2020/08/13

久しぶりに美術館へ

先週の木曜(6日)、「東京都現代美術館」(清澄白河駅から徒歩7~8分)に行ってきた。


目当ては、前から観たいと思っていた「オラファー・エリアソン」と、7月26日の東京新聞「カジュアル美術館」で紹介され、とても気になっていた岡本信治郎の「銀ヤンマ(東京全図考)」(「MOTコレクション いま―― かつて 複数のパースペクティブ」で公開中)。


チケットは、企画2展「オラファー・エリアソン」&「もつれるものたち」+「MOTコレクション」のセットで1,450円(シニア料金、65歳以上)


ということで、まずは予期せず観ることになった「もつれるものたち」から……


案内チラシのイメージとしても使われている渡辺行久『不確かな風向』(「風のエネルギーの流れによって絶えず変容する環境を示唆する」作品。とのこと)、ソウル在住のアーティスト・デュオの『(どんな方法であれ)進化する植物、トム・ニコルソン『相対的なモニュメント(シェラル)』、藤井光『解剖学教室』(福島第一原発の事故後、資料館に取り残されていたものを学芸員たちが救出したものたちを集めて展示)などが、少しだけ印象に残ったが、総じて、アートなのか、学術展示なのか、判然としない企画展。それも含めて、もつれるものたちなのだろう。と、納得。


続いて目当ての、『オラファー・エリアソン』……



まずは、ガラスで作られた美しい多面体の作品『太陽の中心への探査』(2017年)。光源がゆっくり回転することで、展示室内は幻想的な光に包まれ、まるで万華鏡の中に入ったかのような不思議な感覚に。(この光と動きは美術館の外部に設置されたソーラーパネルから電力を得て実現しているそうで、「環境への配慮」が表現のベースになっているエリアソンならではの作品)


ところで、私もこの企画展が初の「オラファー・エリアソン」体験なのだが、どんなアーティストかというと……(パンフレットの受け売りですが)

「アートを介したサステナブル(持続可能)な世界の実現に向けた試みで、世界的に注目を集めているデンマーク人アーティスト(1967年生まれ)。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として再現するその作品は高く評価されている」


というわけで、次の作品『あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること』(2000年)。白い壁に向かって色付きの光が照射されており、来場者が壁の前に立つと、さまざまな色の影が壁に映る、という仕掛け。大きく手を広げたり、足を高く上げて歩いたり、若いカップルが壁の前で楽しそうに戯れていたので、私も彼らに倣って色々なポーズで遊んでみたが……(やはり、動きに若さなく、佇む写真のみ)




で、今回、私が最も驚かされ、その幻想的な光景に、じっと見入ってしまった2作品……『ビューティー』(1993)と、展覧会のタイトルにもなっている『ときに川は橋となる』(2020





さて、最後は「MOTコレクション いま――かつて 複数のパースペクティブ」。1930年代から近年の作品まで約180点が展示されていたが、やはり、最も印象的だったのはこの絵『銀ヤンマ(東京全図考)』(1983年)



作者は、今春86歳で逝去した岡本信治郎(日本のポップアートの先駆け的存在)。

この絵が東京新聞で紹介された際の見出しは「混じり合う戦争と平和」……一東京上空に浮かぶバカでかいトンボ?と思いきや、それは巨大な銀ヤンマに見立てた、爆撃機B29。市街地に降り注ぐ無数の赤い線は「焼夷弾」が放つ火花を表しているようだ。

つまり、これは下町を焼き尽くし、9万5千を超える人の命を奪った東京大空襲の絵。なのに、パステルカラーで彩られた「銀ヤンマ」は美しく、実にクール。まったくと言っていいほど悲壮感がない。何故だろう?と思い、捨てずにとっておいた「東京新聞」を改めて読んでみた。


