2018/05/31

極上のカタルシス『孤狼の血』




先日、駅前の喫茶店で本を読みながら軽くランチをとっていたところ、近くの席から世間話に興じる女性たちの声が聞こえてきた。

「加計とか森友とか色々あるけど、安倍さんは外交がお得意だから……だって他の人じゃ外交が上手くいかないでしょ」「そうですよね、外交ってモリカケより大事ですものね……でも、〇〇さんは、政治の事もホントによくご存じで…見習いたいわ~」云々。

年の頃は60歳代後半くらい、上品な雰囲気の3人組だったが(何かのサークル仲間だろうか?)、その話を近くで聞いていた私は、「なるほど。こういう平和ボケした大人たちが戦後最悪の政権の支持率を支えているわけだ」と妙に合点がいくと同時に情けないやら悲しいやら……即座にそのテーブルに近づき、「外交が得意って、なんで、そう思うの?」と問いかけた後、

ボーッと生きてんじゃねーよ! 

と、NHKの“チコちゃん”風に叱りつけたくなったが、変に関わってこれ以上世間を狭くしては家人にも申し訳ないと思い直し、その“三ボケ”の声を背中で丸めて投げ捨てながら早々に席を立った。

というわけで、529日に連続在任日数が小泉純一郎を抜いて1981日となった安倍晋三。明日61日で丁度「1984」……差別と憎悪を助長し、国民の分断を図りつつ独裁体制を維持してきた安倍にはピッタリの数字になるわけだが、嘘に嘘を重ね、この政権は一体どこへ向かうのだろう。いつまで続くのだろう。

さて、本題。

私同様、そんな安倍政権(&個人の自由と尊厳を捨てて権力に身を委ね、ひたすら組織防衛に腐心する男たちと、それを黙認するボケきった日本人)に心底ムカついているご同輩諸氏に、オススメしたい東映映画『孤狼の血』(監督:白石和彌/原作:柚木裕子、鑑賞日28日)……

原作者・柚木裕子さんは、初めて『仁義なき戦い』を観た際「脳天をかち割られるほどのショックを受け、いつかこんな熱い小説を書きたい」との思いを抱いたというが、その熱い思いが、日本ノワール復興の旗手と目される「白石和彌」の手に受け継がれ、“極限の描写”に拘る彼の揺るぎない技によって見事に結実した作品だが、スクリーンから溢れ出る男たちの脂ぎったエネルギーの凄まじさは、まさに現代版『仁義なき戦い』。(作品の舞台も「仁義―」と同じ「広島」……昭和63年、暴対法成立直前の呉原。呉原は「呉」を模した架空の街)

観るものの怒りや憎しみを頂点まで高めて一気に爆発させる卓越した演出力と、それに応えて気持ちイイほどに振りきれて迫力ある演技を見せてくれた役者陣(特に主演・役所広司と松坂桃李、そして石橋蓮司に大拍手!)に圧倒され、魅了され、あっという間の2時間超。

ギトギトした男の世界と人間の“血と汗”の匂いをたっぷりと感じさせられながらも、なぜか心地よく爽快な後味……「カタルシス」とはこういうものだ。と、一時、安倍政権への怒りも忘れ、ご機嫌で帰路に就いた。(2018年、「勝手にコトノハ映画賞」邦画部門の主演男優賞は「役所広司」で決定。作品賞は是枝監督の「万引き家族」が控えているので今は何とも……)

 

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