2017/02/16

春近し…かな?




2月とは思えないポカポカ陽気。

止まっていた明石の仕事もようやく最終コーナーに突入し、3月中には何とか片付きそうだ……と思っていた矢先、10年以上連絡が途絶えていたクライアントからパンフレット制作の依頼が飛び込み、嬉しいことにまたもや忙しくなってきた。

家では、急ピッチ(?)で独立へ動き出した愚息が「家出」の準備。既に仕事の話も来ているようで、部屋を借りる資金を貯めた後、年上の彼女と同棲生活をスタートするらしい。

5年間、無給無休で“修行”に明け暮れていたはずなのに、いつの間に知り合ったのだろう?という疑問はさておき、お互いの意思で未来へ時計の針を進めたことに、まずは祝福のエール……「良かったじゃないか、一緒に人生を歩む人ができて」と声をかけたら、「うん」と屈託のない笑顔が返ってきた。

というわけで、相変わらずイヤな事だらけの世の中だが、わが身の周りを一足早く春一番が吹き抜けたような気分。先日、埼玉に住む甥っ子からも結婚式の招待状が届いた。

一方、家族全員、無職になった「富川家」(最近ハマっているTVドラマ『就活家族』の主役一家)に、桜咲く春は訪れるのだろうか……「きっと、うまくいく」という副題がついているが、幸薄女優・木村多江と不穏な気配を漂わす新井浩文(悪徳就活塾・塾長役)を見ていると、イヤ~な予感しかしない。(それでも見てしまうのは、脚本が優れているから。実に面白い!)

 

 

2017/02/12

凛冽たり近代……『秋の舞姫』



敬愛する漫画家・谷口ジローが亡くなった。(享年69歳……早すぎないか!)

かつて夢中で読んだ『事件屋稼業』『LIVE!オデッセイ』などのハードボイルドものは、とうの昔に本棚から消え失せているが(友人にあげたか、古本屋に売ったか…)、まだ残っている3冊『海景酒店』、『孤独のグルメ』、『秋の舞姫』(「坊ちゃん」の時代 第二部)の中から『秋の舞姫』を選んで読み返してみた。

彼の絵が素晴らしいのは言うまでもないが、原作は関川夏央。主人公「森鴎外」が語る言葉の深く美しい響きが胸を打つ。

「わが心中には願望の秤がありました 秤の一方の皿に解放を主張する現実の自我(エゴ)を載せ もう一方に夢の故郷を載せたとき 自我の皿に指をかける白い優しい手があったにもかかわらず 秤は夢の方へと傾ぎました 
いまにして思えば 帰国を決意した瞬間 すでに 私の恋愛は破れていたのです 
日本に無政府主義的心情は不似合いです 日本はいまだ夢裡(ゆめのうち)にあります 夢はあたかも現実であるかのようです 
家や母という硬い殻に守られているからこそ夢は夢でありえるのです……しかし いずれ殻は破れ 夢も毀たれるでしょう 
百年ののち日本人は 無政府主義的心情の極北に達して 鉛の味する すさまじい孤独をなめるでしょう」

「私は夢の中に生き 演じる役と折合いをつけて生涯をまっとうしようと思います 夢の役をあたかも現実のそれであるかのようにこなしつつ 夜間にだけ ひとりの悩む男にたち戻って 現実をあたかも夢であるかのようにして生きるのです」

このご時世、妙に沁みる言葉の数々……表紙のタイトルの横には小さくこう記されている。

凛冽たり近代 なお生彩あり明治人

改めてご冥福をお祈りするとともに、彼が描いた素晴らしい作品の数々に出会えたことを心より感謝したい。