《岡本はかつて、自分たちの世代を「不信の時代」と表現した。戦中は軍国少年。敗戦前日まで、竹槍で米兵を殺す訓練をしていた。だが「一億層玉砕」と叫んでいた校長は、玉音放送の翌日に「民主主義社会の建設を」と言い始めた。捕虜になるぐらいなら死ぬべきで、特攻隊で若者が大勢死んだ。それが今度は「国体護持」だった。少年は「きったねえな」と思った。だからこそ「単なる悲劇的な意識で空襲を捉えるのではなく、喜劇でもあるし悲劇でもある」という視点に立った》(7/26、東京新聞より)




明後日は75回目の敗戦記念日……残りの人生、少年少女に「きったねえな」と思われる生き方だけはしたくない、と思う。


「美術館」の後は、『深川釜匠』でランチ。ざっくりネギと油揚げを、あさりと秘伝の出汁で煮込んだ「深川どんぶり」を食す。(卵黄2個入り。「これでもか、これでもか」と言うぐらいに、汁とご飯とあさりの量が半端ない。いつの間にか会話も忘れ、ツレと二人、ただ黙々と口に運ぶのみ……何とか平らげ半ば放心状態で店を出た




2020/08/10

韓国ドラマが面白すぎて、凄すぎて。


昨日(9日)は75回目の長崎「原爆の日」。哲学者の内田樹さんがこんなことを呟いていた。

《どうして日本政府は「核兵器禁止条約」に署名しないのか、いろいろ法制的・外交的な言い訳が語られていますが、一番にべもない理由は「機会が来たら核武装したい」と内心思っている人たちが政権の座にいるからでしょう。自分で自分の手を縛ることはないと思っている》

さて、本題。

新型コロナウイルス感染の流行下、見慣れた世界が一変する中、私の日常もコロナ以前とはかなり様変わり。今まで一度も観たことがなかった「韓国ドラマ」が、生活の一部になってしまった。

きっかけは世界的大ヒットとなった『愛の不時着』……(全16話。時間にすると約22時間。それを2カ月(5月~7月)の間に4回“通しで観た”わけだから、もうマニアと言うよりフリーク…否、“中毒”のレベルかも)

どんなドラマで、その何が凄いかと言うと…まずはタイトルに関わるこんなセリフから(第14話、リ・ジョンヒョクの心の呟き)

兄がいた 

彼を亡くしつらい日々を送った そして心に決めた

誰も失わない人生を送ろうと 淡々とした人生を送ろうと

未来を夢見ぬ人生を―― 黙々と送ろうと


それ以来―― ぐっすり眠ることもなく 冗談も言わず

ピアノを弾くこともなかった そして誰も愛さなかった

 

ある日 僕の世界に不時着した―― 君に会うまでは


というわけで、幕開けは偶然の事故から…《韓国財閥の令嬢で自らも起業家として活躍中のユン・セリ(ソン・イェジン)が、ある日、パラグライダーで飛行中に突然の竜巻に巻き込まれたあげく、非武装地帯(DMZ)の北朝鮮側に落下。木の枝に引っ掛かっていたところを、北朝鮮の特殊部隊中隊長のリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)が助けたことから始まる、笑いあり、涙あり、ハラハラドキドキもちろんあり!の波乱万丈・絶対極秘のラブストーリー》

なのだが、映画にしろTVにしろ、“基本、恋愛モノは観ない”自分が、何故ここまでハマってしまったのか……我ながら「どうしちゃったんだろ、オレ?」と、不思議に思うが、とにかく何度観ても飽きないし、面白いし、観ているだけで気分が良くなるのだから止められない。(正に、中毒!)。

 当然「何度観ても面白い」のは、脚本と演出の素晴らしさによるもの。「あっ、このセリフがあの場面につながっているわけだ!」的な伏線が随所に張り巡らされていて、それを発見する楽しさ、予期せず沁みるセリフの数々など、そのクオリティの高さで観る者の心を逃さない。加えて主役の二人をはじめ、ジョンヒョクが率いる中隊の隊員たち(との兄弟的なつながり)、ユン・セリが出会う北朝鮮のお母さんたち(との不思議な連帯感)、主役の二人と関わりながらドラマに深い味わいと強い余韻を残してくれる「サブ・カップル」の存在(ソ・ダンとク・スンジュン)等々、多彩なキャラクターを配したキャスティングが、これまた超絶妙。その誰もが個性的で感情表現豊か。役どころにふさわしい見事な演技で、しっかり脇を固め楽しませてくれる。その中でも主役の二人、特にユン・セリ役のソン・イェジンの演技力・表現力は感動もので、「凄いなあ、巧いなあ」と何度唸らされたことか。一躍、大ファンになってしまった。

で、さらに「観ているだけで気分が良くなる」のは何故か?

