「すべてはエルヴィスから始まった」――ジョン・レノン
エルヴィス・プレスリー没後、その誕生日(1月8日)に合わせて、毎年行われてきた「エルヴィス生誕祭」(TRIBUTE TO
ELVIS)が、1月11日(土)に日本橋公会堂で開催された。
(生誕祭は、2本のフィルム上映と湯川れい子さんのトークショーによって構成。私は去年に続いて2度目の参加)
開演12:00。司会はラジオ日本の「THIS IS ELVIS」(毎週火曜深夜)でDJをつとめるビリー諸川。彼の軽妙かつ歯切れ良い挨拶の後、『ELVIS’56』の上映がスタートした。
このフィルムは、エルヴィスの人気が沸騰した1956年にテーマをしぼり、映像と画像で若き日のエルヴィスの魅力を紹介したもの。時に、エルヴィス21歳(ちなみにジョン・レノン16歳、ボブ・ディラン15歳、ミック・ジャガーとキース・リチャーズ13歳)……
「ミシシッピなど南部のブルースが、エルヴィスの音楽の根底にある」というのは言わずもがなのことだが、当時、深刻な人種差別問題を抱えていたアメリカにあって(キング牧師が全米各地で公民権運動を指導していたのもこの頃)、黒人音楽のビートとダンスを白人の音楽であるカントリー&ウェスタンに掛け合わせたようなエルヴィスの音楽は、言わば“ご法度”もの。保守的な大人たちの猛反発にあい弾圧運動が展開されていったわけだが、それを跳ね除けブームを拡大していく若者たちのエネルギーが眩しいほど目に飛び込んでくる(特に若い女性)。そんな時代の熱い風を感じながら聴く、若きエルヴィスの歌声もまた絶品。ゾクゾクしっぱなしの1時間だった。
上映終了後、10分の休憩を挟んで、「アカプルコの海」に合わせたという赤いウールのジャケット&ロングスカートで、エルヴィス“命”の音楽評論家・湯川れい子さんが登場。エルヴィスの死因が、当時から語られてきた「処方薬の極端な誤用による不整脈」ではなく、実は「メガコロン(巨大結腸症)」だったということなど(検査で飲んだバリウムが排泄されずコンクリートの塊のように残っていたそうだ)、興味深い話を15分ほどされた後、ゲストの尾藤イサオさんを席に招いて恒例のトークショー。
観客への挨拶も早々「先生には、いつも本当にお世話になって」と、湯川さんに語りかけた尾藤さん。「この前も、ポール・アンカのチケットを、本当にいい席を取っていただいて…」とつないだ所で、「ポール・アンカじゃなくて、ポール・マッカートニーでしょ!」と、湯川さんの速射砲を受け、椅子から飛び上がり敢え無く撃沈。会場大爆笑。
にしても、「尾藤イサオ」が、もともとは寄席芸人(曲芸師)を目指していたとは(10歳の時から芸人さんの内弟子になって修行を積んでいたそうだ)……しかも、修業の終わる6年目に、買い物帰りの道すがら蕎麦屋の暖簾の奥のラジオから流れてきた「ハートブレイクホテル」に衝撃を受け、寄席芸人になるのをやめてロカビリー歌手を目指すことに決めたと言うのだから二度びっくり。まさに、エルヴィスなくして「尾藤イサオ」なし。「そうですね。あの時代は、エルヴィスでしたね……」と語りつつ、当時の記憶が胸に去来したのか、感極まって言葉が詰まったのもナットク。
そんな彼が、「1960年にアメリカに渡り、メンフィスのエルヴィス邸の門の前で写真を撮ってきた」というエピソードを明かすと、湯川さんも初耳らしく「えっ、メンフィスまで行ったの!?、だって16か17の頃でしょ!?」と目を丸くしながら、「スゴイ!」と感激していた。
そしてトークショーの〆は、尾藤さんが歌うエルヴィス・ナンバー。サン・レコードでのデビュー・シングル「ザッツ・オールライト・ママ」と「ワン・ナイト」を御年70歳とは思えないパンチの効いた声で歌いきった。
で、何の話からそういう流れになったか覚えてないが、湯川さんの今年の抱負はトークショーでのやり取りで突然決まった「尾藤イサオ、エルヴィスを歌う」というライブを実現することと、東京都知事選での細川・小泉の脱原発タッグの応援活動だそうで……
「東京から脱原発を!」と、赤い気炎を揚げながら颯爽と華やかに会場から去って行った。
それから再度の休憩を挟んで、キング・オブ・ロックンロールのステージ完全復帰を描いた代表的ライブフィルム『エルヴィス・オン・ステージ』(1970年公開)の上映スタート。歌い終わりの指示を何度も出す真剣なリハーサルシーン、楽屋での茶目っ気たっぷりな姿など、貴重な映像に目を凝らしながら2時間近く、70年代のエルヴィスの豊かで深いヴォーカルとサービス満点の派手なステージアクトを堪能した。(特に、バンドに「忘れたの?」と演奏を促しながら、突然歌い出した「ワン・ナイト」がグー!)
ただし、ライブの舞台は「ラスベガス・インターナショナル・ホテル」。ロック・コンサートというよりは、お金持ちセレブが集まったディナー・ショーといった雰囲気で、その点、イマイチ乗り切れない感もあったが。
とはいえ、4時間の長丁場ながら、中弛みも疲れもなく気持ちよく楽しめた「TRIBUTE TO ELVIS 2014」。
主役はもちろんエルヴィスだが、安い入場料でもないのにこれだけ多くの人が集まるのは、湯川れい子さんの存在によるところ大。年一回、彼女の溌剌とした姿を目に留め、永遠のスーパー・ミーハーぶりにエールを送りながら、その若々しい声が彩るトークショーを楽しむだけでも、出向く価値があるというもの。来年も、ぜひ!