今年のカンヌ映画祭パルムドール受賞&ブラッド・ピットとショーン・ペンのW主演。そして生命の連鎖をイメージさせる美しい語感のタイトル……そんな魅力的なプロフィールをもつ作品にも拘らず、レビュー評価があまりに低い(でも、新聞広告のコピーは“絶賛の嵐”)。なんで?と気になっておりましたが……。
なるほど、多くの観客が納得するような分かりやすい“愛と感動のドラマ”はない。「存在」の不可思議さを生命と宇宙の相関に探る果てしない意識の旅と、神を心に抱き“どのように生きるべきか”を問いかける叙情的な映像があるだけだ。だからストーリーラインがはっきりしない。断片的に家族の生活が描かれていくので観る側の視座が定まらず、登場人物の心の内が語られても感情移入が容易にできない。さらに、冒頭のナレーションから一気に数十億年の時間を飛び越えて、生命の起源・宇宙の根源に迫ろうかというイメージ映像の連続的長さは、いきなり宗教的観念の世界へ導かれたような不可解さと居心地の悪さを伴う。
これでは2大スターによる“父と子のヒューマンストーリー”の速やかな展開&感動的結末を期待した人たちが「観る映画を間違えた!」と後悔の念を抱くのも“ごもっともな話”と理解できなくもない……が、その不満と憤りは、この難解な作品に対してではなく、配役の魅力を最大のウリに、家族の確執と和解のドラマを思わせるキャッチコピーを大量に露出させ、“誰もが笑って泣ける映画”のように、シネコン主体の大集客を目論んだ配給会社に向けられるべきものではないだろうか。(もちろん、観る側にも不実なプロパガンダに乗らない心の準備と、「騙されてもいいじゃん!」くらいの大らかさがあっていいとは思うけど)
私自身は、心惹かれる美しいシーンも多々あり、イメージ映像の連射で朦朧となった意識を何とか律しながら、監督テレンス・マリックの自伝的叙事詩、その哀感を帯びた映像が醸し出す不思議なリアリズムの世界、そして何よりもブラッド・ピットの素晴らしい演技を楽しむことができたので良し(映画を見る前は父と子の役は逆じゃない?と思ったけど、父ブラピはイヤになるほど当り!)。
ただ、この映画が意図したであろう“個人の物語と宇宙の営みの間に、どんな関係があるのか”という神秘的・哲学的な問いかけは、旧約聖書から引用される数々の言葉とともに、漠としてスクリーン上を漂うのみ。常に神(=創造的意志)の存在を思考・行動の規範に据える一神教の風土への違和感も手伝い、信ずる神を持たず世俗に生きる私の胸に迫ることはなかった。
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