2月5日(金)Tジョイ大泉
『ヤクザと家族 The Family』(監督・脚本:藤井道人/2020年)
あの『新聞記者』(2020年、日本アカデミー賞・作品賞受賞)でメガホンをとった藤井道人監督の新作だが、私的には『新聞記者』以上の傑作。1992年の暴対法施行後(2009年には暴力団排除条例が制定)、「反社会勢力」として徹底的に追い込まれ、食うことすらままならない存在となった「ヤクザ」の“今”、その“消えゆく生き方”を、見事なまでに哀しく、優しく、圧倒的な熱量で描き出した藤井監督のふり幅の広さ・凄さに只々驚嘆するばかり。
(東海テレビ製作のドキュメンタリー『ヤクザと憲法』が描いた“反社会であるが故の人権喪失”……その過剰なまでの締め付けの是非を観客に考えさせるという意味でも稀有な作品)
役者陣も実に魅力的で素晴らしかった。とりわけ主演の「綾野剛」!!(若きアウトロー「翼」を、クールに熱い眼差しで演じた「磯村勇斗」にも拍手!)
※常田大希プロデュースのソロプロジェクト「millennium parade(ミレパ)」が書き下ろした主題歌「FAMILIA」も絶品!(ゆっくりと静かに、胸の奥から熱い感情がこみ上げてくるような一曲。ぜひ“一聴”あれ)
https://www.youtube.com/watch?v=QyZDoDTB6cQ
2月12日(金)Tジョイ大泉
『すばらしき世界』(監督・脚本:西川美和/原案:佐木隆三/2021年)
《下町の片隅で暮らす、短気だが実直で情に厚い男は、実は人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れた男が出会う、新たな世界とは――》とパンフレットのイントロにも書いてある通り、殺人罪で13年の刑期を終えた主人公・三上(役所広司)が、不寛容と善意が入り混じった今の日本で、職探しに七転八倒しながら(&怒りの衝動を必死に抑えながら)、社会復帰への道を辿ろうとするのだが……というお話。
前述の『ヤクザと家族』もそうだが、コロナ禍というのに(否、コロナ禍だからこそか?)、こんなに素晴らしい作品が連続的に上映されるとは……ここ数年、ほとんど観る気も起きなかった日本映画界に、一体、何が起きているのか?と不思議に思うが(何十年に一度の“当たり年”かも?)、全ては監督と脚本と役者の力。韓国にポン・ジュノ、ソン・ガンホがいるように、日本には西川美和、役所広司がいる。そう強く感じさせてくれる作品だった。
後日、改めてパンフレットを読んでみたら、「人間を信頼するとはどういうことか」と題するフリーライターの武田砂鉄氏のこんな一文が…
《不寛容な時代だと言われる。でも、人は一回しか生きられないのだから、他の時代としっかり比較できているかと問われれば、だいぶ怪しい。人はずっと不寛容なのではないかという仮説を立てて、そこから寛容への道を探る方がいいのだろうか。三上は何度も人を裏切る。同時に、何度も人を助ける。その行動を〇と×で表せば、×→〇→〇→×→〇→×→×→〇→×みたいな感じだろうか。最終地点が×ならば、やっぱりこいつは×なんだと言われ、その時点が〇でも、いやでもこいつ、ちょっと前まで×だったんだぜ、と言われる。
こうなると、この人がずっと〇でいられるのは困難で、この人をいつまでも×だと判断する人を減らさなければ、永遠に×のままだ。目の前にやってきた人に自分は〇であると証明し続けなければいけない人が、何度かの×ですべてをひっくり返してしまう。
当人も、周辺の人も、〇か×かを決めるばかりで、〇がどのような輝きをしていたいかを見つめようとしない。でも、その輝きを見つめることこそが一人の人間を救うかもしれない。この映画は、その〇の輝きを教えてくれる映画だ。たとえ×が増えても、〇の輝きを信頼する。それはつまり、人間を信頼しているってことなのだ。ただ、本当に最後まで信頼できたのかどうか、信頼してくれたのかどうか。答えは定かではない。》
2月17日(水)Tジョイ大泉
『天外者』(監督・田中光敏/2020年)
「7回観に行った」という故・三浦春馬ファンの義姉の勧めにのった連れ合いに、私ものって、早朝の映画館に出かけたのだが、折角、2週連続して素晴らしい邦画を観た後に、これですか……と、がっかり。(主演・三浦春馬の熱演と、遊郭の女将・かたせ梨乃の迫力以外に見るべきものはなし。これがキネ旬読者選出邦画1位とは……唖然、愕然、口あんぐり。心底嫌いな「大阪維新の会」代表・吉村洋文と「日本維新の会」代表・松井一郎のダブル・エキストラ出演も作品のアホらしさに拍車をかけた感じ)
ご都合主義の極みのようなストーリー展開に、深みの無い陳腐な台詞の数々(「誰もが夢を持てる世の中(を作る)」など、五代友厚をはじめ岩崎弥太郎、伊藤博文、坂本龍馬など維新の立役者を美化する得体の知れない“夢”のオンパレード)。その「維新バンザイ、五代サイコー!」「誰もが夢を持てる国“ニッポン”すごい!」的な能天気さに、辟易とさせられしまった。
なのに、映画終了後、館内は拍手の嵐。多くの人たち(特に中高年女性たち)による故・三浦春馬への称賛と惜別のエールだと思うが、贔屓の引き倒しとは正にこのこと。自分とのあまりの温度差に寒気を覚えながら、思わず「気持ち悪っ!」と、声が出てしまった。(私がもし熱烈な三浦春馬ファンなら、これが遺作となったことを、とても残念に、また気の毒に思ったはず…というわけで、映画を観ての感想は義姉には伝えないことに)
2月23日(祝)新宿文化センター
『山下洋輔スペシャル・ビッグバンド・コンサート2020(+1)』
バンド結成15年の集大成として、昨年の7月に開催される予定だったコンサートの延期公演、開演は18時(ちょい過ぎ)。文化センター前で友人夫婦(YAMADA君とMARIちゃん)と待ち合わせ、手配してもらったチケットを受け取り会場へ。
コロナ禍の中、座席は一つ置きだが、私たちと同世代と思われる多くの男女で、ほぼ満席状態。さすがに大声で話す人や歓声を上げる人はいなかったが、みんな楽しそうに体を揺らし、短い歓声と強い拍手で、2時間弱のビッグバンド演奏を楽しんだ。
(演奏曲は「組曲“山下洋輔トリオ”」「ドヴォルザークの交響曲“新世界より”」、そして、ベートーヴェン生誕250年を記念した「ピアノソナタ“悲愴”」。アンコール曲は、山下洋輔曰く“鉄板”の「A列車で行こう」)
コンサート終了後は「腹も空いたし、折角、久しぶりに会えたのに、このまま帰るのも…」と、4人で電車に乗り1駅先の新宿三丁目へ。
緊急事態宣言再発令の間際、『報道1930』(BS TBS)への生出演(中継)&怒りの政権批判で、一躍“時の人”となった居酒屋店主・田村彰夫さんが営む「鳥 田むら」で、焼き鳥と焼き野菜の盛り合わせを食べながら、小1時間ほど(ビール1杯、焼酎お湯割り2杯)、ほぼ1年ぶりのささやかな“外飲み”を楽しんだ。(日頃感染対策に抜かりない4人。消毒・マスクに気を配りつつの飲み会だったが、それでもやはり、警戒心ゆえか、時折、コロナ禍の生活に慣れた体が委縮する感じになったのは仕方なし)