ネットの記事で「7回観た」という女性が「ジェンダー的安心感がある」と語っていたが、「なるほど、そういうことか」と思う。やはり二人の間に漂う空気感がとてもイイのだ。

旧いタイプの男と女(の恋愛)ではない「対等な男女の恋愛」……決して自分の考えを押し付けることなく、お互いを心から思いやり、(南北に引き裂かれる状況下)全身全霊、愛する存在を守ろうとする二人の姿そのものが、観る側の“心地よさ”を誘う強烈な磁力となって全編に行き渡り、ドラマの魅力を一層押し上げている気がする。(それ故、私たちの感性と理性もより解放された状態で、二人(の純愛)と向き合うことができ、その壮大なファンタジーに心置きなく酔いしれることができる…というわけだ)

その意味で『愛の不時着』は、「フェミニズムが盛り上がっている」と言われる韓国エンタメ界が目指す方向性がはっきり表されたドラマであり、そこに私たちが見慣れたステレオタイプな男女(の恋愛)など出てくる余地はない。だからこそ「心地よい」し、“基本、恋愛モノは観ない”はずの自分もどっぷりハマったのだと思う。

ということで、今日の〆は、前出の“リ・ジョンヒョクの呟き”と対になる、第5話でのユン・セリの印象的な台詞と、IUが歌う『愛の不時着』のOST『心を差し上げます(Give You My Heart / 마음을 드려요)

https://www.youtube.com/watch?v=7PjmLRG0UyU

インドではこう言う

“間違って乗った電車が時には目的地に運ぶ”

 

私もそうだった

私の人生は―― 乗り間違いの連続

だから一度は途中で 全て投げ出したくて

どこにも行きたくなくて―― 飛び降りようとした

 

でも今の私を見て

とんでもない乗り間違えで、

なんと38度線を越えちゃった

 

でもね

思いどおりにいかなくても―― 将来を考えてみて

私は 私が去ったあとも―― あなたには幸せでいてほしい

どんな電車に乗っても――  必ず目的地に着いてほしい


P.S.

その他オススメは、『愛の不時着』の挿入歌を歌った歌手「IU」と、映画『パラサイト』にも出ていた俳優イ・ソンギュンがダブル主演を務める『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(ソウルの下町を舞台にした、社会派ドラマ。タイトルからして、とても地味に見えるが、出てくる町に、店に、部屋に、仕事場に、人の情けが沁み込んでいるような、実に奥の深い感動作……にしても、韓国の俳優は皆、素晴らしい!と唸りっぱなしの全16話)

そして、もう一つ。イ・ビョンホン主演の『ミスター・サンシャイン』(全24話)。舞台は20世紀初頭、李朝末期の漢城(現ソウル)。自国朝鮮の主権を守るために「日本軍」と戦う義兵たち(その中に、ヒロイン「コ・エシン」も)と、朝鮮に生まれながら身分的迫害により「奴婢」の両親を失い、幼くして国を逃れ、黒髪の米軍将校として母国に舞い戻った「ユジン・チョイ」(イ・ビョンホン)、そして、それぞれのアイデンティを賭けて戦う人々の物語。(言うならば、名もなき者たちの抗日戦争史。その中に、笑いあり、涙あり、LOVEあり……私的には「コ・エシン」役の女優キム・テリの魅力に圧倒&メロメロ。「いい役者は、顔のみならず、声がいい!」と改めて思った)