようでとても他人事とは思えず)……観終わってからも、心の振動が止まらないほど凄まじい映画だった。(松山ケンイチ、長澤まさみ、柄本明、坂井真紀など、渾身の演技を見せてくれた素晴らしい俳優陣に大感謝&大拍手。エンディングで流れる森山直太朗の楽曲「さもありなん」も心に沁みた)
0 件のコメント:
コメントを投稿